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ただ一つ違うことは

一本道を突き当りまで進むと、見た目からして重々しい扉が待ち受けていた。巨大なレバーハンドルを下に傾け、体重をかけて扉を押すと、広い空間に出る。



「……なんだ、あれは」



そして、その中央には巨大な半球状の建造物が。部屋、なのかもしれない。そして、その手前に人影があった。間違いない。オルガという女だ。辺りを見回す限り、アッシュと言うアンドロイドの姿はないようだが……。



「こんにちは」



背後から声をかけると、オルガは勢いよく振り返った。どうやら、作業に集中していたらしく、アナトが部屋に入ってきたことも、近付いてきたことも気付かなかったらしい。



「あ、貴方は……!?」



オルガは巨大な半球の前に座っていたが、そこにはまた扉らしいものがある。扉にはコードが伸びていて、オルガが操作する端末につながっていた。そして、その端末の横にはアンドロイドの首が、縦に連なっている。



「大丈夫、危害を加えるつもりはない」



アナトは刺激しないよう穏やかな声色を心掛けたが、オルガの目は動揺に定まっていない。だから、攻撃の意思はないと示すように両手を挙げてから、彼女の前に腰を下ろした。



「話をしたいだけなんだ」


「でも、貴方はコーラルの魔女と仲間なんでしょ?」


「確かに、あの二人は友達だ。だけど、目的は違う。僕は貴方が落としたものを届けにきただけだ」



それでもオルガは警戒を解かないようだったが、アナトが例のキーを見せると、表情が変わった。



「仲間のアンドロイドは?」


「……ここに来る途中、セキュリティに攻撃されて。凌いでいる間に、はぐれてしまったわ」


「なるほど。どうやら僕らと同じ状況みたいだ」



まるで世間話を始めるようなアナトだが、オルガの方は彼が手にするキーが気にしなって仕方がないようだ。



「本当に返してくれるの?」


「……返すつもりだった」



アナトの表情は相変わらず感情が読み取りにくいものだったが、その中にも彼なりの誠意が含まれているようだった。



「でも、俺も一条と同じことを思ったんだ。人の意思を捻じ曲げて、自分の想いを遂げるなんて……間違っていると思う」



二人の視線が交差する。オルガの中には警戒と恐怖で溢れていたが、それが少しずつ収束していった。残った感情は覚悟である。



「人の祈りを覗き見したのね。あの魔女は」


「貴方たちを探すためには仕方がなかった」



オルガはゆっくりと立ち上がる。



「言いたいことは分かるわ。汚染を止める。人の意思を曲げるべきでない、という主張も。だけどね」



オルガの手の上に光が灯る。ボール球一つ分の赤い球体がそこに浮かび上がっていた。魔力による攻撃だ、とアナトは立ち上がるが、オルガは球体を押し出すようにして放つ。



「私にも譲れないものはある! こうなったら、力尽くだとしても返してもらうわ!!」



勢いよく飛び出した赤い球体がアナトの顔面を強襲したが、彼は寸前のところで頭に位置をずらしてやり過ごし、十分に距離を取った。



「待て、争うつもりはない!」


制止するように手の平を突き出すアナトだが、オルガは再び赤い球体を放つ。


「うわぁ!」



コンクリートの上を転がるようにアナトは回避するが、すぐに体制を立て直して、オルガを見る。その瞬間、彼女の表情が変わった。



「……貴方、どこかで見たことがあると思ったら!」


オルガの顔が青ざめていく。覚悟に染まったはずの彼女の表情に再び恐怖が。


「な、何が争うつもりはない、よ……。私を殺しに来たのでしょう!?」



連続して放たれる赤い球体に、アナトは追いつめられるネズミのように逃げるしかないのだが、その姿を見たオルガは恐怖が重なるようだった。



「あと少しなのに。ガーネットは目の前にいるのに! どうして貴方みたいな死神が!!」



アナトはオルガが連続して放つ魔力の攻撃に、少しずつ追いつめられ、逃げ場を失っていく。苦し紛れに隠れた場所は、このエリアの中心部分にある部屋らしき巨大な半球の影だった。どうやら、ここにガーネットが眠っているようだが、オルガの足音が近付いてくる。それを耳にしながら、アナトは悔いるように呟いた。



「仕事をやめて少しは楽になれると思ったら、トラブル続きだ……」



このコーラルで生きる以上、安らかな日々を過ごすこと自体、贅沢なのかもしれない。それだけ、コーラルは貧しいのだから。ただ、一つだけ違うことは……と、彼の脳裏には瑠璃と翡翠の笑顔が浮かぶ。そう、ただ一つ違うことは、楽しいかどうか、という点だ。



「うん、俺は後悔していない。仕事から逃げ出して……間違っていなかったんだ」


彼は自分の人生に納得し、覚悟を決めた。決めたのだが……。


「そこまでよ!」



広い空間に凛々しい女の声が響くと、少しずつ近付いていたオルガの足音が止める。



「動かないで、汚染犯。貴方の祈りは……ここで終わり。決して成就されることはないわ!」


物影から顔を出してみると、声があった方を見て、悔し気に奥歯を噛み締め、呟くオルガの姿があった。


「コーラルの……魔女!」



絶体絶命と思われる状況だったが、救いの魔女、一条瑠璃が到着するのだった。

貴方に面白いと思ってほしくて書きました。


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