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第二十章 久しぶり

台湾出身の陸坡と申します。


この小説は、もともと中国語で執筆したものをAI翻訳を通じて日本語に変換しています。そのため、不自然な表現や誤った言葉遣いなどがあるかもしれませんが、どうかご容赦ください。

夜が明け、ホテルの掃き出し窓(フランス窓)のカーテン越しに陽光が差し込んできた。


藤毅騰トウ・イートゥンはホテルのソファに寝転がっていた。天井をぼんやりと見つめながら、パンツ一丁の体にブランケットをかけている。だがブランケットの丈が足りず、鍛えられたふくらはぎと大きな足は外にはみ出していた。藤毅騰は今、昨夜の失態を猛省しているところだ。


以前、アーチーさんと飲んで泥酔し、街中で全裸になって走り回るという「裸奔事件」を起こして以来、酒は断っていた。もちろんトレーニングの妨げになるという理由もあるが、まさか久しぶりに飲んで、またしても自分をひん剥いてしまうとは。一体どういうメカニズムで、酔うと脱ぎたくなるのか? 藤毅騰は誰よりも自分自身に問いただしたかった。


気心の知れた身内の前ならまだしも、よりによってかつての教え子の前でやってしまうなんて。


ごまかすための言い訳なんて何一つ見つからない。それに、目が覚めた今となっては……


下半身の自然な生理現象(朝立ち)が、彼をさらなる気まずさのどん底に突き落としていた。藤毅騰は手でポジションを直そうと試みたが、上に向けても下に向けても、パンツの形がくっきりと盛り上がってしまい、まるで昼寝から覚めたばかりの中学生のような恥ずかしい状態だ。林志林リン・チーリンがバスルームにいる間に、なんとか鎮めようと焦れば焦るほど、状況は悪化する(弄巧成拙)。


その時、バスルームから水が流れる音がした。藤毅騰はビクッと緊張し、その勢いでソファから転がり落ち、カーペットの上に無様に倒れ込んだ。


「…………知りたくもないけど、見ちゃったから一応聞くわ。何してんの、藤毅騰?」


シャツとスーツを身に纏った林志林は、ボクサーパンツ一丁で奇妙な姿勢のまま倒れている藤毅騰を見下ろした。藤毅騰は慌てて這い上がり、ソファの隅に逃げ込み、ブランケットを力一杯引き寄せながら、怯えた目で林志林に言った。


「お、俺、何も悪いことしてないぞ!」


その態度は、まるでアタシが何か悪いことをしたみたいじゃない? 林志林はツッコミを入れるのも面倒だったが、どうやら藤毅騰がいつもの調子に戻ったようで少し安心した。もし昨晩のような状況が続いていたら……


林志林は思い出した。顔を赤らめて服を脱ぎ捨て、虚ろな目をしていた藤毅騰の姿を。トレーニングによって鍛え上げられた、層を成すような筋肉のライン。腕、大胸筋、腹筋、背筋、太ももにふくらはぎ。そして、平常時ですらあんなに大きかった股間の……


いけない、これ以上考えるのは危険だ。理性を失うのは自分の方かもしれない。ここ数年レッスンを受けてきて、もし藤毅騰のあの顔とホモフォビアな性格を取り替えて、あの体だけを残せるなら、ワンナイトラブのような関係を持つのも悪くないと考えたことがないわけではない。


だが、それはあくまで妄想だ。現実は目の前にある。林志林は昨夜自分が畳んでおいた藤毅騰の服をソファに置いて言った。


「あと一時間でチェックアウトよ。まさか延泊してアタシに宿代払わせるつもりじゃないわよね? 藤毅騰……変なこと考えてる暇があったら、さっさと服着なさい! ちょっと藤毅騰! それはアタシのブランケット! 顔に被るんじゃないわよ! もう、ウザいわね! ブランケットにあんたの匂いがつくでしょ!」


最後の最後まで、林志林は藤毅騰に文句を言い続けた。


どうやら今日もアーチーさんに休みをもらわなければならないらしい。藤毅騰はスマホの勤怠管理アプリを開きながら、フロントでチェックアウトの手続きをしている林志林を眺めた。


