第六章 安全距離
はじめまして、こんにちは。台湾出身の陸坡ルポと申します。
カツ丼が好きです!(`・ω・´)b
この小説は、もともと中国語で執筆したものをAI翻訳を通じて日本語に変換しています。そのため、不自然な表現や誤った言葉遣いなどがあるかもしれませんが、どうかご容赦ください。
「ジーリン姐。」
昼休み、休憩室で弁当を開いたばかりの林志林の前に、小美と阿南がずいっと近寄ってきた。小美の妙にニヤけた顔を見て、これは何か企んでるな、と察したジーリンは、相手の顔を睨みながら言う。
「なに?ただ飯食ってるだけだろ、そんなに近寄る必要ある?」
「最近さ、私たちに報告しなきゃいけないこと、忘れてない?」小美が言い、阿南と二人で彼の左右の椅子を引き寄せ、さらに距離を詰める。
「報告?報告するのは君たちでしょ、私に。私は上司だよ。ほら、どいて、ドラマ見ながら飯食わせろ。」
二人の頭を押しのけ、画面を見ようとした瞬間、またもや小美のデカ顔が目の前に現れた。
「小美、そのデカい顔もっと見せたいの?なら手伝ってやろうか。」
指をポキポキ鳴らすジーリン。だが実行する前に、阿南が口を開いた。
「小美が聞きたいのは、この前行ったジムのことだよ。あのコーチとの話。」
「ジム?」ジーリンが答える間もなく、小美が顔をしかめて「痛っ!」と叫んだ。ジーリンの指が容赦なく彼女の頬をつまんだからだ。
「本当にやるなんて、ひどい!」
「自業自得だろ。」ジーリンは韓ドラを邪魔された怒りを抑えきれない。
「まあいい、ただ聞きたいだけ。あのジムの体験のこと、全然話してくれないでしょ。まさか……独り占めする気?あの若い筋肉くんを、林“姐”……」
小美の大きな顔が迫り、ジーリンは思わず絶句。
(何をキレてんだ、この人。そんなに飢えてんのか?)
横で弁当を食べながら成り行きを見ていた阿南が、ひと言付け足す。
「小美が好きだった台湾俳優、ほら“ゲイ疑惑”で有名な不老イケメン、最近海外モデルと結婚したんだよ。密かに何年も付き合ってたらしい。で、小美は大崩壊中。」
「うるさい!あの女はカモフラージュだ!私の孝犬哥(シャオチェン兄)が女と結婚するわけない!フェイクだ!……で、そのコーチ、結局どうだったの、林志林!」
ついに“姐”すら付けずに呼び捨て。
ジーリンは呆れ返る。(いや、これは相当重症だな。こんなショック、直男が“新垣結衣が星野源と結婚”って聞かされたくらいの破壊力あるもんだろ。回復に二週間はかかるな。)
「要するにね、ジーリン主任、小美は今“雄の生き物”に癒されたいの。できればイケメン、筋肉見える、触れるやつ。だから狙いはあなたのジムのコーチってわけ。」
阿南はそう言いながら、空中で両手をもみもみ――まるで胸を揉む仕草。
林志林は生まれて初めて「女が空中で乳を揉む」光景を見て、絶句した。
「阿南、お前……女なのに、男に興味ないんだろ?」
ショートカットに眼鏡、メンズのジャージにダボダボのTシャツ。典型的なトムボーイスタイルの阿南は肩をすくめて答える。
「うん、男も女も興味ない。だから、なんで恋人が欲しいだの、色々したいだの……そんなに執着するのか分からない。」
そう言って顔を背けるが、どこか微妙な視線を二人に向けた。
「ちょっと待て、“色々”って何だよ。小美ならともかく、私を巻き込むな。ただ下班後にジムでコーチのレッスン受けてるだけだって……」
――ふと脳裏に浮かぶ。あのトントンコーチのスウェットの大きな“ふくらみ”と、ピンク色の乳首。
(俺……まさか余計なとこ見てないよな……?)
