魔術師と魔女
さらに授業は続き、アナトが再び手を挙げた。
「ずっと気になっていたのだけど、魔術師と魔女は何が違うんですか?」
知らないのー、と騒ぐ子どもたちを注意し、藍田が答える。
「基本的には一緒です。ただ、最初に魔力を扱い始めた人々は女性ばかりでした。それが、魔女と呼ばれる存在です。その後、男性の中にも魔力を操る技術を身に着けるものが増え始め、魔術師と言う存在も定着していった、という流れですね」
「魔女が最初に現れた?」
「はい。知っているでしょ、オリジナルウィッチと呼ばれる四人の魔女です。彼女たちの誕生によって、魔力と言うものが広まり、百年以上に及ぶ魔女戦争が始まったわけです。あと、ラストナンバーズの存在も、影響としては大きいかもしれませんね」
「つまり、魔女と言う呼称は魔女戦争時代の名残ってわけね」
またも、瑠璃が補足する。
「最初にオリジナルウィッチが現れたから、魔力を操る女性は今でも魔女と呼ばれるってだけで、魔術師という職業であることには間違いないわ。魔女狩り部隊なんて仰々しい名前の連中がいるから、稀に勘違いする人はいるけど、魔女と呼ばれるからと言って、悪い人ばかりじゃないの」
「またアナトくんにいいところを見せようとしてる!」
ミラに指摘され、再び笑われて顔を赤らめる瑠璃だったが、給食担当の佐枝が顔を出した。
「瑠璃ちゃん、転送屋さんがきているよ。貴方に荷物が届いたって」
「あ、やっと来たのね。ありがと!」
ずっと授業を見守っていたのに、瑠璃は颯爽と教室を立ち去ってしまった。アナトも背後のプレッシャーから開放され、気軽に授業を受けられるのだった。
午前の授業が終わると、瑠璃が戻ってきてアナトに声をかけた。
「準備、終わったから出発できるわよ。でも、私は先生と打合せの予定があるから、先に翡翠のところ行っててもらえる? 場所、分かるわよね?」
大丈夫だ、と頷いてアナトは昨日訪れた翡翠のテントに向かった。歩きながら、このクシェトラという村を改めて観察する。スクールと呼ばれるスペースを中心に、人々の住居が寄り添うようにして集まっているようだが、翡翠のテントだけは少し離れた場所に設置されている気がした。昨日の戦いの跡である裂けた地面を見て、死ななくてよかったと息を吐くと、翡翠のテントの前に到着する。
「翡翠、いるかな? アナトだ」
「おー、アナトくん。おはよー、ってさっきも挨拶したばかりだねぇ」
すぐに顔を出す翡翠はまるでアナトが訪れるのを待っていたようだ。
「ご飯、どうだったー? 腕を振るって作ったんだよー??」
「美味しかったよ。ありがとう」
「いやいや、そもそもは私が悪かったわけだし。怖い思いさせちゃったよね」
確かに何度死にそうになったことか分からない状況だったが、アナトは笑顔でそれを許せる男なのだった。
「翡翠は悪くないよ」
「どうして……??」
「だって、村と子供たちの安全のために危険を排除しようとしただけなんだろ?」
「……」
笑顔ばかりの翡翠の表情が、ぴたりと固まった。どうもアナトの言葉に染みるものがあったらしい。彼女にとって、何がどれだけ響いたのかは分からない。だが、翡翠は目も口も丸くして、その衝撃に思考を停止させているのは、アナトからしてみても驚くものだった。
そんな彼女の表情が溶けだして、彼女らしい笑顔を見せると、翡翠は右手を差し出した。その意味を理解できなかったアナトは首を傾げる。
「なんだ?」
「握手だよ。友達になる証」
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