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第四章 ギャル登場

はじめまして、こんにちは。台湾出身の陸坡ルポと申します。

カツ丼が好きです!(`・ω・´)b


この小説は、もともと中国語で執筆したものをAI翻訳を通じて日本語に変換しています。そのため、不自然な表現や誤った言葉遣いなどがあるかもしれませんが、どうかご容赦ください。

──LINE交換しない?


もう何人目だよ、いったい!


スマホをスクロールしていた林志林リン・ジーリンは、白目を後頭部までひっくり返しそうだった。どうして十分も会話しないうちに連絡先を交換できると思うのか。ゲイアプリで話し続けたら死ぬ病気にでもかかってるのか? 詐欺師のくせに、焦りすぎだろ。自分だって忍耐力ないほうだと思っていたのに、こいつらはそれ以上。せめて少しは楽しませろ、このディディを。


まあ、このディディは身長一八七センチあるけど。


──でも、もっと仲良くなってから交換したいな。


内心ではブチ切れていたが、林志林は優雅を装い、何も知らないふりをして礼儀正しく返信した。だが数秒後、さらに腹の立つメッセージが返ってくる。


「LINEで話せば仲良くなるじゃん、ハハ……」


林志林は、このアプリに音声機能がないことを心底憎んだ。もしあれば、今すぐ相手に怒鳴りつけていただろう。言っただろ、オレはLINEに移行したくないんだ、言葉通じねえのかよ! 怒りを抑えながら指を走らせ、送ったのは気持ちと正反対の文だった。


──ハハ、もう少し話してからにしよ。今ちょっと用事あるから。


ブロック。


学生時代からゲイアプリと切っても切れない関係にある林志林は、昔ながらのウェブ日記サイトから、スマホひとつで即会えるアプリまで、鳩の伝書と雑誌の文通以外はすべて経験した。だが学んだことはひとつ。アプリで理想の男を探すなんて、この世では不可能。


かつての彼は、ちょっと近づかれただけで手をつなぎたくなる純情ボーイだった。ドラマのヒロインみたいに、無条件で尽くす烈女を気取ったこともある。セルフィーを七十二枚も撮り直し、ベストアングルを選んでイケメンとマッチできたら、その瞬間に告白したくなったりもした。


何年も経っても「その人」には出会えなかった。顔すら見たことのない相手でも、回線が切れると百年の孤独に突き落とされたようで、心は一気に曇天、世界は真っ暗になった。そのとき林志林リン・ジーリンは気づいた。これこそがゲイアプリの現実なのだと。あとになってようやくわかったのは、あの場にいる全員が「寂しいだけ」で、白馬の王子なんて物語は存在しないということ。自分は風に揺れるろうそくの火のように、週末になると誰も知らないクラブに行き、涙目でチャチャを踊るしかなかった。


今の彼は、もうアプリに幻想を抱いていない。むしろわざとイケメンや、体がやたら整った“天菜”をスワイプして避けるようになった。そういうのは自分のものじゃない。「自分の皿に乗らない料理は、無理に食うな」。強引に食えば、腹を壊す。


そして「溺れない」ことを学んだ。殭屍映画の魔女みたいに、男を飢えた手で掴み取ろうとするのはやめ、冷静に眺めることにした。そうすれば、この場所がよく見えてくる。ドラッグ? 見るからにバレバレ。セックスオンリー? 昔、ゴムを外されたことがあって、相手をベッドから蹴り落とし、自費で検査を受けに行ったことがある。陰性だったから助かったものの、あれは死ぬほど恐かった。それ以来、アプリへの失望は一気に加速し、クズは次から次へと現れた。


金をせびる奴。


ゲームのポイントを買わせようとする奴。


仮想通貨に投資しろと騙す奴。


親が病気だと泣きつく奴。


一緒にカンボジアに行こうと誘う奴。


ネットワークビジネスの説明会に来いと言う奴。


「いい加減にしろよ。そんな使い古された手口で私を騙すな。どうせなら色仕掛けで来い。金も身体も持っていかれるなら、せめて気持ちよかった分、諦めがつくわ。偽アカ、偽写真、今どき画像検索もしないのか?」


