魔女の授業参観
朝食を終え、片づけを手伝った後、瑠璃が声をかけてきた。
「アキーバに出発するのは午後になりそうだけど、どうする?」
「どうするって?」
「やることがないなら、少しスクールの授業に参加してみない?」
もちろん、無職だからやることはない。だとしたら、瑠璃が目指すコーラルの未来をいつか作るであろうスクールが、どんな学びを子どもに伝えているのか、ぜひ見てみたいと思った。
「参加させてもらえるなら、ぜひお願いしたい」
「オッケー。じゃあ、先生に言っておくから。ゾル!」
瑠璃は片付けを終えたのであろうゾルを呼び止める。
「アナトくんも朝の授業に参加するから、席を用意してあげて」
「……分かった」
「あ、このまま一緒に案内してあげてね。私は準備があるから」
そう言って瑠璃は立ち去ってしまい、次にどんな行動を取ればいいのか分からず、アナトはただゾルの顔を見ると、彼はどこか居心地よさそうに眉を寄せて「こっちだよ」と歩き出した。先程、朝食を取ったスペースとは、また別にタープテントが広がる場所へ案内される。そこには、小さな机と椅子が並び、正面にはホワイトボードが置かれていた。
「アナト!」
たくさんの子どもたちの中から、明るい声の女の子がこちらに駆け寄ってくる。
「どうしたの?? もしかして一緒に授業を受けるの?」
朝も親し気に声をかけてくれたミラだ。アナトも親しみを返すように笑顔で答えた。
「うん。そのつもりだ。今から何を教えてもらえるんだ?」
「えっとね、魔力基礎Aだよ」
「魔力基礎……?」
首を傾げていると、ゾルが椅子と机をアナトのすぐ横に並べてくれていた。
「ここに座って。ノートはある?」
「ない」
「……じゃあ、僕の貸してあげるから」
机の引き出しから自分のノートを取り出し、そこから一枚切り離そうとしたが、どこからか瑠璃が現れて、それを引き止めた。
「ゾル、そこまでしなくていいから。アナトくんはただ聞くだけ。貴方も、それでいいでしょ?」
「うん」
アナトも同意するが、ゾルはどこか不満げだ
「でも、授業内容はちゃんとノートに取れって瑠璃が言ってたじゃんか」
「いいの。アナトくんは子どもじゃないから」
子どもじゃない、という言葉に納得したのか、ゾルは引き下がるように黙ってしまった。
「一条、どうしてここに? 準備があるんじゃなかったのか?」
「うーん。それが少し想定外のことがあって。私も一時間ほど時間を持て余すことになったの」
それに目を輝かせるのはミラだ。
「もしかして、瑠璃も一緒に授業受けるの??」
「少しだけね」
「やったー!」
すると、藍田が現れて、子どもたちが一斉に着席した。アナトもそれに倣ったが、真後ろに瑠璃が腕組みしながら突っ立っているため、何だか落ち着かない気がしてしまう。ホワイトボードの前に立つ藍田も、そんな瑠璃に気付いたのか、目を丸くしていた。
「おや、瑠璃が参加するとは珍しいですね。アナトくんの付き添いですか?」
「まぁ、そんな感じ。いないものだと思って、いつも通り授業を進めてね」
「分かりました。授業参観ってやつですね」
藍田はクスクスと笑った後、空気を切り替えるように手を叩いた。
「それでは、午前の授業は魔力基礎ですね。えー、では魔術師の役割ですね」
どうやら、授業が始まるらしかった。
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