神に触れるとき
「オルガのことをすっかり忘れていたわ……。あいつも魔女だったんだ!」
またも敵を逃がしてしまった瑠璃は、大きく肩を落とした。
「似たようなミスを繰り返すなんて、何やっているのよ私は!」
拳を握りしめる瑠璃の肩を翡翠が軽く叩く。
「今回は相手が相手だから仕方がないよ」
納得しそうにない瑠璃の表情を見て、翡翠は励ますような笑顔を見せながらも、顎に指先をを添えて考えるような素振りを見せた。
「それにしても、敵は後期型のアンドロイドに加え魔女が一人。どうしたものかねぇ」
翡翠の問題提起に、瑠璃も気持ちを切り替えたのか、二人はアナトがいることを忘れているかのように、作戦会議を始めてしまう。
「あのバリア、どうなっているの?」
「格闘戦もなかなかだったねぇ」
「おまけに魔女の援護。突破する隙は与えてもらえそうにないわね」
「どうする?」
「各個撃破しかないでしょう」
「もしくは一対一に持ち込むか」
「一人でアッシュをやれるの?」
「頑張れば何とか、って感じかなぁ」
「そう。じゃあ、任せるわ」
「瑠璃こそ、本格的な対魔女戦は初めてなんじゃないの??」
「貴方より強い魔女がいるわけないでしょ。だから、一人でもやれるわ」
「あはー、期待しちゃうなー!」
淀みなく進んだ会話が終わったのか、二人はアナトの方を見る。
「ヤクシジの家に戻って休みましょう」
「追わなくていいのか?」
「後期型のアンドロイドが本気で逃げたのだから追いつけないわ。それに、あの二人が犯人ってことは、やることは一つしかない。ノモスの端末にアクセスして、二人の目的を調べる。つまり、振り出しに戻っただけだのことよ。だから、今夜はゆっくり休みましょう」
「そうそう。今日はもう寝ましょー!」
すぐに現場を立ち去ろうとする二人だが、アナトは立ち止まったままである。
「どうしたの?」
心配そうに振り返る瑠璃に、彼は言う。
「一条、あれはどうするんだ……?」
彼が人差し指を向けた方向には、瑠璃の魔力光線によって破壊された民家の壁があった。
「……忘れてた」
そのあと、瑠璃は家主のアンドロイドにこっぴどく怒られ、またもアキーバでの彼女の印象が悪いものになってしまうのだった。
「おはよう、ヤクシジ。端末の修理はどう?」
朝一番でヤクシジを訪ねる。彼女は一晩中、修理作業を行っていたらしく、端末の傍から離れていないようだった。徹夜の作業であっても、精度を落とさない点はアンドロイドに仕事を任せるメリットだと言えるだろう。
「ちょうど終わったところだ」
ヤクシジは瑠璃たちの方に振り返って、わずかに微笑むと端末を操作した。
「あとは再起動するだけ。上手く行けば、元通りに動くはずだ」
まるで、墓石のような端末だが、アナトが一昨日見たときとは違い、メカを操作するときに使われるものと同じようなディスプレイが、表面に現れていた。そこには「system restart」という表示が点滅している。しかし、すぐにさまざまな記号が並ぶ画面に切り替わった。
「完璧じゃない! 本当に助かったわ。ありがとう」
礼を言う瑠璃にヤクシジは再びかすかな笑みを見せる。
「仕事だからな。それより、昨日の依頼した件はどうだった?」
これには瑠璃も翡翠も苦い表情を見せるしかない。
「ごめんなさい。被害を未然に防ぐことはできなかった……。でも、犯人が分かったから。私が追う汚染犯と同じ人物だった。だから、ヤクシジのおかげで解決しそうよ」
「なるほど。端末にアクセスすれば犯人の目的が特定できるのか」
瑠璃が頷くとヤクシジは安堵したようだった。
「自分の仕事が結果的に仲間を救うことになるなら、依頼を受けた甲斐があったというものだ。あとは頼んだよ、コーラルの魔女たち」
瑠璃と翡翠が笑顔で応える。
「じゃあ、さっそくアクセスしますか」
端末の前に移動した瑠璃は、その前に腰を下ろすと手をかざして、ゆっくりと目を閉じた。てっきりメカを操作すると思っていたアナトは、横にいる翡翠に質問する。
「一条は何をするんだ?」
「だからぁ、ノモスの端末にアクセスして、あの二人がどんな祈りを捧げたのか調べるんだよ」
「それは分かっている。だけど、端末を操作するんじゃないのか??」
「ノモスの端末レベルのロステクを操作するなんて、難解すぎるから無理だよ。人間の場合は魔力による干渉でアクセスした方が、意識的に端末を操作できるから、その方がぜんぜん近道なんだよ」
「そう、なのか」
アナトは理解できなかったが、瑠璃がノモスの端末は魔女かアンドロイドしか操作できない、と言ったいたことを思い出す。つまりは、そういうことなのだろう、と理解するしかなかった。再びノモスの端末に注目すると、瑠璃に動きがあった。
「アクセス……開始」
瑠璃の集中が頂点に達し、端末に干渉を始める。すると、端末と彼女の周りの空気が、薄い青に染めらて行った。透き通るような青い光が端末と彼女を覆い、波のように揺れている。
「綺麗だな……」
呟くアナトの表情を翡翠は横目で盗み見するのだった。
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