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第十章 好きなこと

台湾出身の陸坡と申します。


この小説は、もともと中国語で執筆したものをAI翻訳を通じて日本語に変換しています。そのため、不自然な表現や誤った言葉遣いなどがあるかもしれませんが、どうかご容赦ください。

――好きなことか



カン! バスケットボールがリングに当たる音。

高校の制服を着た藤毅亭とう・ぎ・ていは、廊下の手すりにもたれて、校庭でバスケットをしている男子たちを眺めていた。

蒸し暑い日で、薄い制服のシャツは汗でしっとりと肌に張り付く。

胸の発育がいい自分の体つきだと、上に薄い服を重ねておかないと、胸の形やブラのラインが男子たちに見えてしまう。

でも、今は誰もいない。

藤毅亭はシャツの襟を軽く引っ張って、首元に風を入れた。


「パス!」

下から男子の一人が叫ぶ。だが、ボールは無視して味方がそのままシュートを打った。


――絶対届かない。あれじゃリングにすら当たらない。

藤毅亭はそう思い、案の定、ボールは虚しく空を切った。

悔しそうに頭をかく男子を見て、ふっと笑う。


数秒後、トイレから出てきた友達の笑い声が聞こえた。

制服姿の女子たちがこちらに駆け寄り、彼女の隣に並んでおしゃべりを始める。


「亭、さっきの超ウケたんだけど! トイレでね――」


兄の藤毅騰とう・ぎ・とうとは違い、藤毅亭は昔から女子の人気者だった。

それだけでなく、隣のクラスの男子が彼女に片思いしているという噂もしょっちゅう流れてくる。


本人は少し不思議に思っていた。

自分のような褐色の肌で、目つきが鋭いタイプの女子が、普通は男子にモテるはずがない。

みんな好きなのは、肌が白くてかわいらしいタイプの子じゃないの?

