第五章 パーソナルトレーニングを買う
はじめまして、こんにちは。台湾出身の陸坡ルポと申します。
この小説は、もともと中国語で執筆したものをAI翻訳を通じて日本語に変換しています。そのため、不自然な表現や誤った言葉遣いなどがあるかもしれませんが、どうかご容赦ください。
「その……普段ジム通いってしてますか?」
「前はしてたけど、コロナ以降は全然。」
林志林はそう言いながら背伸びをして、一日中のデスクワークでこった肩や首をほぐしつつ、目の前のトントンコーチを見た。
「じゃあ、その……前はどんな運動を?」
「ランニングとか、ダンベル上げたりとか、あとはジムのスミスマシン。」
そう答える林志林は、目の前のトントンコーチに眉をひそめた。
「えっと……トレーナーに習ったことは?」
「前は習ったよ。でも、そのトレーナーがいつも急にいなくなって別の人に代わってさ。結局同じジムで四、五人も交代したんだ。毎回最初から慣れ直し。正直しんどいよ。だからだんだんトレーナー自体を信用しなくなって……おい!せめて顔ぐらいこっちに向けろよ。」
「え?お、俺、ちゃんと聞いてますよ。」
藤毅騰はちらっと見てから、また自分のトレーニングノートに視線を戻した。
トントンコーチは体をガチガチに固め、林志林の正面に横座りしながら、時々チラチラと横目で見てくる。その挙動に林志林はイライラしつつも――どこか黄金ハムスターみたいに左右に首を振るその怯え顔が、妙にバカかわいく思えてしまった。だが最後には我慢できず口を開く。
「人の顔を正面から見るのは最低限の礼儀だろ、藤コーチ。」
腕を組んでそう言う林志林。その顔が少し怒っているように見えて、(俺、何か怒らせた?)と藤毅騰は不安になる。そして横目でそっと林志林を見たあと、しぶしぶゆっくり顔を正面に戻し、叱られた子供のようにうつむきながら続けた。
「じゃあ、続けますね……その、普段ジム通いってしてますか?」
「それもう聞いた。」
林志林は頭が痛くなってきた。肩と背中のこりもあって余計にイライラする。
一方の藤毅騰は「やべっ」と慌てた様子で頭をかきながら、自分の小さなノートをめくる。林志林は心の中でため息をつき――ふと、その大きなタンクトップ姿からのぞく筋肉のライン、胸の二つの突起に視線が吸い寄せられる。
……乳首。
大きめでしっかり立ってる。しかも――
ピンク色だった。
こんな朴訥なノンケ野郎がピンクの乳首って……あり得るのか?
ジムに来た林志林の頭の中は、なぜかトレーニングと関係ないことばかりだった。
――もし顔と性格を抜きにして体だけ見たら、このトントンコーチ、ゲイ界隈じゃ天菜とまではいかなくても、五つ星料理級だろう。頭さえ消せば完璧。
こういうタイプの男は別に初めて見るわけじゃない。それなのに、彼のプロフィール写真を見ると、なぜか次も見たくなる。ちょうど自分がゲイアプリを始めた頃の、あの青臭い気持ちを思い出させるのだ。
ちょうどトントンが何か言い出そうとしていて、(ああ、ここでよくある「楽しく続けられますよ~」的な営業トークでも始まるのかな)と思ったら――
「今すぐ40回分買ってくれたら5回分サービス、さらにシェイカーボトル付き!その場で決済なら12回払い金利ゼロです!」
……ちょっと待て!一気にエンディングまで飛ばすなよ!?