またひとり、詐欺師がリンクを踏ませようとしたとき、林志林は決めた。美女のようにフェードアウトすることに。風呂に入り、絶対に会わない「美人浴」で気を鎮める。


──もういい。ネット恋愛なんて……。


シャンプーをしながら、林志林リン・ジーリンはスマホから流れるK-POPのダンスミュージックに耳を傾けていた。

割り切ったふりをしていても、期待していないなんて嘘になる。顔だって悪くないはずだ。学生時代は先輩や後輩から告白されたこともあった。オフ会では友達の友達といい雰囲気になった。クラブに行けば、誰かにさりげなく触られることもあった。

湯気に曇った鏡を拭き、映った顔を眺めると、まだ満足できる。ただ一点、自分が巨大な「受け」なのに、いつも「攻め」に間違われることを除けば。


──いや、待て。


志林は両手で自分の胸を持ち上げ、鏡に映る上半身を見て凍りついた。

こんなに垂れてたか? 副乳まで出てるじゃないか。腕を持ち上げてつまむと、二の腕の肉がぷるぷる震えた。腹をつまめば、五花肉みたいな脂肪が浮き輪のように腰を囲んでいる。


そして最後の一撃は、浴室を出て、ほこりをかぶった体重計に足を乗せた瞬間だった。表示された数字を見て、女ソプラノのような悲鳴を上げた。


三年間、コロナを言い訳にジムを避けてきた結果、これまで見たこともない天文学的な体重になっていたのだ。この数年、自分の市場価値が下がり続けた理由が、ようやくはっきりした。


顔を両手で覆いながら思い出す。あの頃、もう解約してしまったチェーンのジム。通う時間といえば、マダムたちと一緒に有酸素のクラスを受ける程度。そもそも自分が本当に通いたかったのは、イケメンのノンケトレーナーのセッションだった。三回だけ教えてもらって、彼は姿を消した。その後に現れたのは女性トレーナー。


「女の先生の尻なんて触りたくないよ! たとえ彼女が大会で賞を総なめしてても。」


嫌いなわけじゃない。ただ、自分がゲイである以上、求めているものは違う。男のトレーナーに「尻を触って、どこに力が入ってるか確かめろ」と言われたり、硬い胸板に触れてベンチプレスを教わったり、そんな「禁断の距離感」を味わいたいのだ。


そう思った瞬間、寝間着を着終えた志林の頭にひらめきが走った。


ゲイアプリには、真剣交際を求める人もいれば、詐欺や遊び目的の連中もいる。でももうひとつ、必ずいるのが「トレーナー」だ。流浪のフリーのパーソナルトレーナーや、ノルマに追われるチェーン店のスタッフ。みな自分の体を餌にして、筋トレに興味を持たせようとする。


たしかに以前も、トレーナーに声をかけられたことがある。でも当時の志林は、筋トレ話に興味がなく、相手にしなかった。そもそも運動が好きじゃないのだ。痩せたいから仕方なくやっていただけで、本音を言えば、一日中ベッドに寝転んでスマホでドラマを追い、あるいは友達と買い物やアフタヌーンティーを楽しんでいたかった。仕事が終わったら、汗だくになるなんてごめんだ。


──とはいえ。


全身鏡に映った肥えた体。これは疲れる疲れないの問題じゃない。年齢も、身長も、もう変えられない。体型まで崩れたら、本当に誰にも相手にされなくなる。国際結婚にでも活路を求めるしかないのか? だが正直、アジア料理以外の「皿」には食指が動かないのだ。


そういえば、この前アプリでやけにトレーナーっぽい男を見かけた気がする。


ダイエットと運動のことを考えていた林志林リン・ジーリンは、数日前の記録をスクロールした。確かにいた。その写真を見た瞬間、頭に浮かんだ三文字は──


「ノンケ顔」。


筋肉質なゲイなら必ず「陽光」と「スポーツ感」を演出する。何年もアプリを使ってきた志林には、その標準パターンが染みついている。まずはプールでのショット、次にジムでの自撮り。スマホのインカメで鏡越しに筋肉と器具を映すのは必須。さらにタイトな登山ウェア姿が加わり、最後に犬や猫とのツーショット。これで「陽キャ筋肉系天菜」のキャラが完成する。


