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アキーバの歴史

 邪教徒の襲撃から、さらにトラックで移動すること、十五分ほど。これまで、土と緑、それから遠方にそびえ立つノモスの風景ばかりが続いたが、少しずつ人々の営みの気配が流れてきた。



「オッケー、到着したわ」


「はいはい、お疲れ様ー」



 トラックが停止すると、瑠璃も翡翠も流れるような動きで、外に出る。その様子を見て、車慣れしているな、とアナトは思いながら荷台から降りて、アキーバの風景を見渡した。全体的に白い景色が目立つ、広々とした街がそこにはあった。


「賑やかだな……」


 行き交う人々や出店を眺めながら呟くアナトに瑠璃も同意する。



「そうね。アキーバに関しては村よりも街って感じかも。中央でもないのにこの賑わいは、今のコーラルでは珍しいかもね」


「住民のほとんどがアンドロイドっていうのも、アキーバの珍しいところなんだよー」



 翡翠が付け加えた通り、アキーバの風景は建物から人々の服装まで、ほとんどが白一色である。あまり装飾にこだわらないアンドロイドたちらしいスタイルと言えるだろう。


 さらに言えば、人間が存在する場所にある独特な雑音も限られている気がする。それは、アンドロイドたちが無駄な音を発さないからなのかもしれない。



「ライブスキンを着用してないアンドロイドもこの街ならでは、ってことか」



 アナトが見たのは、人工皮膚を装着せず、メカを露出して歩くアンドロイドたちだ。それが教えに反しているわけでも、マナー違反でもないのだが、アンドロイドたちは人間の前ではライブスキンを装着することが多いらしい。それに囚われず、ありのままの姿で街を歩いているということは、他よりも自由に振る舞おうという意思が見られるような気がした。



「しかし、なぜこれだけのアンドロイドがアキーバに集まったんだ?」


 移動しながら、アナトは疑問を口にすると、翡翠が真横に移動してきた。


「じゃあ、この翡翠さんが教えてあげましょう。ほら、あれ見てごらん」



 翡翠が指を向けた方に目をやると、巨大な塔らしきものがあった。もちろん、ノモスに比べれば小さいが、今のコーラルではこれほど巨大な建造物は珍しいと言える。そして、その頂点の部分には円形の装飾らしいものが。



「あれは……時計?」


「そう、よくわかったねー。魔女戦争よりも前にある建造物で、時計塔って言うらしいよ」


「魔女戦争より前? ってことは……五百年も前?」


「あくまで、魔女戦争より前だからもっと古いだろうね」


「はぁ。よくもそんなものが残っていたなぁ」


「奇跡的に残っていたということもあるんだけど、ここにアンドロイドたちが集まる理由につながるんだよね、これが」



 翡翠は得意げに人差し指を立て、それを左右に振りながら説明する。



「実はあの時計台の下には地下施設があってね。そこにはラストナンバーズの一人、ガーネットが眠っていると言われているのです」


「ラストナンバーズ……」



 それは魔女戦争の終盤にロールアウトした四人の女性型アンドロイド。猛威を振るうオリジナルウィッチに対抗するため、人間が持てる技術をつぎ込み、戦争終盤に凄まじい力を見せた、と言われている存在だ。そして、現在も世界の均衡を保つ八人の「魔女」として、オリジナルウィッチと並び、恐れ敬われているらしいが……。



「アンドロイドたちはね、ここにガーネットが眠るという噂を信じて集まってきたの。彼らにとっては神様が眠る地みたいなものだから。ガーネットを守護神として、この地に暮らしているってわけだよね」



 翡翠の説明が続く。



「で、ここに集まったアンドロイドたちは生きるために仕事を始めた。どうすればコーラルという社会に貢献し、自分たちの生活費を稼げるのかって考えた末、行きついた結論が、自分たちの得意なメカやロステクの修理メンテナンスだ、ってなったわけなのです」



 これがアキーバにアンドロイドが集まり、技師の街となった理由らしい。だが、アナトの疑問はそれだけではなかった。



「でも、ラストナンバーズはガーネットのほかにも三体いるんだろ? ここの他にも似たようなアンドロイドの街があるのか?」


「ノンノンノン!」



 翡翠は両手の人差し指を頬の横に立てて、左右に振る。



「ラストナンバーズもラストウィッチと同じで、その所在地は不明。どこにで何して暮らしているのか分かりません。魔女戦争時代から生きているアンドロイドのなかでもごくわずかな個体しか、彼女たちの顔を知らないからね。ただ、ガーネットだけが、ここに眠って動かないっていう伝説は語り継がれているの。要は引きこもりの周りに仲間が集まって、誰も彼もが働き出した。ただし、当の本人だけを除いて……って感じかな」



 ラストナンバーズと言えば、ガーネットの他には、アンバー、ジェイド、アクア……だっただろうか。アナトにとっても八人の魔女は御伽噺の中の登場人物みたいなものである。その一人がこの地にいると言われても、実感は湧かなかった。



「どう? 分かりやすかったー??」


「ああ、翡翠のおかげでこの街の成り立ちがよく分かったよ」



 笑顔で頷くと翡翠は心底嬉しそうに「よっしゃ」とガッツポーズを見せるが、ずっと黙っていた瑠璃が冷めたような態度で言った。



「歴史の勉強が済んだのなら、さっそく手伝ってくれる技師を見つけましょう」



 そう、技師の協力者を探し、ノモスの端末を復旧させることが目的なのだ。それから、翡翠を先頭にアンドロイドたちと交渉を始めた。出店や店舗に飛び込み、安い報酬で協力してもらえないかお願いする。ただ、明るい翡翠のコミュニケーション能力をもってしても、なかなか了承してくれる人は現れなかった。そんなとき……。



「あれは……?」



 人混みの中にアナトは見つける。金髪で巻き毛の女を……。間違いない、アナトが預かっている、キーの持ち主だった。

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