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第一章 眩しき激情

はじめまして、こんにちは。台湾出身の陸坡ルポと申します。

カツ丼が好きです!(`・ω・´)b


この小説は、もともと中国語で執筆したものをAI翻訳を通じて日本語に変換しています。そのため、不自然な表現や誤った言葉遣いなどがあるかもしれませんが、どうかご容赦ください。

「コーチ、運動しなくても痩せられるんですよ。」


都心のビジネスビル。スーツ姿の人々が行き交い、エントランスには案内係もいる。地下の駐車場から続く隣の棟には、ガラス張りの窓、美しいラウンジ、カプセルコーヒーメーカーにミニバー、そして全自動トイレ――まるでホテルのような豪華な設備がそろっている。


……だが、そのすぐ隣にあるのが、個人経営のジム「マッスル・ワンダー・スタジオ」だ。

おしゃれな受付もオフィスもなく、ひたすらトレーニング器具と重りが並ぶ。長年染み付いた汗とプロテインの香り、時折響く男たちの荒い息遣い――。シャワーと休憩スペースは一応あるが、10人も集まればもうギュウギュウの空間だ。


藤毅騰トウ・イートウ、通称トントンは、そのジムのトレーナー。

今、彼の前にはハイブランドの大きめスポーツウェアを着こなし、真っ赤なリップにバッチリメイク、ネイルも完璧なセレブマダムが座っている。ふっくらした指で頬杖をつき、可愛くアピールしながらこう言った。


「ネットで見たんだけど、痩せるには食事管理が一番大事って。運動しなくても、食事だけで十分なんだって~。」


「……そうなんですか。」

トントンは、どうにかして無表情を貫く。ちらりと受付のシュウさんを見ると、腕組みして睨む視線。「絶対に失敗しないでよ!」という無言の圧力が伝わってくる。


「先月から親友とのアフタヌーンティー、パウンドケーキは5個から4個半に減らしたし、ドリンクもタピオカミルクティーはいつも砂糖控えめ。大好きなパスタも大盛りにしなくなったの。こんなに努力してるんだから、運動しなくても痩せられますよね、コーチ?」


最新のiPhoneをいじりながら、マダムは得意げな表情を浮かべる。


「じゃあ……なんでジムに来たんだろう?」

トントンは小声でぼそっと呟く。


「え?今、何か言いました?」


「いえ、何でもないです。」

シュウさんの凄みのある視線に気付き、トントンは不自然すぎる笑顔でごまかす。

気付けば、受付だけじゃなく、元アスリートのコウさんや、トライアスロン好きでプロテインシェイカーを振っているアーノルドまで、みんなが様子を伺っている。


そんな中、トントンの視線は、休憩室のソファでスマホをいじっている筋肉男にすがるように向けられる。


――頼むよ、ボス。助けてくれ……。


藤毅騰トウ・イートウは必死に眉をひそめて、このジムに連れてきてくれた――そしてここ「マッスル・ワンダー・スタジオ」のオーナーでもあるアキ兄貴にSOSを送った。アキ兄貴はその視線にすぐ気づき、毅騰と目が合うと、真っ白な歯を見せてニカッと笑い、二頭筋と三頭筋を誇示しながらサムズアップ。


――いやいや、いいね!じゃねーよ!こっち見殺しにすんなや!


電波による救援は失敗。毅騰は、再び目の前のぽっちゃりマダムに向き合うことになった。彼女は「食事制限だけで痩せられる」という話を滔々と続けている。「運動したくないなら、なんで体験レッスン(※今日は割引で3,000円!)を予約したんだろう……」と毅騰は内心ツッコミつつ、思わず口から言葉が漏れる。


「じゃあ、食事だけで痩せるなら、なんで体験しに来たんですか?」


「はぁ──?」マダムは不機嫌そうな声を漏らす。


受付のシュウ姉さんが毅騰を鋭く睨みつける。毅騰は椅子に座るマダムのお尻がクッションからはみ出しそうな様子を見ながら、真剣にこう言った。


「その食事方法じゃ痩せませんよ。減らすことじゃなくて、ちゃんとしたものを食べるのが大事なんです。」


「は?何言ってんの?これ、フォロワー60万人のフィットネスインフルエンサーが言ってたんだからね!しかも、毎日7分のトレーニングで理想の体になれるって。まさか、うちの舞王ショウショウ・チュッチュスティックが嘘ついてるって言いたいの?」


舞王ショウショウ・チュッチュスティック?俺的には鼎王カニカマスティックの方が気になるわ。


毅騰は表情を崩さず答える。


「いえ、インフルエンサーさんの言ってることが間違ってるとは言いませんけど、今のあなたの状態では、その“7分間トレーニング”ってやつ、正直向いてませんよ。さっき体脂肪計で見た結果じゃ、7分間脚を上げただけじゃ全然足りませんから。」


「ぶっ……」高タンパクドリンクを飲んでいたアーノルドは吹き出しそうになり、近くのコウさんと女子生徒も「えっ」と目を丸くする。女子生徒のユウンは思わず小声で「うわ、よく言うね……」とつぶやいた。