……たぶん。
「で、あのコーチってジーリン姐のタイプ?」
阿南が問いかける。
「違う!」林志林は即座に否定。
「やっぱりタイプだからコース買ったんでしょ!」小美が口を大きく開けて叫ぶ。
「だから違うって!耳どうなってんの!?」
――ジムに通い始めてもう二週間。週二回のレッスンを続けているが、毎回トントンこと藤毅騰の授業を受けるたび、まるで別世界に迷い込んだような感覚に陥る。人間のはずなのに、自分とはまるで違う生物みたいだ。
「前に踏み出して体を伸ばして。腿の裏をストレッチしてリラックス。」
短パン姿の藤毅騰が一歩大きく踏み込み、弓なりの姿勢を取る。ふくらはぎから太腿にかけて筋肉が浮き上がり、しゃがむたびに丸く盛り上がった尻の形が強調される。
本当は短パンなんて好きじゃない。だが今朝アキ兄貴からメッセージが来た。
――「大学の頃に履いてたランニングショーツあるだろ?今日それ履いてけ。」
昔の体型に合わせたショーツは、今の体にはピチピチすぎる。街を歩けばやたらと視線を感じるのは気のせいじゃない。
(でも短いだけで、別に変じゃない……よな?)
「背筋を伸ばして、三十秒後に足を入れ替え。筋肉を伸ばさないと運動中に痛みが出ます。ウォームアップは必ずやってください。」
「いや、ちょっと……聞きたいんだけど……これ、変じゃない?」
林志林はできるだけ平静を装って、口にする。
藤毅騰は(やっぱり変って思われたか)とビクつきながら答える。
「……やっぱり、この短パンちょっと短いよね?」
「違う!いやそれも気にはなるけど!藤コーチ!どんなに久しぶりに来たって、この距離感おかしいだろ!」
三十秒経って立ち上がった林志林が指摘する。二人の間隔はわずか三人分。
「ど、どこがおかしい?お、俺はちょうどいいと思うけど!」
慌てて顔を背ける藤毅騰。
「よ、よし。じゃあ今日の一組目を始めましょう!」
「話をそらすな!」
林志林が近寄ろうとした瞬間、着替えを済ませ更衣室から出てくる一人の男と目が合った。
シャワーを浴びたばかりのその男は、日焼けした小麦色の肌に均整の取れた筋肉。ボディビルダーのような過剰なサイズではなく、アスリートらしい引き締まった体つき――健康的で、バランスが取れている。
林志林は一瞬、息を呑んだ。
自分もあんな体になれたら、ゲイ界の“天菜”みたいに選り取り見取りになるんだろうか。
――いや、あんな均整のとれた身体は、週に数回気まぐれで一時間だけ練習する自分には到底無理だ。
昔、毎日ジムに通って少しは腹筋が見えるようになったけど、コロナ禍で全部パー。
「誰だって極限まで痛みに耐えて、やっと少しの願いを叶える」って話は宮廷だけのものじゃない。
「……あ、やっぱり君だ!」
さっきの理想的な筋肉男が、林志林を見るなり驚いた表情を浮かべた。
「君がトントンの最初の生徒だね!」
「え……」
更衣室に他の人がいないのが救いだった。顔に“気まずさ”がありありと出てしまう。
彼が隣のロッカーを開けると、中から取り出したのは――化粧水のボトル?
……顔にパッティング?
……さらに乳液を伸ばしてスキンケア?
