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後期型アンドロイド

 アッシュは二人を見据え、危機と認定したのか、青い目を発光させる。


「個体識別ナンバー3-189。コードネーム、アッシュ。戦闘プログラム……起動」


 戦闘体制に入ったアッシュから放たれる圧迫感。アンドロイドであるはずなのに、巨大な肉食獣を前にしたような、死の前触れがあった。


 それを見て、瑠璃は右手に黒いグローブを装着し、師でもある相棒に声をかける。



「翡翠、やるわよ!」


「オッケー!」



 二人が同時に走り出し、挟むようにアッシュへ距離を詰めた。しかし、恐らくアッシュは足元に倒れているだろうアンドロイドの首を抱えている。このままの戦闘は不利と判断したのか、すぐに跳躍して後退した。



「今度は逃がさない。シャルヴァ!」



 瑠璃の手の平から放たれる閃光。アナトが見る限り、何もかも焼き切る魔力光線は、アッシュの胴を貫いてしまうだろう、と思われた。しかし……。



「なんですって!?」



 アッシュは片手で青い光を受け止めると、まるで虫でも払うように腕を振った。結果、瑠璃の魔力はあらぬ方向へ飛び、民家の白い壁を破壊してしまう。



「やば……騒ぎは起こすなって言われているのに!!」


 だが、その間に翡翠がアッシュに接近していた。


「ほわっちゃあーーー!!」



 妙な掛け声と共に、後ろ回し蹴りを放つ。アッシュの側頭部を狙った一撃だが、彼は身を屈めて回避すると、足払いを返してきた。しかし、翡翠の反応も速い。高々と跳躍すると同時に、アッシュの顔面を踏み付けようと、足を突き出している。それは完璧なタイミングだと思われた。が、アッシュは低い姿勢のまま、後ろへ飛んで開始してみせるのだった。



「翡翠の攻撃を躱すなんて……!!」



 驚嘆する瑠璃だが、アッシュが着地するタイミングを冷静に狙い、魔力光線を放つ。だが、結果は先程と同じ。手の平で受け止められてしまうのだった。



「うーん、向こうは片手が使えないって言うのに、口惜しいねぇ」


 翡翠はそう言うが口元には笑みを浮かべて、敵の実力を楽しむようにも見えた。


「瑠璃。あれ、どう考えても後期型だよ。どうする??」



 後期型のアンドロイド。それは魔女戦争の終盤にロールアウトしたことを意味する。つまり、ラストナンバーズほどではないにしても、他のアンドロイドよりはるかに勝る性能を持ち合わせている、ということだ。実際、コーラルの魔女として名を馳せる二人の攻撃を受けても、ダメージと言えば手の平のライフスキンが溶けた程度。実質、無傷だった。



「どうするも何も……やるしかないでしょ!」


「無傷で捕獲、なんて甘いことは言わないよね?」


「もちろん。行くわよ!!」



 再開される二人の攻撃。連続して放たれる瑠璃の光線をかいくぐるようにして、翡翠がアッシュに迫る。アッシュも光線を躱しながら、距離を詰めた翡翠の飛び膝蹴りを片腕で防ぐ。


「ほわちゃちゃちゃぁぁぁーーー!!」


 翡翠は着地と同時にボディフックを連続で放ち、顎に向けてアッパー、こめかみを狙った右フックのコンビネーションを見せるが、アッシュはスウェーバックとブロッキングを駆使して防ぎ切ってしまう。だが、その背後に回り込んだ瑠璃の姿が。



「もらった!!」


 至近距離で放たれる魔力光線。今度こそ、ダメージを与えるかと思われたが……。


「バリア……ですって!?」



 アッシュと瑠璃の間に、灰色の膜らしいものが現れ、攻撃を防いでしまうのだった。



「瑠璃、魔力攻撃は効かない。至近距離から殴るよ!」


「わ、わかった!!」



 瑠璃と翡翠は挟み撃ちの形で拳を叩き込むが、アッシュはそれすら、防ぎ切ってしまう。しかも、アンドロイドの頭を抱えたままで。アッシュの鉄壁の守りに、さすがの翡翠も表情を変えた。



「瑠璃、いったん退いてから作戦会議!」



 二人は距離を取ってから小声で次なる一手を伝え合う。



「私一人で時間を稼ぐ。だから瑠璃はありったけの魔力をチャージしたシャルヴァの準備!」


「分かった」



 瑠璃が膝を付いて集中を始めると、彼女の周辺に青い光が漂い始める。それに対し、翡翠は軽快な足取りでアッシュへ向かって行く。右に左へとステップを踏むフェイントの後、翡翠はアッシュの懐へ込みながら拳を繰り出した。それを手の平で止めてしまうアッシュを見ながら、瑠璃は考える。



(翡翠なら三分は拮抗した状況を作り出してくれるはず。それまでに私はやつのバリアを突破するシャルヴァを作り出さないと……)



 アッシュのバリアを貫く一撃を作り出すため、集中しなければならない。しかし、その後方で自分を狙う魔力が発生したことに、瑠璃は気付いていなかった。



「一条、危ない!!」



 だから、アナトに突き飛ばされたとき、彼女は何が起こったのか理解できなかった。先程まで自分が立っていた場所に赤い球体が通過して、やっと状況を理解する。もう一人敵がいる、と。



「どこ!?」


「ダメだ、一条。まだ攻撃が来る!!」



 彼が言う通り、赤い球体が二人を襲う。アナトは瑠璃に覆いかぶさるようにして、攻撃をやり過ごした後、すぐさま彼女を抱きかかえて路地に逃げ込む。



「ちょ、何しているのよ!?」


 初めて男性に抱きかかえられ、動揺する瑠璃だったが、それどころではない。


「そ、それより……!! 降ろして、翡翠を援護しないと!」



 瑠璃は強引にアナトから離れて路地から顔を出すが、既にアッシュの姿はなく、翡翠が一人立つばかり。もちろん、もう一人の敵。オルガの気配も感じられなかった。

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