別にそういう子たちを嫌っているわけじゃない。

でも、友達が「かわいい~」「きれい~」と騒ぐたびに、なんだか落ち着かなくなるのだった。


「ほんとに? これ、琇姐シュウねえが捨てようとしてたイヤリングをもらっただけだよ。そんなにいい?」

藤毅亭は苦笑しながら、自分の耳につけた小さな羽のついたキャラクターイヤリングに触れた。


「かわいい~。亭ってほんと、そういう可愛いの上手に合わせるよね。

私も次それ買いたい! でもこの前イヤリング先生に没収されちゃって、お小遣いなくなったんだ~。」


「だから言ったじゃん。登校中に着けたらダメって。先生、放課後は何も言わないけど、学校では禁止って。」


「だって、まさか本当に没収されると思わなかったんだもん~。」


「じゃあ、中間終わったら一緒に買いに行こ。選んであげる。」

藤毅亭はそう言い、バッグから小さなコインケースを取り出した。

コンビニに飲み物を買いに行くつもりだ。


カバンには可愛い動物のキーホルダーがいくつも揺れている。

財布もほんのり女の子らしいデザイン。

そんな“かわいい小物”を亭はたくさん持っているが、決してひけらかすことはない。

ほどよく、上品に。

それが彼女の自然なセンスであり、いつの間にか、学校中の女子が真似したくなる存在になっていた。


実際、最近は自分と似た格好の女子をよく見かける。

悪い気はしないけど――髪飾りも、ストラップも、靴下の色までそっくりだと、さすがに気まずい。



――好きなことって、なんだろう



「来週の体育、いよいよ水泳が始まるんだって。」

同じクラスの友達が言った。


学校は「台湾人の水辺活動を推進する」という政府の方針に合わせて、試験的に水泳の授業を導入することになった。

授業は校内ではなく、徒歩圏内の市立プールで行われ、そこのコーチが指導を担当する。もちろん体育教師と担任も同行し、生徒が事故を起こさないよう見守る。


「ねえねえ、自習の時間にプール見に行かない? 体育の先生が荷物運ぶの手伝ってくれる人探してるって。もしかしたらイケメンコーチ見れるかもよ?」


「どうせ勉強したくないだけでしょ。市営プールなんておじさんばっかじゃん、見る価値ないって。」


女子たちは笑いながらふざけ合う。藤毅亭とう・ぎ・ていも笑っていたが、ふと昨日のことを思い出した。

そういえば――兄の藤毅騰とう・ぎ・とうは、嫌そうな顔をしながら水泳パンツをカバンに突っ込み、

「なんで走る授業じゃダメなんだよ、水なんか入らなくていいのに」と、まるで小姑みたいにぼやいていた。


「なにが怖いんだろう、あの人。」亭はつぶやいた。兄は泳げるはずなのに。


その後、廊下を通りかかった先生に自習中のおしゃべりを見つかって、男女数人まとめて“労働奉仕”。

荷物をプールに運ぶよう命じられた。

幸い重いものではなく、細かい備品が多いだけだった。


「ねえ、あれ見て!」


「ん?」

プールの上の窓から下を覗くと、男女の生徒が水着姿で並んでいる。

その中に――ひとりだけ明らかに浮いている人物がいた。

水着の上にジャージを羽織ったまま、なかなか脱ごうとしない。


「藤毅騰! またお前か! そのまま入る気か!」

下で体育教師の怒鳴り声が響く。


あちこちから笑いが起きた。

上から見ていた生徒たちも爆笑。

兄が笑い者になって、亭はいたたまれない気分になった。

まったく、何を考えてるのか。


けれど、周りの笑いはどこか軽い。

「バカやってる兄ちゃん」扱いで済んでいるらしい。

中学のときみたいに、悪意を向けられているわけではない――それだけが救いだった。


「どうせ入る前に脱ぐんでしょ!」という兄の言い訳も、当然先生には通じない。

強制的にジャージを脱がされると――その瞬間、笑い声がぴたりと止まった。

次に響いたのは、驚きと感嘆のささやき声。

隣の男子まで目を丸くしていた。


兄の上半身――引き締まった胸筋、腹筋、上腕二頭筋、三頭筋、背中のライン。

まるで体育雑誌のグラビアのようだった。


「おお、藤毅騰、すごいじゃないか! ちゃんと鍛えてるな。

隠すな隠すな、先生に見せてみろ。胸筋、腹筋……十七歳でこれとは大したもんだ!」

「おい! 勝手に飛び込むなー! 戻れ!」


プールは爆笑の渦。


「面白い人だね、あの子。」

一緒にいた女子たちがそう言う。


亭はため息をついたが、目は兄から離せなかった。

水面から引き上げられた兄の体――

眩しい筋肉を見つめながら、思わず自分の腕を曲げてみた。

……線ひとつも浮かばない。


昨日、放課後の廊下で見たバスケット男子たちの、

薄く浮き出た腹筋と腕の筋。

