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瑠璃の夢と過去

夢を見た。繰り返し何度も見ている夢を。ただ、これは記憶だ。十年前、まだ少女だった頃の記憶。瑠璃は祖母に連れられ、中央と呼ばれるコーラルの中心地に訪れていた。このころ、瑠璃が一条の家を継ぐ話など一つも出てなかったため、祖母が自分を連れて外に出る理由はないはずだが、その辺りのことは覚えていない。祖母はニルヴァナ教の幹部たちと何やら協議があったらしく、瑠璃は街の広場で大人しく待っていた。


初めての都会に孤独を感じると、どこからか女の子の泣き声が。



(私と同じくらいの歳の子かしら。いえ、もう少し幼いかも)



このころから正義感が強かった瑠璃は、自分と同じように都会で孤独を感じているだろう少女を慰めなくては、と泣き声が聞こえる方へ向かった。しかし、どれだけ進んでも泣いている少女の姿は見当たらない。



(あ、ノモスの中から聞こえてくる。迷い込んだのかな?)



瑠璃がたどり着いた場所は、コーラルを象徴する巨大な岩、ノモスだった。瑠璃がどれだけ空を仰いでも、その頂上が目にできないほどの巨大なノモスだが、岩と表現するにはあまりに均整的で人工的な雰囲気がある。



(お祖母様もノモスの中にいるはずよね。見つかったら、怒られてしまうかしら)



ノモスの内部は魔女戦争の時代から、内部はニルヴァナ教の本部施設となっているため、外観以上に人工的な空間となっている。瑠璃は躊躇いながらも、孤独を感じている少女のために、中へ進んだ。


本部は祈りの場が一般に開放されていることはもちろん、さまざまな手続きを行う役所として機能しているため、多くの人が行き来している。だから、瑠璃が一人紛れ込んでも違和感を覚えるものはいなかった。



(ここだわ。間違いない)



少女の泣き声がはっきりと聞こえてくる。大きな扉を開くと、厳かな巨大な空間が広がった。そこには、たくさんの長椅子が等間隔で並び、その奥にはノモスを模した石板が装飾に包まれている。一般に開放されている、祈りの場だ。少女を探して奥へ進み、祭壇の前で立ち止まると、急に泣き声が止まる。



(……なに!?)



その瞬間、瑠璃の足場が消滅した。突然の浮遊感に驚愕するが、なぜが「そういうものなのだ」と受け入れてしまうと、周りの風景が白一緒に染まっている。祭壇も長椅子も何もない。だが、探し続けていた少女の背中がそこに。やはり、自分より少し下の子どもだ。



「大丈夫?」



声をかけるが、少女は泣いたまま、顔を上げない。瑠璃は優しく少女の背中を撫でた。



「寂しいの? ううん、苦しいのね」



なぜ、そう感じたのかは分からない。ただ、彼女に触れた途端、その苦しみが伝わってきたような気がしたのだ。少女が顔を上げて、瑠璃を見る。このコーラルなら、どこにでもいるような、貧しい子どもたちと変わらない女の子だった。



「……うん、苦しいの。悲しくて苦しい」


「何が悲しいの?」


「……誰も大地のことを考えてくれない。自分勝手に欲望のまま、大地の恵みを食い尽くす。彼の痛みが私には聞こえる。だから、苦しくて悲しくて、仕方がないの」



彼女が語る痛みは、瑠璃に伝わった。ほんの数秒ではあるが、彼女の背中を通して、その痛みが瑠璃に入ってきたのだ。



「……ひどい」



青ざめた瑠璃。あと数秒でも痛みの共感が続いていたら、彼女は胃の中身をすべて吐き出していただろう。そんな痛みを少女に背負わせるべきではない。瑠璃は、この少女と痛みを訴える大地のために、何かできないかと考えた。



「私が助けてあげる。二人のことを助けるから、泣かないで!」



瑠璃の励ましに、涙を流し続けていた少女の表情が変わる。驚きを覚えたように固まってから、少しずつ笑顔に変化したのだ。それを見たとき、瑠璃は思った。勇気を出して、ここまで来て良かった、と。彼女の笑顔を見たときの熱い気持ち。まるで、自分を突き動かす力が注がれたような気がした。



「本当に?」


少女の問いかけに、瑠璃は力強く頷く。


「きっと助けて見せるわ。何年かかるか分からないけど……それでも、絶対に!」



それは幼さゆえの理想だったかもしれないが、このとき抱いた気持ちと少女の笑顔は、今の瑠璃にとっても原風景と言えるものだった。少女の笑顔に、自分の使命を抱く瑠璃だったが、気付くと祈りの場に一人で立っていた。そして、たまたまそこに祖母が現れたのだが……。


祖母は瑠璃の魔力核に変化を感じた。一条の家に生まれながら凡人並みと思われていた、瑠璃の魔力核に大きな成長の兆しが見られたのである。次の日から、瑠璃が一条を継ぐという話が進んだ。家族が揃った場所で、それを祖母から伝えられたとき、姉が自分を見た。あのときの彼女の目を思い出すと、今も背筋に冷たいものを感じるのだった。




「瑠璃、起きて」


部屋の中は真っ暗だが、どれくらい眠っただろうか。翡翠の声に目を覚まし、またあの夢を見ていた、と不快感にこめかみを指でほぐしていると、魔力を感知した。自分が担当する東側。それほど遠くない場所だ。顔を上げると、翡翠は頷く。どうやら、既に気付いているらしい。



「私の担当区域まで見ていたの??」


「仕方ないじゃーん? 私の感知範囲が広すぎるんだから」



この女にはまだまだ追いつけない。少しの悔しさを噛み締めながら、ソファから身を起こすと、既に目を覚ましているアナトと目があった。



「一条、目覚めが悪そうだけど、大丈夫か?」


「別に……そんなことない」



何となくだが、悪夢を見た後に彼と顔を合わせたくはなかった。しかも、彼は一緒に行くつもりらしい。首を突っ込むなと言いたいところだが、きっと彼も予感があるのだろう。三人は魔力の感知が反応したエリアまで走った。



「やっぱり……あいつだったか!!」



犯人はまだ逃げてはないなかった。横たわるアンドロイドの傍らに立つ影。それは、昨日から追い続ける汚染犯の一人、アッシュと呼ばれるアンドロイドに違いなかった。


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