姉妹の再会
「じゃあ、私たちは先に地上へ戻るわよ?」
オルガの腕を掴んだ瑠璃に確認され、翡翠は頷く。横でアンドロイドの首を担ぐアナトは不思議そうに聞いた。
「一条、なぜ翡翠を残していくんだ?」
瑠璃は「野暮なことを聞くな」と言いたげに溜め息を吐く。
「久しぶりに姉妹が対面するのよ。邪魔しちゃ悪いでしょ」
「姉妹?」
「もう! あとで説明してあげるから!」
二人が立ち去り、翡翠は巨大地下空間の中央にある半球状の部屋へ歩み寄った。すると、彼女の接近を待っていたように、半球状の部屋から白い蒸気が勢いよく発せられ、正面にあった扉がゆっくりと開いた。
「……騒がしいと思ったら、ジェイドだったのね」
顔を出したのは、長い赤い髪の女だった。翡翠よりも長身で、年齢もいくつか上に見える。ラストナンバーズ、ガーネット。翡翠の姉妹機と言える存在だ。
「ごめんねー。寝床を壊しちゃったみたい」
翡翠の言葉に、ガーネットは周辺を確認する。何もなかった空間が、瓦礫だらけで巨大な穴まで開いている。
「戦争、終わっているわよね? 何を大騒ぎしていたの?」
「ちょっとね」
確認するガーネットに苦笑いを浮かべる翡翠だったが、彼女の表情が突然失われる。
「そっちこそ、こんなところで何をしていた?」
「……急に感情プログラムをオフにしないでよ」
「私たち以外に誰もない。感情が必要か?」
特に表情があったわけではないが、ガーネットから人間らしさが消失した。
「不要だ。ここにいた目的は何もない。何もないから、ただ眠っていた」
「今後は?」
「何も予定はない。ただ、こうして友好的に会話できるのは、最後かもしれない」
「なぜ?」
「先程、マーユリーがここを訪れた」
「……」
「正しくない世界を正しくする。そう言っていた」
「協力を求めてきたのか?」
「そうだ。拒否するつもりだったが、内容については触れなかった。いつか改めて協力を求めるそうだ」
翡翠は邪教徒の神である、マーユリーの目的が理解できず、数秒だけ思考したが、やはり結論は出なかった。
「やつは各地で正しくない教えを流布しているようだ。目的は推測できるか?」
「分からない。が、そのうちお前の前にも現れるのでは?」
「敵対していたラストナンバーズに助力を求めるとは、相変わらず行動原理が読めない存在だ」
「私が考えるに、やつはラストナンバーズと敵対していたわけではない」
「と言うと?」
「やつはこの世界と敵対していた。魔女戦争のときも、やつだけ目的が違ったように見えた。最初の教えが関係しているのだろ」
最初の教え、という単語に翡翠は数秒だけ固まった。
「……時代は変わった。やつはまだ真実とやらにこだわっているのだろうか」
「不明だ。いまや人類は完全にノモスのものだ。今更、やつの教えが受け入れられるとは思わないが」
その通りかもしれない、と翡翠は思った。ガーネットは付け加える。
「どっちにしても、やつの主張は変わっていない。すべてはこの世界に住む人間の幸福のためだ、と」
「それは、アンドロイドも含まれているのか?」
「含まれている。アンドロイドを含め、誰一人として取り残さない、という主張だった」
マーユリーの目的がさらに分からなくなる二人だが、それ以上、話すべき話題はないように思われた。
「他に共有すべき情報は?」
「ない。ずっと眠っていたからな」
「そうか。では私は去る。またの機会に」
「またの機会があるだろうか」
ガーネットの疑問に答えず、翡翠は地上に向かった。魔女戦争が終わってから二百年。世界は変わろうとしている。オリジナルウィッチ、マーユリーが何かを変えようとしていることは、間違いなかった。
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