結局、昨日の同窓会はどうなったのだろう。あの中学時代の記憶の中に生き続ける同性愛者の少年は、その後どうなったのだろうか。昨日と同じロビーのソファーに座りながら、藤毅騰はふとそんなことを考えていた。


「実は、一言言ってくれれば先に帰ってもよかったのよ。アタシは気にしないし。」


チェックアウトを済ませて戻ってきた林志林リン・チーリンは、まだロビーのソファに座っている藤毅騰トウ・イートゥンを見てそう言った。藤毅騰はそれを聞いて答えた。


「それじゃ失礼だろ……その……昨日は本当に申し訳なかった。あんなに飲んで、そのまま寝ちまって……金払おうと思ったんだけど、財布もカバンも……あの……」


「アンタの鞄ならフロントよ。」林志林は藤毅騰の言葉を遮った。


「え?」藤毅騰は呆気にとられて彼を見た。


「昨日、あの同級生の男が帰る時にフロントに預けてったわよ。」 林志林は相変わらず呆けている藤毅騰を見て続けた。 「しつこく絡んでたみたいだけど、そこまで腐った人間じゃなかったみたいね。フロントの話じゃ、本人確認と中身の身分証の照合ができれば返してくれるって。」


果たしてその通りだった。フロントでバックパックと財布を受け取り、中の現金や身分証が無事なのを確認すると、フロント係が親切に尋ねてきた。


「お客様、中身に紛失がないようでしたら、お手数ですがこちらにサインをお願いします。」


「あ、はい。あの、部屋の追加料金って……だいたい、いくらですか?」


「昨晩の、お一人様追加分の料金のことでしょうか?」係員が丁寧に確認する。


「そうです、俺……」


「同室のお客様が、既にお支払い済みですよ。」


「え?」


林志林と一緒にホテルを出て、駅へ向かう道すがら、藤毅騰は頭を掻きながら、ずっと横目で林志林をチラチラと見ていた。林志林は馬鹿ではない。そんな小細工にはとっくに気づいている。信号待ちの時、隣の藤毅騰に言った。


「金を返したいなら、結構よ。アタシが誘って飲ませたんだし、こうなるとは予想外だったけど、はした金なんて気にしないわ。」


「で、でも、金は金だし。」藤毅騰は食い下がった。


「藤毅騰、気にしないって言ってるでしょ。」


林志林は不耐煩うんざりしたように言った。信号が青に変わり、道を渡ろうとしたその時、腕を引かれて動きを止められた。


その感覚に、林志林は一瞬固まり、振り返って腕を掴んだ主を見た。


藤毅騰だった。


「俺が気にするんだ。」


藤毅騰は言った。反射的に林志林の手を掴んでしまったことに、自分でも気づいていないようだ。


トレーニング中、二人が至近距離で接触することは何度もあった。だがそれは、藤毅騰がトレーニングと指導に集中しているからだ。ふとした瞬間に魔法が解けたように我に返ると、彼は林志林がゲイであることを思い出し、距離を取るのが常だった。プライベートで関わることなど、もってのほかだ。


なのに、この手を引く動作はなんだ? 藤毅騰はもう同性愛者を怖がっていないということか?


林志林は藤毅騰の表情を観察した。この男は、自分から触れたことに無自覚なようだ。二人の間に常に存在していた「距離」という名の壁を、彼自身が破ったのだ。林志林はその驚きを表に出さず、心の中に留めた。今ここで指摘してしまえば、その壁はまたすぐに築かれてしまうだろうという予感がしたからだ。


だから、この数分間だけは、気づかないふりをさせてほしい。


「そんなに気にするなら、朝ごはん奢ってくれる?」 林志林がそう言うと、藤毅騰の想像を超えていたのか、数秒間林志林の顔を見つめてから、コクンと頷いた。その反応の遅さに林志林はイラッとした。 「何よ? 奢るの躊躇してんの?」