筋肉質の男が鏡の前で丁寧にフェイスケア。林志林は呆然と見つめるしかなかった。鼻歌まじりで保湿を終えたその男は、こちらの視線に気づいて笑った。
「生徒に勧められたんだ。男もこういうの使えるって、知らなかったんだよ。結構いい感じでしょ?ほら、顔つやつやになった。」
「う、うん……確かにツヤはあるね……」
黒光りした額を見ながら曖昧に答える志林。そして尋ねる。
「君、“生徒”って言ったけど、ここでトレーナーなの?」
「おっと、自己紹介がまだだったね。俺はアーノーコーチ、趣味はトライアスロン。よかったら一緒にどう?外でもチーム組んで活動してるんだ。」
スマホには大会の写真。男女ともに引き締まった体がずらり。志林は思わず自分の腰回りの脂肪をさすりながら、苦笑して答えた。
「ありがとう……でも、まだ無理かな。」
「でもさ、本当はちょっと心配なんだ。君とトントンコーチのこと。」
着替えながら、アーノーが言う。
「どういう意味?トントンに問題あるの?」
(うわ、派手なチェック柄のブリーフ……。)
「指導は問題ないよ。むしろ教える力は強い。でも……問題は君の方かもね。」
香水を体に馴染ませながらアーノーは言った。
「え、俺?」
(シャンプー+ボディソープ+香水……匂い強すぎ!)
思わず一歩下がる志林。
「だって君、ゲイでしょ?」
「……えっ?」
ズボンを履きながら、アーノーは何気なく体をひねり、考えなしに放った一言が林志林を凍らせた。
(え、ちょ……なんで俺がゲイって分かった?俺ってまさか、自分でも気づかない“外放系お嬢”なのか?どこでバレたんだ……?)
「いや、その……トントンコーチの初めての生徒だからさ。俺たちコーチの間では多少……分かってるっていうか。あ、安心して、変な意味じゃないよ。ただトントンはちょっと特別だから。」
言ってからアーノーは(やっべ……)と顔を引きつらせる。余計なことをベラベラ喋る悪い癖。またやっちまった。もし唯一の生徒を逃がしたら自分のせいだ……。
「特別?どういう意味だよ?」
香水の匂いなんてどうでもよくなり、ジーリンは身を乗り出す。
「えっと、その、トントンは……」
アーノーはごまかす暇もなく、頭に浮かんだことをそのまま口にしかける。
ジーリンは器具を運ぶ藤毅騰を見ながら、アーノーの言葉を思い返した。
――「トントンは、なんか昔からゲイに対して偏見があってさ。ゲイの話題が出ると眉をひそめるし、それっぽい人が来ると距離を取るんだよ。」
そう、まるで……
「ホモフォビア?」
「でもな……」アーノーが続ける。「あいつのホモフォビアはちょっと普通と違うんだよな。」
ジーリンの頭に浮かぶのは、ニュースで見るような過激な同性愛嫌悪。手をつないで歩くゲイカップルに暴力をふるう輩や、SNSで憎悪をぶちまける極端な連中。
だが、目の前の藤毅騰の“恐同”は――
「このジャンプボックス、まずは24センチから。俺が見本見せるな。手を振って、体を一気に上に!……こう!」
無駄のないフォームで音もなく跳び乗り、着地もピタリ。……が、ジーリンと目が合った瞬間、サッと飛び降りて後ろに数歩下がる。
「と、とにかく!次は君の番!き、きき気をつけて、手のスイングと一緒に!」
「はいはい。」
ジーリンは半ば呆れながら真似して飛び乗る。着地の音はドスン。
……なるほど。殴るわけでも罵るわけでもない。ただ異様にビビって距離を取る。確かに“特別”な恐同だ。
「もっと軽く!ジャンプは“遠く”じゃなく“上”に!」
その場でピョンピョン跳ねて手本を見せる藤毅騰。
――まるで動物園で餌を取ろうと跳ねるアライグマみたい。思わずジーリンは吹き出しそうになった。
真剣な顔で跳んでるから余計に可笑しい。いや、もしかして……ちょっと可愛い?
