格上の魔女
瑠璃は右手にグローブを装着し、手の平にある青い宝玉に魔力を溜め込むと、それをオルガの方へ向けた。
「降伏してくれたら、痛い目にはあわない。だから、両手を挙げて膝をついて!」
瑠璃の呼びかけに対し、オルガはゆっくりと振り向きはしたが、降伏の姿勢は見られない。
「ふふっ、コーラルの魔女に狙われていると知ったときは、かなり焦ったけれど……本人を見てみたら違った意味でびっくりしたわ」
オルガはほのかに嘲りを含めた笑みを見せる。
「貴方、まだ魔力放出補助装置が必要な新人魔女さんなのね」
オルガは瑠璃が装着するグローブのことを言っているらしい。実際、彼女が指摘する通り、瑠璃は魔女と名乗るにはあまりに経験が足りなかった。
「悪かったわね。魔女なんて常識はずれな仕事……受け継ぐつもりはなかったのよ」
魔術師の多くは親からその力を受け継ぎ、幼少から訓練を重ねるものだ。しかし、瑠璃は違った。我流で魔力のコントロールを覚え、後に藍田や翡翠のような教師と出会って成長したのである。そのため、魔力放出補助装置のような、駆け出し以下の魔術師が使う装備を未だに必要としているのだった。
「それでよく危険な汚染犯たちとやり合ってきたわね。これまで、どれだけ運が良かったのかしら」
「ただの運でやってこれたと思う?」
「魔術師の実力は研鑽された魔力コントロールと経験だけがモノを言うわ。貴方なような素人が、汚染犯という不名誉を被るほどの覚悟を持った魔術師と渡り合えるなんて、到底思えない!」
「だったら試してみればいいじゃない。見せてあげるわ、コーラルの魔女の実力を」
「……いいでしょう。見せてみなさい!」
オルガは手の上に赤い光を発生させる。が、それはフェイクだと察知したのはアナトの方だった。
「一条、上だ!」
声に反応して頭上を確認すると、そこには赤い球体が浮遊していた。どうやら、瑠璃に気付かれず、ここまで移動していたらしい。そして、それは瑠璃に察知されたと判断すると、急降下して彼女を襲う。
「やってくれるじゃない!」
すぐさま横に飛んで赤い球体を避けたが、つい先程まで立っていた場所で爆発が起こり、瑠璃の体は吹き飛ばされる。それでも、素早く受け身を取ってから立て直し、手の平を突き出して攻撃態勢に入る。
「シャルヴァ!」
手の平の青い宝玉が輝くと同時に、鋭い魔力光線がオルガに向かって伸びる。神速の槍を思わせる一撃は、オルガの胸を貫くと思われたが、そんなことはなかった。
「あら、コーラルの魔女さんは優しいのね。まるで猫の額を撫でるような光線だったわ」
瑠璃の攻撃はオルガを包む赤い膜のようなものによって遮られていた。どうやら防御魔法を展開して、攻撃を無効化したらしい。
「へぇ。さすがは邪教徒討伐を任されていただけはある、と言ったところかしら」
「そうよ。私が指揮する部隊に、貴方のような新米魔女は誰一人していなかった」
「そんな優秀な部隊が壊滅しちゃうなんて、リーダーが無能だったのねー」
瑠璃の挑発に笑みを浮かべるオルガ。もちろん、それは友好的なものではない。オルガが両方の手の平を差し出す。まるで、落ちる花びらを手の平に乗せるような動作だったが、そこに発生する光は血の色よりも濃い、攻撃的な赤だ。そして、それは一つや二つではない。
「格上の魔女には敬意を払いなさい!」
オルガの言葉に反応して、赤い球体は一斉に瑠璃へ向かう。拘束で打ち込まれる小型爆弾のような魔力攻撃。瑠璃は走り回って回避を試みるが、周辺で次々と爆発が起こって、またも体が投げ出されてしまう。何度も体を打ち付けながらアスファルトの上を転がり、痛みを堪えながら顔を上げると、そこにはオルガの姿が。
「私の邪魔はしないで!」
そして、瑠璃の体を薙ぎ払うような回し蹴りが。しかも、彼女の脚部はわずかに赤い発光が見られる。魔力で強化されている証拠だ。瑠璃は同じように自分の腕を魔力で強化しながら、蹴りを受け止めるが、その威力に骨がきしみ、バランスが奪われる。それでも、すぐに体を何度か横転させながら距離を取り、立ち上がって見せたのだが、やはり目の前にオルガの姿があった。
「ほら、どうしたの!? 軽口を叩いてみなさいよ!」
魔力で強化された右の拳が飛んでくる。それを手の平で打ち払いつつ、自らも右の拳でオルガの腹部を狙ったが、これも空いた手で叩き落された。ふわりと後ろに飛び、着地と同時にバックスピンキックを見せたが、横のステップで躱され、逆に反撃の右ストレートに襲われてしまう。何とか顎の寸前で手の平で受け止めたが、衝撃はしっかりと頭部に伝わった。
「なめるな!」
それでも、瑠璃は素早く体制を低くしつつ、足払いでオルガのバランスを完全に刈り取る。さらに、空中で体を傾け、転倒しつつあるオルガに向かって飛び膝蹴りを叩き込むと、彼女の体は吹き飛んで、アスファルトの上に叩きつけられた。
「格上の魔女には……敬意を払いなさいよ」
息を切らせながら言い放つ瑠璃だったが、オルガはまだ戦意を失ったわけではない。ゆっくりと身を起こすと、瑠璃に殺意の視線を返すのだった。
「面白かった」「続きが気になる」と思ったら、
ぜひブックマークと下にある★★★★★から応援をお願いします。
好評だったら続きます!