だが目の前の男は、その「マニュアル」に一切従っていなかった。女の子のインフルエンサーを真似したような意味不明の自撮り。部屋の隅で適当に撮った写真。公園のおじさんみたいなランニングシャツ姿。売り物の体を見せる気ゼロ。さらに筋肉の一部だけを切り取った断片的な写真。全体の配置はめちゃくちゃで、志林の目には「失敗作」にしか見えなかった。


それでも「トレーナーだ」と思ったのは、彼のパンツに「奇肌フィットネススタジオ」の文字がでかでかとプリントされていたからだ。こんなに堂々と「客探しです」と書いてあるプロフィール、初めて見た。だが冷静になって考えれば……。


「写真泥棒の偽アカかもね。」

志林はつぶやいた。


あり得ない話ではない。ネットで拾ったトレーナーの写真を使い、会う段階になってから正体を明かす。学生時代、そんな目に何度も遭った。だがそのたびに持ち前の処世術で切り抜けてきた。若い頃は人に失望することばかりだった。


だから放っておくのが一番だ。


スマホをデスクに投げ、フェイスパックを準備した。


……が、一分も経たずに、顔に真っ白なパックを貼ったまま戻ってきて、またスマホを開いていた。結局、あのトレーナーのプロフィールをもう一度見てしまう。


どう見ても「ダサい」のに、妙にリアルさが漂う。普段なら「トレーナー系」は即スワイプしていたはずなのに、今回はなぜか気になって仕方ない。名前は龐龐パンパン。顔はノンケっぽい。でも、ゲイの世界で「顔を見ない」なんてあり得ない。あのランニングシャツの下の体が修正なしなら、確かに説得力があった。


「やば……眉間にシワ寄せたらパック台無しじゃん。」

志林は額を軽く押さえた。


その迷いはベッドに入り、小さなナイトライトを点け、アロマキャンドルを灯す数分前まで続いた。だが最後には、林志林リン・ジーリン龐龐パンパンという名のトレーナーの写真に「いいね」を押していた。あの間抜け面が、見れば見るほど愛嬌があり、可笑しくも思えてきたのだ。


──まさか自分も、ノンケにしか惹かれないタイプのゲイなのか?

バカバカしい。ノンケなんて何年もご無沙汰だ。今どきノンケ幻想なんて抱くやつ、まだいるのか。


そう自分にツッコミを入れながら、志林は今日何度目かの「女MC的白眼」を披露した。


メッセージの送り方には、少し策略を混ぜた。


どうせ彼らは最後には「うちのジムに来い」と誘ってくるに決まっている。ならば逆手にとってやろう。志林は文字を打ち込んだ。相手がトレーナーだと知りつつ、自分もいま偶然トレーナーを必要としている、と。


「どう返す? 騰騰テンテン。こっちが先手だよ。」


数日後、予想外の展開が待っていた。

ビデオチャットを開くと、そこには写真通り少し抜けた顔の騰騰コーチが現れた。だが場所はなぜかトイレ。そして彼はパンツを下ろし、常識的にノンケが日常では絶対履かないような派手なブリーフを見せてきたのだ。


その瞬間、志林は自分の鼓動をはっきりと聞いた。


──この間抜け面でブリーフをさらす男。とにかく一度、この目で確かめなきゃ。


このジムの体験、行くしかない。


場所は志林の会社からバイクで一〇分ほど。彼の仕事はPR・メディア関連。クライアントの評判リスクを処理したり、企業イメージを整えたり──と言っても、実際はウェブサイトを作ったり、イベントを開いたり、プレスリリースを書いたりといった表向きの作業が多い。忙しいときもあるが、給与と福利厚生は悪くない会社だった。


昼休み。

同僚たちとランチのデリバリーを頼みながら、志林は今日ジムに行く話を何気なく口にした。すると仲のいい同僚の小美シャオメイが、スタジオの名前を聞いた途端に反応した。


「ああ、知ってるよ。最近、紅樓ホンロウのバーで広告見たもん。」


「紅樓? ってことは、中のトレーナーはゲイなの?」志林が聞いた。


仲のいい同僚のアナンが口を挟んだ。

「いや、そうでもないよ。毎日あの前を通るけど、けっこうマダムたちが通ってるし、普通のジムって感じ。女のトレーナーもいるみたい。」


「いやいや、女トレーナーは置いといて。中は結構いい男揃いらしいよ。オーナーは既婚者だけどゲイフレンドリーな“大熊天菜”って噂だし、サイト見たらイケメンのトライアスロン選手もいた。怪我で引退した元ナショナルチームの選手とか、他にも……」