「あの、てっきり『アンタが気にするかどうかなんて知ったことか!』って言われると思ったから。」


藤毅騰の言葉に、今度は林志林が呆気に取られた。もし手を掴まれていなかったら、確かにそう言い返していただろうからだ。


「あ、悪い。」 その時ようやく、藤毅騰は自分が林志林の手を強く握りしめていることに気づき、慌てて手を引っ込め、謝った。


後ずさりしない? 以前なら、うっかり彼のようなゲイに触れてしまった時、藤毅騰は反射的に後ろへ下がっていたはずだ。だが今、彼はただ隣に立っている。


こいつ、本当にゲイが平気になったのか?


「あ、あいてる店、調べてみる。」


酔った勢いで言っていた「努力する」というのは本当だったのか? だが、努力してどうにかなるものなのか? 藤毅騰のやつ、無理をしているんじゃないか?


「あの、牛とか食べるか?」 それとも、ただ気まずさを埋めるため? 昨晩の出来事があまりに強烈すぎたから? それとも、ホテルのスタッフに言われて、アタシがついでに鞄のことを聞いてあげたから?


「ネットだと、あの牛肉スープ(牛肉湯)の店が有名らしい。評価も星5だし、朝一なら並ばないって。」 あるいは、感情を吐き出したことでスッキリして、学生時代のことを気にしなくなったのか? でも、傷つけられた記憶なんて、忘れようとして忘れられるものなのか? じゃあ、なぜ? そもそも、アタシはこの後クライアントに会わなきゃいけないのに、こんな奴に朝食を奢らせてていいわけ?


「うん、聞いてる?」 たかがマッチングアプリで知り合った、コーチと生徒の関係に過ぎないのに。


「そこ、左に行って。」 それに、もう二度と会うこともないだろうし。


「もうすぐだ、目の前。」 もし、たった一晩で藤毅騰が同性愛者を嫌いじゃなくなったのなら、それは……


悪くないこと、なんじゃない?


「林志林?」


「ん?」


牛肉スープの店の前で、店主が「営業中」の札を掛けたところだった。名前を呼ばれ、林志林はようやく顔を上げた。目の前にはあのジムトレーナー、藤毅騰がいる。相変わらず体はいいが、顔は憨厚うだつのあがらないな感じで、ちっとも可愛げがない。


「林志林、牛肉スープ……奢らせてくれるか?」藤毅騰は聞いた。


「ああ……」


「姉さん! 姉さん! 早く来て、この店よ! 妹のアタシが調べたんだから間違いないわ! 朝だから並ばなくていいのよ! ほら見て、ガラガラ! すごいでしょ!」


店の前にいる二人の背後から、騒がしい集団の声が近づいてきた。 短く刈り込んだ坊主頭、ピアス、あご髭、ピチピチのタンクトップか背中が大きく開いたシャツ、膝上丈のスポーツ短パン。色はカラフルで、虹色の旗のロゴを身につけ、様々な白ソックスとスニーカーを履いている。まるでクローン人間のように同じ格好をした彼らは、甲高い声で互いを「姉妹シスター」と呼び合いながら、藤毅騰の目の前を通り過ぎ、店に入ろうとしていた。


林志林は見た。彼らが通り過ぎる瞬間、藤毅騰の顔色が一変するのを。 彼は思わず数歩後ずさりした。接触するのを恐れるかのように、顔を歪め、つまずいて転びそうになった。その姿は、かつて林志林が知っていた「あの藤毅騰」そのものだった。その無様な姿を見て、林志林は思わず吹き出した。


「ははは、藤毅騰、なんでそんなビビってんのよ!」


林志林は笑ったが、藤毅騰はまだパニック状態で言った。 「あ、あいつら……あんたと同じ人たち?」


「素直に同性愛者って言えばいいでしょ。『アタシと同じ人たち』って何よ。」 林志林は呆れて白目をむいた。


藤毅騰はやっぱり藤毅騰だ。 やはり人間、たった一晩で変われるわけがないのだ。


這是這段故事的尾聲,情感從激烈的衝突轉為平淡但雋永的日常。藤毅騰的「碎念」顯示他恢復了教練的本色,而林志林最後的感悟則為這段關係畫下了一個溫暖的句點。


以下是為您翻譯的日文版本:


牛肉スープの店に入ろうとしたその時、林志林リン・チーリンはふと思い出したように振り返り、後ろにいる藤毅騰トウ・イートゥンに尋ねた。


「本当にここで食べるの? 中には『アタシと同じような人たち』がいるわよ。」


林志林はわざと藤毅騰の口調を真似て聞いた。藤毅騰は眉をひそめたが、そのまま店に入っていった。自分がからかわれていることには気づいているようで、耳を赤くして言った。


「わざと真似すんなよ。飯を奢るのは俺だし、あいつらと相席するわけじゃないだろ。それに言ったろ……俺、同性愛者が嫌いなわけじゃないって。」


「ただ、中学の時のことを思い出して、怖くなるんでしょ。」


林志林のその言葉に、冷やかしの色はなかった。蛇に噛まれた人が井戸縄を見ても怖がる(羹に懲りて膾を吹く)ように、過去の忌まわしい記憶は、大人になっても心の影として残りやすい。いくら体が頑強なジムトレーナーとはいえ、中身は普通の人間だ。林志林は分かっていた。同性愛という存在は、藤毅騰にとって長年立ちはだかる高いハードルであり、それをどう乗り越えるかは彼自身の努力にかかっている。そして今、林志林自身もまた、その「乗り越え難い壁」の一部なのだ。


「牛肉スープにする? それともルーローハン(滷肉飯)?」


林志林が注文票に書き込もうとすると、すぐに藤毅騰に阻止された。


「ルーローハンは脂っこすぎる、白飯にしろ。牛肉スープは肉だけ食ってスープは飲むな。あと、茹で野菜にタレ(滷汁)はかけるな。この突き出しは加工食品だ、食うな。それからこれは加糖飲料だろ、こういうのを飲むと糖分と脂質が一気にオーバーして、デブになるぞ……んぐっ!」


「黙って食え、藤毅騰。」


アタシがデブだってことに触れないと死ぬ病気なの?


林志林はその減らず口を掌で塞いだ。太るのは自分でも分かっているが、今はただ静かに食事を楽しみたいのだ。意外なことに、口を塞がれても藤毅騰は抵抗せず、ただ「やめろよ」と目で訴え、「本当のことを言っただけなのに」と叱られた子犬のような表情を見せた。


林志林は悟った。


藤毅騰は、同性愛者が怖くなくなったわけではない。 「林志林」というこの同性愛者が、もう彼にとって恐怖の対象ではなくなっただけなのだ。


たとえ自分がゲイであっても、藤毅騰はもうそれを気にしない。 最後になるかもしれないこの再会で、それを喜ぶべきなのだろうか。


「藤毅騰、手が当たってる。」


林志林が言うと、藤毅騰は皿を取ろうとして林志林の手に触れている自分の手を見た。彼はただ手を引っ込め、普通に「あ、悪い」と言い、別の皿に手を伸ばした。


ごく自然に。過剰な反応もなければ、特別な意識もない。ただ普通に料理を取り、飯を食う。


変化というものは、当事者が気づかないうちに徐々に訪れるものだ。 高級ホテルのビュッフェではない、路地裏の牛肉スープの店。次第に客が増え、騒がしくなり、南部の湿気と熱気が充満し、小さな扇風機では太刀打ちできなくなっていく。


だが林志林は思った。今後の藤毅騰は、もう自分の知っている藤毅騰ではなくなるだろう。 彼は変わっていく。林志林はその日を想像した。 いつか、もし二人がまた偶然出会うことがあれば、その時の藤毅騰を見てみたい。


「あ、あのさ。」


食事が終わり、会計を済ませた藤毅騰が、別れを告げようとした林志林を駅の構内で呼び止めた。林志林が不思議そうに見ると、藤毅騰はスマホを取り出し、少し照れくさそうに言った。