あのとき芽生えた小さな感情が、胸の奥でざわめいた。


夜。


「だから嫌なんだよ、水泳なんか……脱がなきゃいけないだろ。」

夕飯のあとも兄はぶつぶつ。

阿奇哥(アーチー哥)は笑いながら後ろから抱きしめ、兄の胸をつまんだ。


「なに照れてんの? せっかく鍛えた体、人に見せてこそだろ。

将来ボディビル出るなら、水着より小さいパンツ履くんだぞ?」


「出ない! 絶対出ない!」


兄は人の多い場所が苦手だ。

知らない異性も苦手。

ましてや――テレビから流れてきたニュース。


『今週末、台北市で恒例のLGBTプライドパレードが開催されます。

全国から十万人以上が参加予定で――』


兄はすぐにチャンネルを変えた。映画チャンネルへ。

――いつも通りだ。


同性に対して異様に敏感な兄。

でも、阿奇哥夫妻のジムには、日常的にゲイの客が出入りしている。

阿奇哥自身もゲイアプリで「トレーニング興味ある?」と声をかけて、

宣伝兼スカウトをしているのを亭は知っていた。


「テンテンも看板ボーイで出てよ」

――そう頼まれて、兄は逃げ帰ってきたらしい。


無言でテレビを見ていた亭の目に、映ったのは欧米の軍人たちが筋トレするシーン。

兄よりもずっと逞しい体。

その筋肉の陰影を見ながら、亭は思う。

あの人たちは、なんて堂々としているんだろう。


「亭亭、今日静かじゃない?」

琇姐が声をかけた。


「ううん、学校で荷物運びしたから、ちょっと疲れただけ。」


そう言って部屋に戻る途中――

半開きの兄の部屋の扉。


ノックもせずに開けた瞬間、

パンツ一枚の藤毅騰が、びくっと振り向いた。


「ノックぐらいしろよ!」


「なに? エロ動画でも見てたの?」

「見てねぇ! 爪切ってたんだよ!」


手に爪切りを持ったまま真っ赤になる兄。


亭は呆れて肩をすくめ、それでも聞いた。


「ねえ、もし私が筋トレしたいって言ったら、変かな?」


「変だろ。」即答。


「やっぱり……」


兄の体を見ればわかる。

あんな筋肉、女の自分には無理。


でも――


「……ま、やりたいならやれば?」


「え? さっき変って言ったじゃん。」


「変だとは思うけど、別にやっちゃいけないわけじゃないだろ。」

爪を切りながら淡々と。

「ただ、亭が筋肉ムキムキになる姿が想像できねぇ。

琇姐みたいなら分かるけど、お前は……なんか違う。」


その言葉に、胸の奥がざわついた。

兄の言葉は適当なのに、なぜか心に刺さる。


「……ふーん。じゃあ、私がアンタより強くなったら、泣くなよ?」


「泣くかよ。ほんとにやるの?」


亭はうなずいた。


兄は立ち上がり、部屋の隅から5キロのダンベルを二つ取り出す。


「これでやってみろ。俺みたいに二の腕を曲げて。

12回で1セット、4セット。できなきゃ軽くしてやる。」


亭は受け取り、最初のセットは楽勝だった。

だが二セット目から腕が悲鳴を上げ、

三セット目には指先が震え、

最後にはほとんど力が入らなかった。


それでも最後まで終えると、兄はうなずいた。


「限界ギリギリでちょうどいい。

いずれ10キロ、15、20、40……」


「そんなの持てるわけないでしょ!」


そう叫ぶ亭の前で、兄が笑った。

――久しぶりに見る、あの素直な笑顔だった。



――好きなこと



「……あ、こんにちは。」


「え? ああ……この前のカラオケの時の。」


その日、藤毅騰とう・ぎ・とうとの予約は入っていなかった。

林志林リン・ジーリンは気まぐれでジムに来て、スピンバイクを漕ごうとしていた。


彼は本来、ランニングもサイクリングも――汗をかく運動そのものが大嫌いだった。

地獄に「刀山油鍋」なんてなくても、毎日ランニングを強要されたらきっと降参する。

そして、ランニングといえば軍隊の記憶が蘇る。汗臭い直男だらけの最悪な思い出。

誰が「軍にはイケメンが多い」なんて言ったんだ。あいつらの“イケメン”はきっと天国行きだ。


それなのに今こうしてバイクを漕いでいるのは――藤毅騰に「有酸素もしないと痩せない」と言われたからだ。

「老娘は絶対やらない!」と顔に書いてあった林志林に対し、藤毅騰はあの恐同症を再発。

まるで最初の頃のように、距離を取るようになった。

その反応が腹立たしくて、結局折れたのは林志林の方だった。

週二回、四十分間。まるで罰ゲームのようなバイク地獄。


――なんで毎回、俺が悪者みたいになるんだ。

藤毅騰、お前は一体何をそんなに怖がってるんだ?

しかも「自分で有酸素やります」って言った瞬間、あの安心した顔。

……はぁぁぁ!? 誰が安心しろって言った!

