表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/48

正しいことをする魔女

「え!?」



しかし、無残な姿を見せたのは子どもたちではなく、ドロンの方だった。空中で何かに弾かれたと思うと、バランスを崩したように変則的な動きを見せ、地上に落下したのである。その衝撃は凄まじいものだったらしく、ドロンは黒い煙を吐き出しながら完全に沈黙した。



「なになに??」


「あ、瑠璃だ。どうしたの?」



子どもたちは自分たちに命の危機が迫っていたことも気付かず、無邪気な顔で瑠璃に手を振っている。


「よかったぁ……」


安堵のままに座り込む瑠璃。だが、翡翠は背後から近付くものを察知して振り返った。



「……アナトくんがやったの?」


「悪い。壊してしまったようだ」



彼女たちの背後に立っていたのはアナトである。グラスでも割って反省するような顔をしているが、翡翠は見ていた。アナトが投擲した石が、ドロンに直撃した瞬間を。



「ああ、アナトくん……無事だったのね」



だが、瑠璃は気付いていないらしく、彼の無事を素直に喜んでいた。



「あ、翡翠。これでドロンは暴走してたって分かったでしょ? ここの子どもたちが貴方の脅威になるわけがないんだから!!」


「ひえええ……言い訳できません。ごめんねぇ、みんなー!!」



翡翠が子供たちに謝ると彼らは困惑しているのか、何もリアクションがなかった。瑠璃はそれを見て、どこか苦い顔をするが、それだけでは満足しないらしい。



「アナトくんにも謝って! 貴方の勘違いで死にそうになったんだから」


「アナトくんもごめんねぇ」



両手を合わせて謝罪の意思を見せる翡翠に、アナトは笑顔を返す。



「構わないよ。こうして無事に、生きているわけだし」


「いやー、アナトくんがいい子でよかったぁ」


「僕も翡翠がいい魔女で安心している」



殺されかけた相手を前にして、本当にすべてを水に流したと言わんばかりのアナト。だが、突然彼の表情が失われたかと思うと、その場に座り込んでから、大の字に寝転んでしまった。



「どうしたの??」


翡翠が顔を覗き込むと、彼は呟いた。


「ダメだ、もう動けない」



どうやら、さすがに疲れたらしい。それを見て、いくら何でも無防備すぎないか、と瑠璃は神経を疑ったが、なぜか笑みがこぼれた。



「それにしても……貴方の度胸には驚かされるわ。よくドロンと翡翠の挟み撃ちを覚悟で囮の役を引き受けたわね。普通なら怖くて腰を抜かしても、おかしくないところよ?」


「怖かったさ。でも、一条が必ずドロンに攻撃を当てて見せる、って言っただろ?」



実際のところ、瑠璃の狙撃は失敗しているわけで……。彼女は決まり悪く感じながらも質問を重ねた。



「だからといって、普通は今日会ったばかりの人間を信じられないでしょ」


「信じられるさ」



平然と言ってのけるアナトに、瑠璃は聞かずにはいられなかった。


「だから……どうしてよ」


アナトは答える。微笑みを浮かべながら。



「一条は……正しいことする魔女だから」


「…………」



素直に「正しいことをする魔女」という言葉が嬉しくて、頬を赤らめる瑠璃。これまでの活動は多くの人に理解されず、苦しい思いも少なくなかったが、その言葉によって、これまでの日々が強く肯定されるようだった。しかし、不器用な彼女は、その気持ちを素直に言葉に現すことはできない。



「だ。だから言ったじゃない。魔女にもいいことをする人間はたくさんいるんだから」


「…………」



アナトから返事がなかった。またあの笑顔を浮かべてこっちを見ているのだろうか。だとしたら、この頬の熱さも誤魔化せないかもしれない。しかし、いつになってもアナトは何も言ってこなかった。



「な、何よ。何とか言ったら?」


「ねぇ、瑠璃ー」



黙ったままのアナトに代わって反応したのは、翡翠の方だった。彼の傍らに屈んで、その表情を観察しているようだ。



「アナトくん、眠ってるよ」


「はぁ!?」



確かに、アナトの表情を覗き込んでみると、安らかな寝息を立てて深く眠っているようだった。そういえば、連日硬いコンクリートの上で眠っていたせいで、寝不足だと言っていたような……。



「……仕方ない。まぁ、許してやるか」



溜め息を吐いてから空を見上げる。つい先程までアナトも見ていただろう、コーラルの空を。そこは大地の汚染が広がっているとは思えないほど、美しい青が広がっていた。

「面白かった」「続きが気になる」と思ったら、

ぜひブックマークと下にある★★★★★から応援をお願いします。


好評だったら続きます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