「一緒に、一枚撮らないかと思って。」


「あら、そんなにアタシとの別れが名残惜しいの? 藤毅騰コーチ。」 林志林はからかうように言ったが、すぐに現実的な疑問を投げかけた。 「まさかとは思うけど、アタシがいなくなった後、まだ生徒が一人も見つかってないとか言わないわよね? 正直に言いなさい、藤毅騰。」


「……すぐ撮るから。」


「話を逸らすんじゃないわよ。」


「撮るぞ、タイマー5秒。」


「藤毅騰。」


「お、お、俺だって努力してんだよ! その話はすんな。」


「知ってるわよ。アンタが努力してることくらい。」


「え?」 その言葉を聞いた藤毅騰は、聞き間違いかと思い、林志林の方を振り向いた。


「レンズ見なさい。」


行き交う人々で溢れる、ごくありふれた駅の構内。 特別な背景も理由もなく、ただ互いのスマホでツーショット写真を撮り、そして別れ、背を向け、それぞれの人混みの中へと消えていく。


林志林と藤毅騰は知っていた。彼らの少し奇妙ですれ違いだらけだった物語は、電車が駅に入り、ドアが閉まると同時に幕を閉じるのだと。


台湾という広い人海の中で、異性愛者の彼も、同性愛者の彼も、それぞれの物語を続けていく。彼らの生活圏は交わることなく、連絡を取り合う友達になることもない。ただ偶然、コーチと生徒になっただけ。


別れてから数年経っても、藤毅騰は相変わらずジムのトレーナーであり続け、林志林もまた、朝九時五時のサラリーマンであり続けるのだろう。



※※※※



「これで、荷造りは最後だ。」


数年後、藤毅騰トウ・イートゥンは引越しの真っ最中だった。アーチーさんとシウ姉さんの実家に住まわせてもらっていた彼は、数年間の努力と、弟分のアーノルド(阿諾)やシャオパン(小龐)の協力もあり、ようやく固定客がついた。自分のレッスンを売り込むことにも積極的になれていた。


以前、藤毅騰の指導の下、フィジーク大会に初挑戦したシャオパンが、なんとオーバーオール優勝(全場総優勝)を果たしたのだ。本人は死ぬほど喜んでいた。会場にはシャオパンと互角の選手が何人もいたが、藤毅騰に言わせれば、今回の審査員が好む「爽やか系イケメン」の顔立ちをシャオパンがしていたからに過ぎない。どんな場面でも、イケメンであることは何よりも強力な武器になるようだ。


だが、もう一度藤毅騰の指導を受けたいかと聞かれれば、シャオパンは全力で拒否するだろう。あれは人間が受けるトレーニングではないからだ。


藤毅騰は自分の立ち位置を見つけつつあった。シャオパンのように女性客にモテるわけでもなく、アーノルドのようにお喋り上手で誰とでも仲良くなれるわけでもない。だが、どんな生徒が自分を求めているのか、彼は徐々に理解し始めていた。


「予約していた者です。藤毅騰コーチをお願いします。」


アーチーさんのジムに、屈強な体つきの男が入ってきた。周りのおばちゃんたちや初心者とは明らかに対照的なその男は、入ってくるなり藤毅騰を指名した。二言三言かわした後、二人はすぐに意気投合し、男はその場で契約書にサインをした。


「各セットのメニューに脚トレ(レッグデイ)を必ず組み込むことを勧めます。もしフィジークからボディビルやクラシックフィジークに転向するなら、今の脚の筋肉量じゃ足りない。それからチェストプレスですが、重量と回数をもっと増やして、オールアウト(力歇)を狙うべきです……」


藤毅騰は、同じく大会出場を目指すその男に対し、トレーニング法からセットの組み方、筋膜リリース、細部の筋肉への効かせ方まで熱心に説いていた。周囲も気づき始めていた。藤毅騰は初心者向きではない。大会を目指す選手や、ある程度経験のあるトレーニーの調整役としてこそ、彼の真価が発揮されるのだと。アーチーさんは、藤毅騰がいずれ国際大会に出るボディビルダーを支えるプロコーチの道に進むのではないかと考えていた。