「バカね……」シュウ姉さんは大きくため息をつき、毅騰が顧客に本音でぶつかる姿を呆れたように見ている。


「なによ!うちのショウショウは、私たちファンのために考えたプログラムなんだからね?まあ、会社が近くなかったらわざわざ来なかったけど、ビラに“半額&無料体験(※通常1回6,500円→0円)”って書いてあったから来ただけよ。それに、私、筋肉つきすぎたらどうすんの?ちょっとだけ動けば十分でしょ。」


「お姉さん、今の段階で“ムキムキになりすぎる”なんて心配は要りませんよ。まずは、そのお腹周りについた脂肪をどう減らすか、現実的に考えましょう。」


毅騰はそう言い放ち、マダムの驚いた表情を全く気にせず、資料をめくり始める。


「だって、お菓子や精製された炭水化物を長い間食べ過ぎて、しかも運動不足だから、脂肪がどんどんお腹に溜まっていくんです。そんな状態が続けば、健康にも影響が出ますよ。まずは簡単な有酸素運動かヨガから始めましょう。おすすめは、この“40回コース”です……だいたい26万円……!」


毅騰が顔を上げたその瞬間、水の嵐が正面から襲いかかった。顔も髪もびしょ濡れ。気付けば、真っ赤な顔で水をぶっかけてきたマダムは、ブランドバッグを掴み、ドスドスと音を立てて出口へ向かっていく。


毅騰は訳が分からず、トレーニングエリアの仲間たちに目を向けて尋ねた。


「え、俺、何か間違ったこと言った?」


「いや……間違ってはないよ、トントン。」アーノルドが苦笑いしながら答える。


「でもさ、本当のことでも、そんなにズバッと言っちゃダメだよ。」コウが言うと、女子生徒のユウンもうなずいた。


「だって、あのままじゃ絶対に痩せないし……」毅騰は不満げに言う。その時、タオルが頭に乗せられる。立ち上がったアキ兄貴が毅騰の頭をくしゃくしゃと拭きながら、いたずらっぽく笑った。


「やめてよ、アキ兄貴!あっちで全然助けてくれなかったじゃん!」


「ははは、人生には“初めて”が必要なんだよ。さ、今からフォローしに行くわ。」


「フォローって、誰を?」


アキ兄貴は毅騰のほっぺをつまみながら、「トントンコーチに心を折られた女性を救うのさ」と答え、そのまま小走りでジムを出て行った。毅騰は不満げな顔でぼやく。


「何だよ、まるで全部俺が悪いみたいに言ってさ。みんなも聞いてたろ?さっきのマダム、筋肉つきすぎるのが嫌とか言ってたけど、こっちは逆に筋肉がつかない方が心配だっつーの。あんなこと言われたらさ……え、ちょっ、ちょっと待って!それ危ないから!」


8キロのメディシンボールを高く掲げたシュウ姉さんの顔は、まるで神社でワラ人形を打つ鬼女のような恐ろしさ。大きな目で毅騰をにらみつけ、デスメタルのような声でこう言った。


「何度言えば分かるの。お前、い・い・加・減・に・黙・り・な・さい!」


「今日こそ親子の情を断つ!」


「ひぃぃ!シュウ姐さん、落ち着いて!誰か、助けて!」


殺気だったシュウ姉さんに一同あわててトレーニング器具を置き、慌てて止めにかかる。ジムが“事件現場”にならないように、みんなで何とかシュウ姉さんからメディシンボールを奪い取るまで、数分はかかったのだった。


「ちゃんと伏せなさい!フォームは完璧に、サボったらバレるからね。私も一応トレーナーだから。」

シュウ姉さんは足を組んで、罰としてプッシュアップの姿勢を取らされている毅騰トントンを見下ろしながら、また大きなため息をついた。


「ねぇ、トントン、別に私もみんなもあなたを見捨ててるわけじゃないのよ?でもこれ、もう何人目?入社してもうすぐ一年になるのに、生徒ひとりも取れてないって、どういうこと?みんな、私だってアキ兄貴だってお客さん紹介してるのに、あなただけは必ず客を遠ざけてしまうのは何で?もうやる気ないの?答えなさい。」


「報告します、やる気はあります。」毅騰はムスッとしながらも答える。なんでシュウ姉さん、軍隊経験ないはずなのに、いつも軍隊式で返事させるんだよ……と思いながら。


「10人来て7人逃げて、3人はあなたに泣かされて、2人は今うちのアキ兄貴の別店舗で“もうあの人に会いたくない”って言ってるし、さらに1人は初日体験で帰っちゃった。最初の日は強度控えめって何度も言ってるのに、みんながアキ兄貴みたいなフィジーク選手やトライアスロン経験者や元アスリートだとでも思ってるの?初日から吐くまで追い込むってどういうこと?」


「だって、その人が来る直前に晩ご飯食べてるなんて知らなかったし……」毅騰が反論しかけた瞬間、シュウ姉さんの目線がビシッと突き刺さる。すぐに口を閉じ、「報告します、シュウ姉さん、もうしません。チャンスをください」と改める。


