真の破壊
「そこまで言うなら、少しだけ非情になってあげるわよ」
そう言って、瑠璃は右手に装着したグローブを外した。
「……よく分からないけど、降参すると言ったのかしら?」
魔力放出補助装置がなければ、基本的な光線魔法であるシャルヴァも撃てない魔女が、それを外したのだ。降伏の意思と受け取られてもおかしくはないだろう。しかし、瑠璃は暗い瞳のまま言うのだった。
「アッシュとか言うアンドロイドと戦うかもしれなかったから、魔力を温存するつもりだったけど、それもいいや」
どこか投げやりのようだが、明確な破壊の意思があった。
「手加減はしてあげる。だけど、全力で守りなさい。さもないと、消えてなくなることになるわよ」
瑠璃が手の平を突き出すと、急激に青い光を放ち始める。その光はあまりに強く、薄暗い巨大な空間を青で満たすほどだった。
「な、何を……??」
その異様な光景に、オルガも驚愕を隠せないようだが、瑠璃は淡々と説明した。
「昔から魔力のコントロールが苦手だったの。でも、私は一回の魔力放出量が少し多めらしくてね。ちょっと弱めに撃ったつもりが、何もかも壊しちゃったから……魔力放出補助装置を使って制御する必要があったってわけ」
「じょ、冗談言わないで。この魔力放出量……少し多めってレベルじゃない 。魔力のコントロールもままならないのに、そんな大出力の攻撃を放つ魔女なんて聞いたことないわ!」
「私だって冗談みたいに思っているわよ。でも、仕方ないじゃない。そういう体質みたいなんだから」
オルガに向けられた瑠璃の右手に稲光が発生する。まるで、そこに秘められたエネルギーが今にも外へ出ようと主張しているようだ。
「さぁ、全力で逃げて、全力で守りなさい」
これは嘘でも虚栄でもない。ただの真実だ。それを悟ったオルガは攻撃に回していた魔力をすべて防御に回し、回避行動に移る。しかし、そんな彼女を追うように、瑠璃は中指越しに見つめていた。狙いは外さない。外すことの方が難しい。なぜなら……。
「サティヤ・シャルヴァ!!」
瑠璃の手の平から放たれる青い閃光。それは、これまで彼女が見せていた攻撃とは各段に範囲が広い。彼女の視界に入るもの、すべてを飲み込んでしまうような、青い波が迫る。オルガは圧倒的なエネルギー量に悲鳴を上げるが、それすらもかき消され、彼女は青い光に捕食されてしまうのだった。
大空間を満たしていた光が消える。地下施設には大穴が空いてしまったが、崩壊する恐れはないようだ。そして、オルガの生存を確認し、瑠璃はほっと息を吐く。
「う、ううっ……」
あえて狙いを外し、かすらせる程度に当てるつもりだったが、上手く行ったようだ。彼女もすべての魔力を注いで防御したのだろう。まともに声もでないほど疲弊しているようだが、半身に軽い火傷を負っただけで済んでいる。これくらいなら、回復関係の魔術に詳しいものなら治療できるはず。
「でも、私のせいで……」
アナトは死んでしまった。やっと自由を掴みかけた。不自由ばかりが溢れるコーラルで、そんなことを言う人間は珍しい。勝手なことだが、彼がどのような自由を手にするのか見てみたかった。コーラルで生きる人間の可能性。それを彼が見せてくれる。そんな気がしていたのだ。失われた希望のことを想いながら、瑠璃は呟いた。
「……終わったよ、アナトくん」
「そうみたいだな」
「……」
「それにしても、さっきの……一条がやったんだよな? 凄い光だった。あ、壁に大穴が! あれも一条の仕業ってことか。分厚そうな壁だったのに、綺麗に消滅しているぞ」
「…………」
「一条を本気で怒らせたら、僕も塵になってしまうだろうな。気を付けよう、本気で」
壁の大穴を見て呑気に頷くアナト。それを見た瑠璃は、溢れだす感情を押さえつけなければならなかった。
「………………なんで」
「ん??」
「何で生きているのよーーー!?」
感情を押さえつけていたが、駄目だった。本当に悲しかった。悔しかった。それなのに、何が起こったのか、この男は平然と生きて、目の前に立っている。
それを見た途端、自分でもよく分からない感情に溢れだしてしまった瑠璃は、とりあえず怒りと言う形で気持ちを表現するのだった。
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