台湾にそのような人材は多くないが、彼は確実に自分の顧客層を見つけ出していた。


棚に並ぶ藤毅騰のメダルやトロフィーは伊達ではない。アーチーさんは数年前、藤毅騰が国際大会から持ち帰ったトロフィーを誇らしげに眺めた。パソコンには、当時の藤毅騰の勇姿を収めた動画もしっかり保存されている。


「ん? これは……」


ゴミや不用品を整理していた時、藤毅騰は棚の奥深くに、分厚くて埃をかぶった暗い色の冊子があるのに気づいた。目立たない場所に押し込まれていたそれを、手を伸ばして取り出し、埃を払う。それは、彼の中学時代の卒業アルバムだった。


なんでんこんな要らないガラクタと一緒に、こんな変な場所に?


藤毅騰は不思議に思ったが、すぐに思い当たった。以前、ことあるごとに彼の部屋に出入りしていた妹・藤毅亭トウ・イーティンの仕業だろう。藤毅騰は、妹がずっと中学時代のことを気に病んでいるのを知っていた。


実は数年経ってから、藤毅騰は知ったのだ。当時学校で、彼が男子にキスされたことを言いふらしたのが、他ならぬ妹だったということを。だからこそ、妹は中学時代ずっと彼を避けていたのだ。高校に入ってから、無口だった妹が急に距離を縮めてきたのも、罪滅ぼしのつもりだったのかもしれない。藤毅騰自身は、自分が妹にとって「恥ずかしい兄」だから避けられているのだと思っていたのだが。


唯一のメリットは、アスリートである妹に筋トレのアドバイスができることくらいか。


久しぶりに開く卒業アルバム。いくつかの記憶が蘇る。嘲笑、からかい、仲間外れ。そして突然男子にキスされ、口の中に舌をねじ込まれたあの感覚。今思い出しても不快感が込み上げてくる。それらの記憶は、今でも藤毅騰にとって好きになれるものではない。


だが不思議なことに、あの同窓会の後、酒を飲み、時が経つにつれて、藤毅騰は長年自分を苦しめてきたそれらの出来事を、少しずつ消化(釋懷)できるようになっていた。完全に手放せたわけではないし、考えないようにすることもできない。同性愛者は確かに存在するし、藤毅騰は依然として、ゲイに触れられたり、距離を詰められたりすることに慣れてはいない。


だが、今は……


藤毅騰のスマホが鳴った。出ると、最近新しく入った生徒の甲高い声が聞こえてきた。この生徒は少し変わっている。屈強な筋肉と男らしい顔立ちをしているのに、好きな話題になると声のトーンが跳ね上がるのだ。ゲイ界隈の男神だの、ディーヴァ(歌姫)だの、ジェンダー問題だの。彼は自分から藤毅騰にこう言ってきた。


『アタシ、ゲイなんですよ。家族にもカミングアウト済みで、パパもママも妹も超応援してくれてて。あとは結婚を前提に付き合える彼氏だけなんですけどぉ、コーチ、誰かイケメン紹介してくれません? ていうか、コーチがアタシのこと狙ってくれてもいいんですよ?』


「あ、あの、俺は女が好きだ。」 藤毅騰は感情を必死に抑えて答えた。


『アハハッ、騰騰ったら冗談ですよぉ。もう、なんでそんな可愛いのかなぁ。』


『コーチ、明日友達と食事会なんで、お休みしてもいいですか?』


悪気がないのは分かっているが、やはりこういう明け透けな同性愛者は少し苦手だ。またサボろうとしているのを感じ取り、藤毅騰は言った。


「じゃあ今週の金曜の夜、時間見つけてトレーニングに来い。終わったら存分にリラックスしていいから。」


『はーい、了解ですぅ。コーチ最高、愛してる(ラブだよ)!』


「はあ……」


電話を切った藤毅騰は溜息をついた。もっと受け入れる努力をすべきだろうか。また同性愛者を怖がり始めたら、今までの努力が……


『もし同性愛者を嫌いなままでいたいなら、嫌いなままでいいわよ。』


「ゴミ収集車の音?」


路地の入り口から、「乙女の祈り」のメロディが聞こえてきた。藤毅騰は二つの大きなゴミ袋を提げて外へ走り出した。その拍子に卒業アルバムが地面に落ちた。数分後、戻ってきた藤毅騰はアルバムを拾い上げた。開いたページには、かつてのクラスメート全員の顔写真が並んでいた。