林志林は思わず星座だの干支だの相性占いを疑い始めた。
目の前で、あのアホみたいな顔を真剣にしてセールストークを繰り出すトントンコーチ。
「つまり、何も説明せずにいきなり契約しろってこと?マジで?」
腕を組んで指先でリズムを刻み、足までトントンと動き出す林志林。
契約書を差し出すコーチを睨みつけると、彼は呆けたように見返し――コクリと頷いた。
「帰るわ。」
そう言って立ち上がる林志林。
「え、えっ!?」
トントンは慌てて周りを見回す。――なぜ帰るのか、本人だけ分かっていない。
その背中に冷たい視線を感じて振り返ると、受付のシュウ姐さんが仁王立ち。殺気。
怖くなったトントンは慌てて外へ飛び出すと、ちょうどエレベーターに林志林が乗り込むところだった。
「ま、待って!」
強引に身体をねじ込み、同じ箱に滑り込む。
「は?」
林志林は目を丸くする。さらに驚いたのは、トントンが少し触れただけで「うわっ」と声を上げ、数歩も下がってエレベーターの鏡に背中をぶつけたことだ。
「……何をそんなにビビってんだ?」
林志林は呆れつつも、ちょっと興味が湧いた。この挙動不審さ。
数字に視線を逸らしている彼を見て、林志林はとうとう口を開いた。
「お前、ゲイなのか?」
藤毅騰――トントンはギョッとして、大きく首を横に振った。
「だろうな。じゃあ、あのアプリで探してるのは……生徒?」
林志林は、多くのトレーナーが使う常套句を予想していた。「友達探しですよ」とか、「自分からは声かけません」とか。
しかし、目の前のトントンは頷き、こう答えた。
「生徒を探してます。」
数秒間、二人は無言で見つめ合う。やがてトントンが慌てて言い訳を始める。
「ち、違いますよ、学校の生徒とかじゃなくて!そういう変な意味じゃない!俺はゲイじゃないから、生徒に……その……」
「分かってる。」
林志林は短くそう言った。
この人、なんでこんなに面倒くさいんだろう――。
林志林は目の前のトントンを見ながら思った。
「とにかく、ここはやめとくよ。今日はありがとう。」
肩と背中を揉みながら、エレベーターの一階に降りて出て行く。
ところが数歩歩いたところで、また藤毅騰が後を追ってきた。
(こいつ、ほんとに諦め悪いな。どんだけ売上に困ってるんだ……)
「さっきは……その、えっと……」
「これ、あげます。」
断ろうと振り返った林志林の前に、トントンが差し出したのはポケットから出したカラフルな凹凸のついた小さなボールだった。
思わず受け取ってしまったが、何なのか分からない。ジムの販促品か何か?
「マッサージボールです。肩と背中、すごくこってるでしょ?さっきから揉んでたし、たぶん普段からあまりリラックスできてないんじゃないですか。」
「家でゴロゴロすれば十分リラックスできるけど?アドバイスありがとう。」
軽く流すつもりだった。だが、この時のトントンの表情は、さっきジムでオドオドしていた姿とはまるで別人だった。真剣な顔で、こう言ったのだ。
「ちゃんとほぐさないと、体を壊しますよ。今から使い方を教えますから、帰ったら試してみてください。絶対に楽になります。」
そう言うと、同じボールをもう一つ取り出し、自分の背中に押し当てて壁に寄りかかった。背筋を丸めたり伸ばしたりしながら少しずつボールを転がして、こりをほぐすやり方を見せる。胸にも当てて、肩にも当てて、片足でも――。
大通りの前、人通りもある場所で平然と実演するトントン。林志林は最初、周りの目を気にして左右を見回したが、次第にその真剣な説明に引き込まれていった。普通のトレーナーなら人前でこんなことはしない。彼は口下手で挙動不審だが、教えることに関しては本気なのかもしれない。
「分からなかったら、その……アプリで聞いてください。ちゃんとほぐせば筋肉も緩んで、体が楽になりますから。小さな動きでも、バカにしちゃダメですよ。本当に全然違いますから。」
“ゲイアプリ”とは口にできない直男。
林志林は心の中で鼻で笑いながらも、こくりと頷き、そのままジムのビルを後にした。
夜、自宅。
シャワーを浴びてパックを終えた林志林は、いつものようにソファに寝転びスマホをいじっていた。ふと視線の端に、あのマッサージボールが映る。
――本当に効くのか?ただのボールだろ。
手のひらで転がしながら思う。ネットでは“筋膜リリースガン”や高額なマッサージ機器が話題になっている。一万円以上するものもざらだ。こんな数百元(数千円)にしか見えない小さなボールで効果があるのか?