「男のことになると調査力すごいね。」

林志林リン・ジーリンが呆れたように言うと、アナンも同意した。

「そのスキル、仕事に活かしてくれたら助かるんだけど。」


「ちょっとー、何よそれ。私だってちゃんとやってるもん。」


小美シャオメイが眉をひそめる顔に、二人は思わず顔をしかめた。志林は同じくゲイの小美を見てニヤリとした。

「またその口尖らせてみろよ。三十にもなって何でまだ“カワイイ子ぶりっ子”するわけ?」


「ちょっと! 三十歳で可愛いしぐさしちゃいけないわけ?」小美は抗議する。

その横で、唯一のストレート女子アナンが正直に言った。

「しちゃダメなんじゃなくて、似合わないんだよね。」


その一言に志林は吹き出した。小美は体をくねらせてアナンを睨み、二人に向かって言った。

「アンタ、ほんと意地悪い女ね。口割られないように気をつけなさいよ。ま、あのジムはいい男ばっかだから、ノンケに引っかからないようにね、志林お姉さま。」


「ご忠告ありがとね、アメ姐さん。」

志林も負けじと皮肉を返した。


「何の話? ずいぶん楽しそうだな。」


そこへ会社のボスが入ってきた。


「お疲れさまです。」


「ボス、見てくださいよ。志林が今日行くっていうジム、ここのトレーナーがみんなイケてるらしいんです。」

小美がスマホを差し出す。その仕草に、志林はすかさず白目をむいた。別に全社に発表するつもりはない。


このPR会社の社長は、人当たりのいい中年のゲイ。外国人のパートナーと結婚しており、オープンにカミングアウトしている。受付のカウンターに掲げられた大きなレインボーフラッグを見れば、この会社でセクシュアリティが隠すべきものではないことがすぐにわかる。志林の所属するメディア部門だけでも、ゲイもレズビアンも何人もいるし、もちろんアナンのようなストレート女子もいる。職場の雰囲気は、意外なほど良好だった。


林志林リン・ジーリンは、いまの会社で自分のセクシュアリティを隠さずにいられることを幸運に思っていた。上司も同僚も部下も含め、人間関係は良好だ。ときには不用意な言葉で傷つけ合うこともあれば、意見が食い違うこともある。それでも、この会社の雰囲気は、彼が望んでいたものに近かった。


定時で仕事を終え、スクーターにまたがってジムへ向かう。今夜は天気がよく、夕方の風が心地よい。普段なら混雑する帰宅ラッシュの道も、今日は驚くほどスムーズだった。もしかして今日はツキがあるのか──そう思った瞬間、彼は今朝チェックし忘れた「唐国師の今週の星占い」を思い出した。


さらに、偶然空いていた駐輪スペースにすっと停められた。余計な手間が省けたぶん、約束の時間まで余裕がある。志林は軽く腹ごしらえをしようと、カフェに入った。


店内では人々がゆったりとコーヒーを飲み、ケーキを味わっている。

フォークで突き刺したその「罪悪の塊」を口に運びながら、彼は思う。もし本当に運動を始めたら、こういうものとは決別しなければならない。そう考えると、今のこの「幸運」こそが嵐の前の静けさではないか、と不安になる。


スマホを取り出し、例の騰騰テンテンコーチのプロフィール写真を眺める。


──まさか、この騰騰って……


「ハイトーンで甲高い金剛バービー、とか?」

志林は苦笑した。ゲイの世界では、あり得ない話ではない。最悪、また新手の“ジム・ビューティー”に出会うだけだ。


約束の時間が近づく。ブランド物のスポーツバッグを肩にかけ、まるでランウェイを歩くモデルのようにジムへと向かう。


そして入口に立った瞬間、思わず足を止めた。


写真と実物には差があるものだが、ここはむしろ写真以上だった。空間は思ったより広く、窮屈さはない。流れている音楽も、よくある洋楽のジムソングではなく、最新のK-POP。さらに受付の横に掲げられた一文が、彼の胸を温かくした。