自分の幼い顔と、中学時代に自分にキスをしたあの少年の顔写真が、並んで写っている。


藤毅騰は少年の顔を見つめ返した。長い年月が過ぎた今、もう彼に謝りたいとは思わなかったし、このアルバムの中の人間が自分に何かを語りかけてくるとも思えなかった。徐々に過去を手放しつつあるとはいえ、自分がひどく落ち込んでいる時には、やはりこれらの記憶を思い出してしまうことがある。


だが今、その「最悪な記憶」の後には、あの同窓会の夜のことが続くようになった。


一人の同性愛者が自分の手を引き、酒を飲ませ、あまつさえ自分が裸になって泣きわめくという失態を演じたあの夜。思い出すだけで恥ずかしくてたまらないが、不思議なことに、その記憶が中学時代の不快な記憶の直後に接続されることで、思い出してもそこまで落ち込まなくなったのだ。


藤毅騰は卒業アルバムを持って外へ出た。ゴミ収集車がゆっくりと近づいてくる。二つのゴミ袋と共に、中学の卒業アルバムも収集車の中へと放り込まれた。


引越しのダンボールだけが残された部屋に戻った藤毅騰は、心の重荷が一つ下りたような気がした。


そして願わくば、もう二度とこの重荷について語る日が来なければいいと思った。


いつの日か、その時まで。



※※※※



『今日は台北で年に一度の「台湾LGBTプライド(同志大遊行)」が開催される日です。同性婚の法制化以降、台北のプライドパレードへの参加者は年々倍増しています。アジア各国からの参加者だけでなく、近年では欧米の著名人が隊列に姿を見せることもあります。また、この「レインボーエコノミー」による経済効果も見逃せません。各店舗が様々なイベントを打ち出し、専門家の試算によれば、この二日間で数千万台湾ドル規模の消費が見込まれています。』


今日の台北の街は、一部の区間で賑やかな祝祭の歓声に包まれていた。次々と現れるフロート車、思い思いの装いに身を包んだ人々。まるでカーニバルのような光景で、人波は絶えることがなく、パレードの途中で休憩場所を探すのも一苦労だ。


久しぶりに北部へ戻ってきた林志林リン・チーリンは、友人に誘われて上京してきた。パレード参加は初めてではないが、例年「暑い・混んでる・疲れる」の三重苦で完走できた試しがない。おまけに今回は、その友人に完全にドタキャン(放鳥)されたのだ。激怒した彼は、鬱憤を晴らすためにファストフード店に駆け込み、ポテトとハンバーガーを食らうことにした。


どうせまたどこぞの男とよろしくやってるんでしょ、フン! 友達より男(色ボケ)かよ!


同志大遊行の最中とあって、どの店も混雑していたが、林志林はどうにか人混みをかき分けて窓際の席を確保した。トレーいっぱいの高カロリーな食事を一口ずつ口に詰め込みながら、スマホのグループチャットで、自分をハトった友人を呪うメッセージを連投していた。


そういえば、北部に来るのも久しぶりね。なんだかイケメンが増えた気がしない?


