表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/48

瑠璃の作戦

「あの馬鹿は敵じゃないって言っているでしょ?? すぐに攻撃をやめて!!」


 テントを出る前、瑠璃が必死に説得してきた姿を見て、翡翠は疑問に思った。


「私の判断を瑠璃があれだけ否定するなんて……珍しいなぁ。あのアナトって子、何者なんだろう」



 ただの馬鹿、と言っていたが、科学の全盛期と言える魔女戦争時代のテクノロジーが、彼を危険と判断したのだ。翡翠にとって脅威であることは間違いない。森の方を見ると、止まっていたドロンの攻撃が再開された。



「瑠璃の力では彼を守りながらドロンを撃墜できないはず。でも……念のため、様子を見ておきますか」



 翡翠は体をほぐすように伸びてから、森の方に向かうと、木々をかき分けるようにして、駆けるアナトの姿が確認できた。



「……一人? 瑠璃とはぐれたのかな??」



 ドロンの攻撃は激しく、アナトはただ逃げ回るだけ。あれだけの猛攻では、瑠璃が彼を見失ってもおかしくないだろう。ただ、翡翠は弟子の実力を侮るわけではなかった。



「瑠璃、何か狙ってるなぁー? でもね、翡翠さんからは逃げられませんよ」



 翡翠は足取り軽く、踊るように森を迂回する。ドロンの動きを見ると、そろそろアナトは森から出てくるだろう。そのとき、自分が正面にいたら、彼に逃げ場はない。できれば直接手を下したくはないが、危険は確実に排除すべきだ。



「お、計算通りだね。きたきた!」



 翡翠の計算通り、逃げ回った挙句、アナトが森の外に吐き出されるようにして、こちらの方へ走ってきた。本当に何も知らず、森から出てきて、自分と挟み撃ちになるつもりらしい。



「いーや、ここで易々と敵の思い通りになる子じゃないのよ、うちの瑠璃ちゃんは」



 弟子の目論見などお見通しだ。たぶん、あの男を囮にして、ドロンを攻撃するつもりだろう。気付かれないように、遠くから狙撃するつもりだったのだろうが、翡翠の魔力探知は、瑠璃が必死に隠蔽する魔力の動きも、すぐに把握してしまうのだった。


 実際、翡翠が目を凝らすと、森に沿って移動しながら、こちらに察知されないように接近する瑠璃の姿が。



「やっぱりねぇー。でも、私相手にその作戦は、少しシンプル過ぎたと言わざるを得ないかなぁ」



 しかし、少しだけなら騙されてやってもいい。それが弟子の成長につながるはずなのだから。翡翠は最初の計算通り、アナトの前に回って、行き先を遮る。



「はーい、残念! 追いかけっこはおしまいでーす!!」



 進行方向に翡翠が突然現れ、アナトは足を止める。その背後にドロンも追いついた。アナトは逃げ場を失って、固唾を飲んでいるように見せているが、きっと瑠璃の狙撃に期待しているはず。後方に瑠璃を確認すると、森の中で身を隠しつつ、片膝を付いて魔力光線の発射に備えていた。この距離なら一秒半で瑠璃の攻撃が到達するだろう。



「後方に脅威! 回避と同時に攻撃!!」



 ぎりぎりのタイミングで回避指示を出すと、ドロンは右側に回避行動を取りつつ、攻撃態勢に入る。これで瑠璃の狙撃は無駄に終わり、脅威の排除に成功した。成功した、はずだったが……。



「ウソ!?」



 ドロンが青い閃光を浴びる。一秒半で到達するはずだった瑠璃の狙撃が、コンマ数秒ではあるが翡翠の計算よりも速く到達したのだ。



(瑠璃、私が思っている以上に成長が早かったんだね。でも……!!)



 瑠璃の狙撃は直撃ではなかった。青い閃光はドロンのボディをかすめるだけで、青空へ消えていく。そして、ドロンは既に脅威に向けて攻撃を放とうとしていた。



(この距離でドロンを落とすためには、瑠璃は再び魔力をため込む必要がある。つまり、連射はできないから……私の勝ちだ!!)



 ドロンから放たれる白い光。それは直進してアナトの背中を貫く……。


「な、なんで……!?」


 アナトの背中が貫かれる、と思われたが、翡翠の計算が二度も狂った。アナトがドロンの攻撃を回避したのだ。振り向いてドロンの位置を確認することなく、ただ気配だけを察知して、躱したらしい。



(どういう反射神経なの? それとも偶然??)



 考えを巡らせるが、どうやら回避は偶然だったのだろう。アナトはドロンの攻撃を躱したものの、自分の足に足を引っかけて、そのまま倒れてしまった。



「……なんてラッキーボーイ。ただ、もう逃げられないから!」



 翡翠は攻撃の指示を出す。瑠璃が何やら叫んでいるが、ロステクが脅威判定しているのだから、助けてやるわけにはいかない。当のアナトは倒れたままだったが、仰向けになって何やら呟いていた。



「はぁ、やっぱりここまでか。最後に腹いっぱいメシを食べたかったけど……無念だ」



 これが最後の言葉か。普通ならもっと命乞いするものではないか。人間らしいような人間らしくないような……。


「変な男。でも、容赦はできないよ。攻撃!」


 最後の指示を出す。無慈悲な一撃が放たれ、今度こそ脅威を排除するはずだ。



「……どうしたの? 攻撃だってば!」


 なぜかドロンが攻撃しない。宙に浮いたまま、停止しているのだ。


「おーい! 聞いているの?? こ・う・げ・き!!」



 強く命令するが、ドロンはやはり動かない。もう一度指示を出そうとしたが、急に赤い光を放って点滅を始める。


『脅威を感知しました。距離二百メートル。攻撃を開始します』


 そして、なぜかフワフワと思わぬ方向に飛んで行ってしまった。

「面白かった」「続きが気になる」と思ったら、

ぜひブックマークと下にある★★★★★から応援をお願いします。


好評だったら続きます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