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魔女たちの終末 ~怠惰な青年と堅物魔女の終末旅路~  作者: 葛西渚
第1話 アンドロイドは恋の夢を見るのか
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プロローグ① 仕事から逃げた男

ポストアポカリプスな世界観のファンタジーです。しばらくは連続投稿しますので、よろしくお願いします。

 ここはコーラル。大地の腐敗が進み、終末が迫る世界だ。人々は仕事や食事にあり付くことも困難で、貧しさを恐れて神が住むと言われるノモスに祈りを捧げる日々を送っている。


そんな世界で、今日も一人の青年が飢えに悩まされていた。



「仕事もなければ金も尽きた。僕の命は……ここまでみたいだ」



 行き詰った人生を嘆きながら、表情の薄い青年、アナトは薄暗い空間の中で寝返りを打つ。しかし、コンクリートの上ではどんな体制だろうが、体が痛くて仕方なかった。



「でも、仕事をやめると決断したのは僕自身だ。仕方がない」



 結局は仰向けになってみると、天井の汚れが酷く目立っていることに気付く。この廃墟を寝床にしてから二日目。今にも崩れるのではないか、という不安を抱き続けていたが、どこからから破砕音が聞こえてきた。



「……天井、落ちてこないよな?」


 一度上半身を起こして辺りを見回すが、さらなる崩壊の兆しは感じられない。きっと、すぐに崩れることはないはずだ、とアナトは再び横になる。


「まぁ、どっちでも良いか。天井が落ちてきたら、そのときはそのときで考えよう」



 崩壊の危険よりも眠気の方が勝ってしまう。それだけ、彼は疲れているのだ。仕事だけの日々。やりたくないことを続けて、彼は肉体だけでなく精神もすり減っている。だから、眠りにくい硬いコンクリートの上でも、睡魔に落ちて行き、近付いてくる足音にすら気付かなかった。



「ちょっと。……ちょっと、貴方。どうして、こんなところで寝ているの?」



 目を開けると、自分と歳も変わらないような若い女が、こちらを見下ろしている。ぼんやりとした視界の中、アナトは幸福な最後を迎えられる気がして、自然と笑みを零した。



「そうか……。女神が迎えに来たのか」



 空腹のあまり、最後の景色がこれなら悪くはない、と自らの命を諦めかけたが、女神は長い黒髪を手で払いながら、呆れるように溜め息を吐いた。



「残念ながら女神じゃないわ。私は一条瑠璃(いちじょう るり)。この辺の大地が腐敗し始めているから、逃げ遅れた人がいないか見回っているの。貴方は?」


「僕はアナト。見ての通り、ただ寝ているだけの男だ」



 女神……ではなく、瑠璃と名乗る女は、訝しがるように目を細めてこちらを見てくる。ただ寝ているだけなのに、なぜ不審がられるのかアナトには理解できなかった。



「……なに?」


「なに、じゃないわよ。私の話、聞いてた?」


「逃げ遅れた人を探しているんだろ? 探せばいい」


「だから、探して見つけたのよ」



 瑠璃の話が理解できず、今度はアナトの方が眉を寄せると、彼女は返すように目を細めている。どうやら怒っているらしいが、彼女は親切に説明してくれた。



「繰り返すようだけど、この辺りの大地に腐敗化の現象が見られている。地面が腐って脆くなったら、こんな廃墟すぐに崩れて……ちょ、寝るな!」



 危うく眠りに落ちるところだったが、瑠璃に胸倉を引っ張られ、身を起こさねばならなかった。



「寝てないよ。でも、床が硬いせいでずっと寝不足なんだ。……えっと、腐敗化ってなに?」


「なんでそんなこと知らないのよ」



 こちらの無知で苛立たせていることは申し訳ないが、知らないものは仕方ない。アナトは素直に「知らないから教えてほしい」と言った。



「ノモスに正しくない祈りを捧げた者がいたの。ニルヴァナは祈りを聞き入れたようだけど、その影響でこの辺りの大地が腐り始めている。汚れた意思を受け入れた分、大地が犠牲になっているのね」



 そんな話を以前も聞いた気がする。引き続き瑠璃の話に耳を傾けた。



「とにかく、腐敗は場所によって凄いスピードで進む。巻き込まれたら大変なことになるから、貴方のように逃げ遅れた人を探していたの」


「ノモス、か……」


「まさか知らないとは言わないわよね?」


「さすがに知っている。あの巨大な石板みたいなやつだろ?」



 このコーラルの大地には、中央と呼ばれるエリアに、巨大な石が突き刺さっている。それはノモスと呼ばれ、ニルヴァナという神が宿っている、とコーラルの人々にとって、信仰の対象になっているのだ。



「よかった。コーラルの人間なら誰もが知っているノモスを知らないなんて言われたら、別の世界からの来訪者を疑うところだったわ」


「別の世界からの来訪者? そんな人間がいるのか?」


「いるわけがないでしょ。冗談よ。ほら、立ちなさい」



 瑠璃に引っ張られるようにして立ち上がり、二人で暗い廃墟を出ることにした。外に出ると廃墟群の奥、はるか遠くにそびえるノモスが見え、その後ろから昇り始めた太陽がコーラルの大地を照らしていた。どうやら、朝が来るらしい。眩しさに目を細めるアナトに、瑠璃が尋ねた。



「で、貴方はここで何をしていたの? いえ、なぜこんなところで寝ていたの? 帰る家はある?」


「いや、ない。ずっと続けていた仕事をやめたんだ。今までは上司が用意してくれた家に住んでいたから、行き場もない。だから、たまたま見つけた、この廃墟で寝ていた」



 なかなかシビアな状況であるにも関わらず、淡々としているアナトに、瑠璃は正気を疑ったようだが、彼は涼しい顔をキープしたままだから、余計に不信感を持たれてしまったらしい。



「住む場所を与えてくれるなんて良い職場じゃない。戻ったら? 崩れそうな廃墟で寝泊まりするより、ぜんぜんいいでしょ」


「いや、無理だ。黙って職場から逃げ出してきたから」


「……逃げた?」


「うん。仕事が嫌になって……逃げ出したんだ」



 悪びれた様子もなく、仕事放棄を告白するアナトに、瑠璃は「やっぱりね」と呟いた。



「きっと、貴方みたいな人間が正しくない教えや祈りを広めてしまうのでしょうね。大地が腐敗することも気に留めずに」



 嫌悪感を露わにする瑠璃。なぜ、そんな態度を取られるのか分からなかったが、アナトは素直な気持ちを口にした。



「そうじゃない。僕はただ、間違ったことをしたくなかっただけなんだ」



 コーラルの象徴ともいえるノモスを見据えながら、自らの選択を信じるアナト。その横顔を瑠璃が真っ直ぐと見つめていた。

初めて挑戦したSF風の作品です。

「雰囲気は悪くない」「キャラもまぁまぁいいじゃん」と思ったら、ぜひブックマークお願いします!

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― 新着の感想 ―
新作公開おめでとうございます! 今度はポストアポカリプスな世界とは、ワクワクしますね~! どんな物語になるのか楽しみです。
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