林志林は窓の外を見た。目の前の大きなガラス窓からは、パレードの人波がよく見える。フロート車の上でセクシーな衣装を着て体をくねらせているのは、どいつもこいつも若い男ばかり。自分も年を取ったな(人老珠黃)と嘆かずにはいられない。もちろん、その気になれば相手に困ることはないし、今の彼氏とは「オープン・リレーションシップ」という協定を結んでいて、もうすぐ交際6年目に突入する。


正直なところ、今の彼氏と付き合うことになったきっかけも、大概あり得ない場所だった。


ジムのシャワー室だ。そこでヤッて、セフレから本命になったのだ。


うわぁ、今考えると「エロ・グロ・ナンセンス(腥煽色)」以外の何物でもない、ロマンチックの欠片もない馴れ初めだわ。林志林は自分の恋愛事情にツッコミを入れたが、そもそもこんな恋が始まったのも、あのホモフォビア(同性愛嫌悪)のコーチと一緒にレッスンを受けていたせいで、感覚が麻痺していた(将錯就錯)からかもしれない。


暇つぶしにマッチングアプリを開いてみた。林志林は、かつてこのアプリであの変なジムコーチと知り合った過程を思い出した。ホモフォビアのくせにゲイアプリを使っていたあの男。真面目モードの時の指導は凄腕だが、素に戻ると面倒くさくてイラつかせる奴だった。


そもそも、なんであんなコーチに耐えられたのか、今となっては謎だ。


そんなことを考えていると、顔写真なしで筋肉の写真だけを載せたプロフィールが目に入った。林志林は迷わず「いいね」をスワイプした。あーあ、アタシってば、こうやって肉欲に目がくらんで泥船に乗っちゃったのよね。マッチング成功の通知を見ながら思う。


今の彼氏はこういうイベントに興味がないし、友人は来ない。今回の台北旅行は始まったばかりだというのに、もう半分終わった気分だ。女神様でも現れない限り救いようがないが、今の気分じゃ魔法使いのお婆さんが来ても、アタシの死んだ心は生き返らないわね。


林志林はコーラのストローを噛みながら、ぼんやりと考えた。


「来たの? 実は無理して来なくてもよかったのに。こういう場所、好きじゃないでしょ。」


隣から女性の声がした。電話をしているその女性は、トレーを持って林志林の隣の空席に座り、通話を続けていた。 「今、あの大きいマクドナルドにいるの。ちょっと混んでるけど。公園にいるの? 近いじゃん、こっち来れば?」


隣の適当な女でさえ迎えに来る人がいるってのに。フン、一人ぼっちなのはアタシだけってわけね。


人の電話を盗み聞きしながら、林志林はまた心の中で毒づいた。 残りのポテトとコーラで、荒んだ心を慰めるしかない。


数分後、女性が後ろを振り返り、階段を上がってきた人物に手を振った。 「こっち! ここよ。」


林志林はそろそろ出ようと思い、テーブルの上のゴミを片付け始めた。そしてふと振り返った時、その女性と待ち合わせていた人物が目の前に立っていた。二人の視線が交差する……


もし、いつかまた会うことがあったら、どんな姿になっているか、少し期待していた。


スポーツ短パンに、変な配色のTシャツ。ヘルメットを被っていたせいでペちゃんこになった髪型は相変わらずダサい(矬)。顔つきも変わらず、あの憨厚(うだつのあがらない実直そう)な感じそのままだ。唯一変わったのは、腕に奇妙な和彫り風のタトゥー(包手)が増えていたことくらい。靴下は相変わらずヨレヨレで薄汚れた色をしていて、白いスニーカーも汚れたままだ。


「よく見つけられたわね。人が多すぎて見えないかと思った。」 女性が言うと、目の前の男は答えた。話し方も相変わらず、しどろもどろだ。 「た、たぶん、二階にいるかと思って。」


まさか、再会するなんて。林志林はそう思い、男の横を通り過ぎようとした。


まさかこんな場所で、しかも同志大遊行プライドパレードの日に出くわすなんて。一番彼に似つかわしくない場所だ。


藤毅騰、アンタはもう……


あの時と同じように、再び、腕を引かれた。 トレーを持ったまま林志林が振り返ると、そこには過去には見たことのない光景があった。


その男は彼を引き止め、驚いた表情の後、少し間の抜けたような、はにかんだ笑顔を浮かべて林志林に言った。


「俺のこと、覚えてるか?」


俺は……




-END-


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