死ねこのビビり直男! ゲイだと何が悪い! 

お前のチ○コが金メダル級でも要らねぇわ!!


「あなた、藤毅騰の妹さんですよね?」


心の中で罵詈雑言を飛ばしながらも、林志林は丁寧に声をかけた。

目の前の藤毅亭とう・ぎ・ていは、ヨガウェア姿。

ピッタリとしたレギンスに、細いストラップのトップス。

引き締まった体。深みのあるメイクにまとめ髪。

しかも足元は透明ヒール――まるでランウェイモデルのようだった。


彼女は音楽に合わせ、優雅にポーズを取っている。

その筋肉のラインは強く、それでいてしなやか。

まるで“女神アテナ”が現代に降り立ったようだった。


「びっくりした? 女なのに、こんな体。」


「いえ、驚いたというより……すごいです。本当に。」

自分があまりに見とれていたことに気づき、林志林は慌てて言い訳した。

だが藤毅亭は気にも留めず、ヒールのままポーズを修正しながら言った。


「私、最初にトレーニングを始めたとき、コーチ誰だったと思う?」


「えーと……あの、よく藤毅騰を怒鳴ってる女の人?」


琇姐シュウねえじゃない。うちの兄。」


「は?」


藤毅騰!?

……なるほど、だから他のトレーナーが口を揃えて“あいつは教えるの上手い”って言うのか。

確かに、胸筋も腹筋も見事に仕上がってる――夜のクラブでナンパされるのも無理ない。

……でも、なんかムカつくのはなぜだ。


「私が『筋肉つけたいって変かな?』って聞いたらね、即答で『変だ』って言ったの。

今思えば、一発ぶん殴っとけばよかったわ。妹に向かって“変”って言う兄、殴る価値あるでしょ?」


「……でも、変だって言いながら教えたんですよね?」


「そう。あの人、バカだから。」


ヒールを脱ぎながら亭は笑う。

林志林はその靴を見て気づいた――あれはステージ用。

脚のラインをより美しく見せるための“勝負ヒール”。

あんなもん履いて動くとか、考えただけで地獄。


「高校のときに筋トレ始めて、琇姐にレスリング教わって……才能あるって言われたの。

でもさ、痩せた女子が急に黒くてマッチョになったら、周りみんなドン引きだよね。」


亭は続ける。

ダンベル17.5キロ、ベンチプレス50キロ、スクワット100キロ。

食事管理、高タンパク。

手足の筋肉はくっきりと浮き、ロングヘアは邪魔でショートに。

それと同時に、彼女を取り巻く世界は静かに変わった。


かつて「かわいい」と言われた彼女は、いつの間にか「怖い」存在に。

背後で囁かれる言葉。


――ゴリラ女、男みたい、人間じゃない。


「今なら笑えるけど、当時はきつかったよ。高校生だもん。

気にしないなんて無理だった。」


彼女はゆっくりと視線を落とした。

その横顔に、かつての少女の面影が一瞬見えた。


「でも、気づいたの。

かわいいばっか言ってる子たちは、もう私と同じもの見てない。

私だけ違う世界に来ちゃったんだって。」


彼女はそっと耳元に触れる。

そこには今の自分に似合う、メタリックなピアスが光っていた。

昔、大事にしていた羽のイヤリング――あれはもう、箱の奥に眠っている。


コートのような外見を脱ぎ捨て、

藤毅亭は“かわいい”から“かっこいい”へと変わった。

いつしか、女子たちは彼女を「かっこいい先輩」と憧れ、

男子は「女なのか?」と噂した。


――体育館。転がってきたバスケットボール。

拾い上げた亭は、ためらわずジャンプシュート。

ボールは見事にネットを抜ける。


「……ふっ。」

髪をかき上げ、呆然とする男子を置いて去っていく。


――そうだ、もう“かわいい”の卒業。これからは“かっこいい”で生きる。


***


「……お前見てるとムカつく。」


