プロローグ④ アナトと魔女
「……分かった。そこまで言うなら、無理に取り上げることはしない。でも、貴方あの二人をどうやって見つけるつもりなの?」
「……」
当然の質問にフリーズしてしまうアナト。その辺りは少しも考えてなかったらしい。それどころか、無邪気にこんなことを聞いてくる。
「一条、どうやって探せばいいのか、心当たりはないか?」
「あんた、さっき私のこと信頼できないって言ってなかった?」
そんなやつに助けてもらおうとするな、と瑠璃は腹を立てるが、アナトに「手を貸してくれる人間は一人しかいない」と言った目で見られると、呆れながらも彼女の方が折れるしかなかった。
「あの二人は祈りを捧げるために、ノモスの端末にアクセスしたはずよ。その履歴を追えば、二人の行き先が分かるかもね」
「そうか。……ありがとう。じゃあ、僕はノモスの端末を探すから」
「どこにあるか知っているの?」
「……」
「ちなみに、ノモスの端末は魔女かアンドロイドしかアクセスできないわよ?」
俯いて考え込んでしまうアナトだが、すぐに結論を出したらしく、顔を上げてこちらを見つめてくる。ただ、瑠璃には彼が何を言うか分かっていた。
「一条、協力してくれそうな魔女かアンドロイドを紹介してくれないか」
やっぱり……。少しずつこの男の馬鹿さ加減を理解できてきた、と瑠璃は再び溜め息を吐く。
「あんたね……」
こうなったら、がっつり説教してやろう。そう瑠璃は口を開きかけたが、嫌な気配を察知する。気付けば、アナトも後方を見て眉を寄せていた。瑠璃が振り向くと、無感情な顔つきの男が一人、こちらに歩いてくるではないか。あの不自然な振る舞いは、前期型アンドロイドに違いない。瑠璃は声を張って男に質問を投げかける。
「貴方、邪教徒のアンドロイドね? さっきの二人の祈りを成就させるため、私の邪魔をするつもりかもしれないけど、やめておきなさい。邪教徒なんか続けても、良いことないわよ」
アンドロイドの男は、瑠璃の質問を無視するかと思われたが、無表情のまま答えた。
「邪教徒ではない。マーユリー教だ」
意思がないように見えるアンドロイドだが、どうやらそこは譲れないらしい。だが、そんな彼の主張を瑠璃は鼻で笑ってみせた。
「正しくない教えを広める魔女を神と崇めるやつらが邪教徒じゃなければ何なのよ。文句ある?」
「……キーを渡せ」
問答は諦めたのか、アンドロイドの歩みが速くなる。完全に実力行使に出るつもりだ。
「一条、危ないんじゃないか?」
さすがにこの馬鹿も状況を理解しているらしい。瑠璃は動揺するアナトが滑稽で少し愉快な気持ちになりながら答えてやる。
「危ないわよ、アンドロイドが襲い掛かってきているんだから」
「じゃあ、逃げた方がいいんじゃないか?」
「ふん、あんたも男なんだから守ってやるくらい言えないの?」
瑠璃の挑発に、アナトもムッとしたようだ。
「言うだけなら簡単だ。でも、争いごとは嫌いなんだし、無責任なことも言いたくない。だから、まずは逃げよう」
脅威から逃れるため、アナトが手を取ろうとするが、瑠璃はそれを振り払う。
「別に逃げる必要もないし、守ってやるなんて言わなくても結構。そこで見てなさい!」
瑠璃がアンドロイドに向かって飛び出す。しなやかに駆ける彼女は、距離を詰めようとするアンドロイドを見下ろすほど高々と跳躍すると、爪先が青い弧を描きながら、回し蹴りを叩き込む。
それはアンドロイドの頭部を弾いたが、強靭なボディを破壊するには至らず、着地した瑠璃に反撃を試みようと左手を伸ばしてきた。しかし、彼女も素早いバックステップでそれを避けると、同じように手を伸ばす。
「破壊!」
叫ぶと同時に、彼女の右手に装着されたグローブが輝き、手の平にある青い球体を中心に光が集まる。そして、放たれた青い閃光が、アンドロイドのボディを貫いた。
胸に大穴が開いたアンドロイドが、糸の切れた人形のように崩れると、瑠璃は振り返ってアナトを見る。
「魔女を紹介してほしいって言ってたわよね……」
そして、微笑みながら得意げに言うのだった。
「優秀な魔女ならここにいるけど……どうする?」
初めてチャレンジしたSF作品です。
「悪くないじゃん」と思ったらブックマーク登録お願いします!