「もう一組いこう。」トントンは真面目に告げる。
(なんでこんなにゲイを怖がるんだ?外見はマッチョで、顔だって悪くない。もし性格を隠して“正しいこと”ばかり言ってりゃ、女子にもゲイにも人気出るだろうに。……でももしアプリじゃなく、俺がゲイだと知らなかったら……)
その瞬間、真剣にフォームを見てくるトントンの視線がぶつかる。
さっきのオドオドした顔じゃない。
ただ、自分のジャンプを真面目に見てくれている教練の顔。
ジーリンの胸が、なぜかドキリとした。
両足のつま先が先に着地し、柔らかいジャンプボックスの上でバランスを崩した瞬間――。
「やばっ!」と思ったとき、ガシッと両腕が体を支えた。
太くて力強い二頭筋、三頭筋。
まるで鋼鉄のような腕にがっしりと支えられた林志林の心臓は、一瞬だけ少女漫画のヒロインみたいに跳ね上がった。
「……っ!」思わず両手がトントンの肩を掴む。今日いちばんの至近距離。
(あれ……もしかして、この人、そこまでホモフォビアじゃない?)
そう思った次の瞬間。
シュッ、と冷たい液体が自分の腕にかかった。アルコールの匂い。
「……消毒用のスプレー?」
「うん。」
トントンはコクコク頷き、「手、出して」と言う。
言われるままに差し出すと、彼はためらいなくアルコールを吹きかけた。ひんやりする掌。
「……藤毅騰コーチ。今すぐブチ切れてもいいんだけど、たぶん君は“悪気がない”。だから聞くけど……なんで俺にアルコール吹きかけるわけ?」
「えっと……自分にかけたら“お前が汚い”って意味になっちゃうから、アキ兄貴に『それは失礼だ』って言われて……だから君に直接かければいいかなって……」
(いやいやいやいや、それ一番失礼だろが!!!)
頭が真っ白になりかけた志林の額に、怒りの血管が浮き上がる。
「……他のコーチから聞いたんだけど、君……ゲイのことちょっと苦手なんだって?」
「ち、違うよ!ウチのジムはゲイ大歓迎だし!ほら、受付にレインボーフラッグも飾ってあるし!俺たち、あのアプリで知り合ったじゃん!」
「レインボーは六色。あと、最初にチャットしてたの君じゃなくて、そこのアーノーでしょ。」
横でしれっと生徒を教えつつ大口を開けてニヤけてるアーノーを睨む。
「で……消毒じゃなく、今度は香水吹きかけたらどう?」と藤毅騰が恐る恐る言った瞬間――。
ガシッ。
志林は思わず彼を抱き寄せ、手に残ったアルコールを彼の頬に塗りつけた。
驚愕で固まるトントン。背が高い志林にガッツリ抱きしめられ、全身が石のように硬直する。
(ゲイが一番触れられたくない相手に抱きしめられる気分、思い知れ!このバカホモフォビア!消毒液ぶっかけやがって!)
「わぁぁ!志林姐、やるなぁ……!」
このエピソードを聞いたシャオメイは、自分の推し俳優が結婚したニュース以上に興奮し、思わず声を上げた。
「へえ……仕返しの方法がセクハラとはね?」
同僚のアナンが冷ややかに言った。
「誰がセクハラだよ!あいつがアルコールぶっかけてきて、しかもくだらない理由並べやがって……俺が反撃しちゃダメなのか?」
林志林は即座に反論する。
「え、じゃあ殴られたの?ほら、足に青あざあるじゃん。」
小美は目ざとく志林の足を指差し、さらに身を乗り出す。
「ああ、これは今朝テーブルの角にぶつけただけだよ!痛かったんだから!……とにかく、もう終わり!」
食べ終えた弁当を片付けるため席を立つ志林。残された小美とアナンは、欲求不満そうに「まだ聞きたい!」と抗議の顔をする。
だが志林の頭の中は、あの瞬間の映像でいっぱいだった。
――抱きついてアルコールをなすりつけたら、トントン教練の目に涙が滲んでいた。
泣いた……?
そのとき、慌てて腕を離したのは自分の方だった。
動揺していたのはトントンだけじゃない。同性に抱きつかれて泣きそうになった男を初めて見た林志林も、どうしていいか分からなかったのだ。
(……この藤毅騰、いったい何者なんだ?)