「当店はLGBTフレンドリーです。」


──なんて心に沁みる言葉。いや、今は感動してる場合じゃない。


志林はカウンターへ歩み寄る。そこでは健康的な肌の青年がパソコンに向かっていた。忙しそうにしている。


彼は声を落とし、丁寧に言った。

「すみません、今日体験の予約をした者なんですが……」


「どうぞ。すみません、こちらへどうぞ。お水いりますか?」

受付にいた男が立ち上がり、太陽のような笑顔を見せた。身長一八七センチの林志林リン・ジーリンの前ではやや小柄に見えるが、その整った顔立ちは、昼間同僚の小美シャオメイが言っていた「イケメン揃い」の言葉を思い出させるのに十分だった。


志林はソファに腰を下ろし、男のコーチが水を注いでくれた。

「どのコーチで体験のご予約ですか?」と親切に尋ねてくる。


「えっと……サイトで見たんですけど……」


──騰騰テンテンコーチ。


「ん?」

そう口にした瞬間、気のせいか周囲のスタッフや通りかかった人たちが一斉に振り返った。驚きと戸惑いの混じった視線。何かまずいことを言ったのか? 志林が不安に思った矢先、受付のコーチがさらに眩しい笑顔を見せた。


「じゃあ、あなたが騰騰の最初の生徒さんですね!」


「い、いや……体験だけなんですけど?」

なぜかジム全体の空気が一気に高揚している。受付のコーチは更衣室の方へ顔を向け、指さした。

「ほら、出てきたのが、あなたの体験を担当するコーチです。」


志林はそちらを見て、目を見開いた。


──「おい、もうすぐ初めての客が来るんだぞ! 汗臭いまま会う気か? 今すぐシャワー浴びてこい!」

暇を持て余して自主トレをしていた藤毅騰フジ・イートンは、琇姐シウ・ジエに怒鳴られ、汗まみれの体を洗うため更衣室に押し込まれていた。


シャワーを浴びて髪を乾かし、セットを整え、今日アキアキ・アニキに用意された服を身につける。だが、どうにも落ち着かない。大きく開いたタンクトップは布の面積が少なすぎて心許ないし、短すぎるショートパンツはサイズが小さく、やけにきつい。


鏡に映る自分は、まるで「着せ替えられた子犬」。

……まあいい。生徒ができるなら、もう「誰にも相手にされないトイレ掃除専門のコーチ」じゃなくなる。給料日前に食費に困って、アキ兄にサプリ代を恵んでもらう必要もなくなる。


だが──その生徒が「ゲイ」だと思うと、藤毅騰の体は硬直した。


更衣室の扉に手をかけたとき、彼はハッと気づいた。


──あれ? パンツ、穿いてない……?


どこか幼さの残る顔立ちと、無垢な眼差し。大きく開いたタンクトップからのぞく胸筋、腹筋、そして陰影のくっきりした背筋。力強いふくらはぎには濃い体毛が茂り、視線を上げるとタイトで細身のスポーツショーツが張り付いている。


林志林リン・ジーリンは、その中央に膨らむ「ひと塊」をどう形容すべきか迷った。錯覚なのか、それともこのコーチの生まれ持った資質なのか。とにかく、やけに目を引く。


少なくとも視覚的には大満足だった。写真よりもずっといい。騰騰テンテンコーチは、意外にも実物のほうが何倍も魅力的に見えた。


近づいてきた彼と目が合い、志林は挨拶しようとした。向こうもそうしてくれるだろう、と。しかしその瞬間、コーチは突然スピードを上げ、彼の横を素通りした。志林と、横にいた別のスタッフは同時に「え?」と声を漏らす。


「藤毅騰! 何やってんの!」

ジムの奥から、女の怒鳴り声が響いた。


見ると、目の前のコーチはスタッフにズボンを掴まれ、ずるずると引き戻されていた。


さっきまでの「ひと塊」は、さらに強調されていた。

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