「は? また何?」

藤毅亭が手を止めて振り返る。


「お前、筋肉つきすぎ。不公平。」


「嫉妬?」


「……黙れ。」

藤毅騰はポケットから小箱を取り出し、顔を赤くして押しつける。


「誕生日、おめでと。」


「嘘でしょ。アンタがプレゼントとか。

これ、あの有名ブランドじゃない? 女とかゲイの客が多い店でしょ。

あんた、よく行けたね?」


「うるさい! さっさと受け取れ!」


逃げるように去る兄の背中。

そして、遠くから聞こえた一言。


「……もう、“変”じゃねぇよ。」


亭は苦笑した。


箱を開ける。

中には――


あの日の羽のイヤリングとおそろいの、

黒雲と稲妻を模したピアスが入っていた。


亭は本当に“かわいいもの”を合わせるのが上手だ――。


藤毅亭はイヤリングの箱のふたを閉じ、なぜだかそのブランドの箱を頬に当てた。両手で顔を隠し、表情は見えないまま、小さく兄の悪態をつく。

――なんでいきなりこういう物をくれるのよ。あなたらしくないし。第一、もう“かわいい系”のイヤリングに合わせる服なんて分からないのに。まったく、私……


「……もう諦めようとしてたのに。まだ私に、こういうのをくれるのはあなただけ。」

藤毅亭は顔を上げ、ため息をつきながらも笑みを浮かべた。自分のイヤリングを外し、兄が贈ってくれた“黒雲と稲妻”のモチーフを耳に付ける。ジムの鏡に映してみて、思わず吹き出す。

「やっぱり、ちょっと変ね。」


――私の好きなこと。女の子であっても綺麗な筋肉を持つこと。トレーニングの疲労と成果を身体で感じて満たされること。それから、可愛い服を着て、少し幼いくらいの小物を集めること。もう誰かの真似の的じゃなくても、男子に告白されなくなっても、陰口を叩かれても、私はそれらが好き。美しいと思えることが好き。

だけど、だんだん気づいてしまった。口にするのが少し恥ずかしい“好き”が、私の中にあることに――認めたくないけれど。


「ジムに来るとは思わなかったわ。」

藤毅亭は、ワークスタジオに入ってくる兄・藤毅騰を見て言う。


「仕事に来た。」

兄が阿奇哥のジムにいる――その光景に、亭はまだ少し慣れない。


「生徒は一人しかいないのに、何の仕事?」

問われた藤毅騰はむっとして、工具棚の大きな掃除機やトイレブラシ、雑巾、消毒用アルコールを指さす。

「環境整備。阿奇哥は大事だって言うし、俺は上手いんだって。」


「ここであんたは“清掃のバイト”じゃなく“トレーナー”だって、改めて言っとく。」

妹はそう言いながら立ち上がり、兄の腕をつかむとベンチにどさっと座らせた。

「大会が近いの。見て。背中のポーズは、こう大きく動かすのが良い? それとも、内側の筋肉を張って見せた方がいい?」


「無理に張っても意味ない。審査員には分かる。バランスが大事。前にも言ったろ、どこかだけ鍛えるなって。そこ、見えなくなる。ここはこう、ライトの当たり方を見て場所を取る。俺がやるから見てろ……」


たまらず、藤毅騰はシャツを脱いで壇上に上がり、妹に“どう見せれば一番美しいか”を体で示す。

大きく逞しくなったその筋肉の持ち主は、相変わらず不器用で怖がりで、面倒くさい。

けれど藤毅亭はふと気づく。――筋肉を鍛えたかったのは、もしかしたら“言い訳”に過ぎなかったのかもしれない、と。


私が本当に好きなのは――

兄の、ずっと見られなかった、あのまっすぐな笑顔がもう一度戻ってくること。


ごめんね。あの時、あなたのそばに立てなかった。

でも今の私は、妹であるだけじゃない。

あなたが傷ついた時、受け止められる“頼れる家族”でもあるの。

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