「まあいい、どうせ一度くらい試されてもいいか。」
林志林は今日トントンに教わった動きを思い出し、ヨガマットの上で一通り実践してみた。体をほぐす動作をひと回り。小一時間ほどで終了。特に変化は感じず、そのまま明かりを消して眠りについた。
――
その頃、ジム。
「叱るべきか、慰めるべきか……ほんとに分からないよ、トントン。」
最後まで生徒がつかず、掃除を手伝うばかりの藤毅騰を見て、シュウ姐は溜め息をついた。さっきの彼の姿からは“頑張ろう”という気持ちは伝わってきた。でも同時に、どうしようもなくイライラもする。
「富裕層の奥様を怒らせた時はあんなに口が達者だったのに、どうして相手がゲイだとすぐ引っ込んじゃうの?彼はただ“男が好き”ってだけでしょ?しかも必ずしもお前のことを狙ってるわけでもない。何をそんなに怖がってるのか、私には理解できない。」
ジムやフィットネス界でゲイなんて珍しくもない。男も女も、トランスジェンダーのビルダーだって普通にいる。逆に、同じ業界でホモフォビア(同性愛嫌悪)の人間も見てきた。だが――“トントン方式の恐れ方”は、正直初めてだった。
高校生の頃から知っている彼。もしかしてずっと昔から?それとも本当にゲイに嫌悪感があるのか……シュウ姐は考え込む。
そんな時、にこにこと笑うアキ兄貴が近づき、トントンの肩をぽんと叩き、ついでに尻を軽くつまむ。
「まあまあ、次また頑張ればいいじゃん。少なくとも彼は来てくれたんだし。体験しなかったけどさ――あっ、痛っ!」
ゴンッ!
アキ兄貴の頭にノートが炸裂した。
「何着せてんのよ、あんたは!」
手にしたジムノートを丸めて、さらにもう一発。
「ジムで指導するんじゃなくて男を釣りに行くつもり?インスタの“鏡撮りマッチョモデル”じゃないんだから!」
「だって、ゲイにはこういう格好がウケるかなって!俺、インスタでこういう写真あげたら“いいね”いっぱい来るし!」
悪びれもせず答える夫に、さらに二発。結局アキ兄貴は車を取りに追い出された。
沈黙のトントンを見て、シュウ姐は“きっと落ち込んでるな”と察する。努力はしていたし、まだ時間もある。今なら一人くらいは――。
自分が余計なことを言わなければよかった。そう後悔するが、今さら言葉を引っ込めるのも難しい。
「毅騰、まだ時間あるから頑張りなさい。ゲイにこだわらなくてもいい。バイトと一緒にチラシ配れば、生徒一人くらい見つかるかもしれないでしょ。」
励ますように言うと、毅騰は苦しそうな顔で口を開いた。
「シュ、シュウ姐……どうしよう。」
「だから言ったでしょ、“もっと頑張れ”って。」
「ち、違うんです!さっき林志林っていうゲイに、つい“分からないことあったら……その……アプリで俺に聞いて”って言っちゃって……」
もし本当にメッセージ来たら、どうすればいいんですか!?
……考えたけど分からない。どうしたらいいんだ俺。
――アキ兄貴、助けてください。
「……藤毅騰、あと三日だよ。見つけられなかったら出て行ってもらうからね、分かった?」
シュウ姐はにっこり笑いながらも、手にした丸めた雑誌を振り下ろし、トントンの頭をバシッ!
