再びの共闘
「確かに、格闘戦では貴方の方が上手のようね」
オルガは立ち上がりながら、瑠璃を評価する。
「昔から魔力コントロールよりも、体を動かす方が得意なの」
勝ち誇ってみせるが、それで負けを認めるオルガではない。
「しかし、私たちは魔女よ。決着は魔力戦でつけるべきじゃない?」
「まぁ……そうかもね」
同意を得た、と言わんばかりに微笑みを見せると、オルガは赤い球体を無数に発生させた。今までであれば、落ち着いて数えれば、その量を確認できたかもしれない。が、今度はあまりに数が多く、まるでオルガの前に赤い壁が発生したかのようだ。
「これを捌き切れるのなら認めてあげるわ。コーラルの魔女さん!」
壁から次々と赤い球体が放たれる。
「シャルヴァ!」
瑠璃は魔力光線で球体の迎撃を試みるが、いかんせん数が多い。いくつかは光線を受けて爆散するが、それを上回る数の赤い球体が瑠璃の横側に回り込んでくる。
「だったら、本体を狙えば!」
球体の攻撃から逃げ回りながらも、一瞬の猶予を作って魔力光線を放つ。それは赤い壁を爆散させつつ、オルガの元へ届いたと思われた。
「あははっ、もう少し頑張りなさい」
しかし、瑠璃の攻撃を妨げるのは、赤い球体群だけではない。彼女は自分の周辺に防御魔法を展開することだって可能なのだ。
「くそ、これじゃあ近付くこともできない!」
格闘戦ならば勝機はある。だが、先程のように向こうから接近してくることはないだろう。
「って、やば!!」
次の作戦を考えている間に、瑠璃は赤い球体に囲まれていた。
「防御魔法は苦手なんだけれど!!」
それでも、やらないよりはマシだ。回避しつつ、自分の周辺に魔力を張ると、青い膜のようなものが作られる。オルガの攻撃が爆発を生み、瑠璃の体を巻き込んで、炎が広がった。それでも、防御魔法のおかげで大事には至らなかったが……。
「いったぁ……」
防ぎきれなったらしく、左の肩から血が流れている。
「一条、大丈夫か!?」
しかも、苦し紛れに逃げ込んだ場所は、アナトが隠れていた場所らしい。
「何とかね……。でも、少し分が悪いかも」
「僕に……何かできることはないか?」
「敵がセキュリティのドロン程度なら手伝ってもらったけど、魔女相手は無理。足手まといだから下がってて」
「嫌だ」
「……はぁ?」
正気を確かめるようにアナトを見るが、彼の目は真剣である。いや、この男はいつだって真剣なのだ。
「このまま一条が追いつめられて、やられるところを見ていられるか。僕だって何かやってみせる」
「ふーん……。死ぬかもしれないわよ?」
「一条だって死ぬ覚悟で戦っている。僕だけ逃げるわけにはいかないだろう」
別に、この男は命欲しさに逃げたっていいはずだ。コーラルの大地を守る義理だってない。瑠璃を手伝う義理も。それでも、アナトには強い意志を感じた。だとしたら……。
「分かった。アナトくんを信じる。じゃあ、手を出して」
「手を?」
アナトが手を差し出すと、瑠璃はそれを取り、血を流す自らの肩口に押し当てた。痛みに顔を歪める瑠璃。手を引っ込めるべきか、とアナトも逡巡したようだったが、二人の肌が触れ合う面に青い光が漏れ出した。
「……よし、これでオッケー。手を見てみて」
言われた通り、アナトは自分の手の平を見ると、そこには瑠璃の血がべっとりと付着していた。ただ、わずかに青く輝いているようだ。
「この血に私の魔力がこめておいたわ。だから、これが付着している貴方の手は、私の魔力でダメージを受けることはない。さらに言えば、この血は私の魔力をコントロールする力もある。つまり、私の小さな分身みたいなものね」
「分身……」
手の平をまじまじと見つめ、表情を曇らせるアナト。
「ちょっと、何を想像したわけ?」
「いや、それより何をすればいいんだ?」
早々に話を変えられ、追及したい気持ちになるが、実際はそんな暇もない。
「私はシャルヴァを外したふりをして、貴方に向かって撃つ。だから、貴方はその手でシャルヴァを受け止めて。そうすれば、やつが油断した瞬間にシャルヴァを反射させて、思わぬ方向から攻撃できる。威力は落ちるけど、戦意を奪うには十分のはずだから」
「……分かった。僕はオルガの背後に回って、一条の攻撃を待てばいいんだな?」
「そういうこと。できれば、やつの近くで待機してて。任せたわよ!」
アナトの返事も聞かずに、瑠璃は飛び出していくのだった。
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