「おばあちゃんが心配してくれてるってのに、あんたは何考えてんの!バカ!アンタらトレーナー、全員頭おかしいんじゃないの!? 毎日毎日私を怒らせやがって!藤毅騰!逃げるな!戻って来い!掃除機まだ片付けてないだろ!」
逃げ出したトントンはその声に慌てて鼻をこすりながら戻り、掃除機を回収した。
――
翌日、午前十一時。
生徒ゼロのトントンコーチが、またもや一番乗りでジムを開けた。
朝は自主トレのチャンス。筋トレしながら「今日の鶏むねは何味にしようかな」と考える時間だ。カレー?タイ風?いや、ハーブのローストも悪くない。スクワットをしながら頭の中は食べ物でいっぱい。
――だが、電子レンジで温めた高タンパクご飯を食べ終えた時、彼は思い出した。あと二日半しかないのだ。
条件は“体験”じゃなく――“ちゃんとコースを買ってくれる生徒”を見つけること。
……やっぱりカレー味が一番好きだな。
「はぁ……さよなら、ジムの無料チキン。」
そう嘆きながら顔を上げると――目の前に、昨日そっぽを向いて帰った林志林の姿。
トントンはキュウリに驚く猫みたいに飛び上がり、椅子の後ろに隠れて叫ぶ。
「な、なんでここに!?」
「だって“営業中”って書いてあるから、普通に入っただけだよ。」
林志林は相変わらず妙なこのコーチに首をかしげつつ、まあいいやと近づく。
するとトントンは後ずさり、ついには男子トイレに逃げ込んだ。
「ちょっと、ここトイレだぞ。」
「知ってるよ。それが何?」
林志林は周囲を見回し、「へぇ、このトイレ、きれいじゃん。」
意外にも臭わず、男トイレ特有のアンモニア臭もない。
「当たり前だよ。俺、掃除にはすっごい気合入れてるから!」
褒められた途端、トントンは得意げな顔。
「……はいはい。」
林志林は声を漏らし、廊下に出る。そして振り返り、まだトイレで立ち尽くすトントンに言った。
「コーチ、ジムの中、案内してくれないの?」
「……案内?」
「うん。それと昨日のやつ、全部じゃ効かなかったけど、肩と背中は確かに軽くなった。よく眠れたし。それにさ――“何かあったらアプリで聞いて”って、正直ちょっと驚いたよ。」
これまで知ってきたトレーナーたちは、勧誘に失敗したらすぐ“放置”か“ブロック”。
わざわざ「連絡していいよ」なんて言う人はいなかった。
その一言だけで――林志林は少し、この不器用な直男コーチに興味を持ち始めていた。
「おお、午後はバイト終わって夜まで……トントン、いる?ちょっと……」
あくびをしながら入ってきたコウ(阿龐)は、言葉を最後まで言い切る前に――信じられない光景を見てしまった。
受付横のテーブルで、トントンコーチがジムの契約書と会員証を、昨日現れたあのゲイの男に手渡している。
「な、ななな、なんだこれ!みんなに報告しなきゃ!」
コウはスマホを取り出し、震える手で写真を撮りまくりながらグループチャットに入力。カメラがブレてゴンゴン揺れている。
「40回分に5回サービス、こちら契約書です。お支払い方法は分割も……」
「一括で払います。」
林志林はカードを差し出し、まるで高級ブランド店でバッグを買うかのような態度。
契約書に目を通す彼を見つめながら、トントンはカードを手に取った。だが、林志林と視線が合った瞬間、慌ててそらす。
「何か言いたいことあるんでしょ?コーチ。」
林志林に促されても、トントンは首を横に振り、決済カウンターへ。
――ピッ。
カードリーダーが鳴った音を聞きながら、(これで……クビは免れる……よな?)と胸をなで下ろすトントン。
その直後、スマホに届いたのは――アキ兄貴からの「おめでとう!」スタンプだった。