「チャンス?はぁ、何回目だと思ってるの。今回はアキ兄貴が何を言ってもダメだからね。今すぐ――」


「いやぁ、健康に詳しいなんて全然ですよ。むしろ最近食事制限でイライラしてばっかりで。アキトレーナーのおかげで少しやる気出てきたけど、本当にダイエットって大変ですよね。ねえ、アキトレーナー、私にも健康的な食べ方教えてくれるの?」


まさにシュウ姉さんが毅騰をクビにしようとしていたその時、さっきのマダムがアキ兄貴と和やかに笑いながらジムに戻ってきた。


アキ兄貴は営業スマイルで頷きながら言う。


「いえいえ、お姉さんが詳しいんですよ。僕はちょっとアドバイスしただけですし、今はヨガが流行ってますから。だって、あのショウショウ先生もヨガ勧めてましたよね?練習しておけば、今度ファンイベントとかで披露するチャンスもあるじゃないですか。」


「ほんとだわ、アキトレーナー、話が分かる~!じゃあヨガ、教えてくれる?どのくらいレッスン受ければできるようになるの?」


「まずは体験から始めましょう。40回パックをオススメしますよ。今日ご契約だけして、次回はお好きなタイミングでスタートで大丈夫ですから。せっかくだし、新しいヨガウェアも着たいですよね?」


アキ兄貴の誠実そうな笑顔と、40代とは思えない明るいオーラに、マダムはすぐバッグからクレジットカードを取り出した。


「カード払い、できますよね?」


「もちろんです、お姉さん、こちらへどうぞ。」

マダムが“魔法のカード”を取り出すと、シュウ姉さんはさっと表情を変え、ついさっきまでの鬼の形相が一瞬で優しくなって、アキ兄貴と一緒にドアまで丁寧にお見送り。

すべてのやり取りを見ていた毅騰トントンは、「商売人って、やっぱりすごいな……」と心の中でしみじみ思うのだった。


立ち上がろうとしたその時、誰かに肩をガシッと掴まれる。振り返る前に、背筋が寒くなる声が聞こえた。


「私、まだ“いい”って言ってないけど?毅騰、話は終わってないからね。」


――終わった。今度こそ本気で首だな、これ。


「まあまあ、もう一度だけチャンスあげようよ。トントンも本気で頑張ってるし。」

アキ兄貴が取り成すが、すぐさま奥さんのシュウ姉さんに睨まれる。


「またそれ?自分が教えたからって、甘くしすぎよ。他のトレーナーたちが見たらどう思う?」


近くで聞いていたコウとアーノルドは、すぐにリアクション。


「うん、俺もトントンコーチみたいにならないように、いつも気を引き締めてます。」


「いや、俺は別に気にしてないよ。トントン見てると、まるで馬景濤の熱血ドラマみたいで面白いし。」


毅騰は思わずツッコむ。


「なあ、こういう時にちょっとは味方してくれない?」


「じゃあ、次は紹介なしでトントン自身が生徒を探すってどう?一ヶ月チャレンジして、それでもダメなら……」

アキ兄貴が笑顔で提案。シュウ姉さんはトントンの情けない顔を見て、ため息まじりに言う。


コロナ禍を三年乗り越えたこのジム。正直、アキ兄貴が甘いから持っているようなもので……と思いつつ、シュウ姉さんは指を一本立てて毅騰に告げた。


「これが最後よ。今度こそダメなら、申し訳ないけど本当にクビにするからね。うちも経営があるんだから。」


「ありがとうございます、シュウ姉さん!」毅騰はうれしそうに敬礼。

続けて尋ねる。


「で、あの……」


――どこで生徒見つければいいんですか?


「もう、あなた本当にクビになりたいの?」

シュウ姉さんは、いつの間にか手にしていた8キロのメディシンボールを振り上げ、またもや騒ぎに。みんなが慌てて止めに走る。近くでダンベルを持っていたユウンは、首を振りながらつぶやく。


「トントンコーチ、やっぱり変わらないな。相変わらず面白い。」


――この性格、単純って言うべきか、天然って言うべきか。


「ねぇ、コウさん知ってる?トントンって、昔から全部自分で練習してきたんだよ。」


「マジかよ、本当?あいつ、体育大出身でもないのに、どうやってあの体作ったんだ?」


ジムの男女更衣室――というか、理由は分からないけど、男子シャワールームは女子の半分くらいの広さしかない。シャワーヘッドの間隔も狭く、仕切りもなし。だから、コウとアーノルドの二人のマッチョが肩と肩を並べて立つと、指一本分しか間がない。でもまあ、男同士だから全然気にしないで、よく二人で一緒にシャワー浴びながら、その日の仕事やプライベート、特にトントンコーチの話で盛り上がる。


「でもさ、今回はシュウ姐さん、本気でトントンを辞めさせるつもりみたいだよ。」

コウは泡立てた手で自分の黒いお尻をゴシゴシしながら言う。隣で目を閉じて頭を洗っていたアーノルドが返す。


「仕方ないよ。一年間も生徒一人も取れてないし、昔だったら、レタス(萵苣)でもケンコウ(建工)でも、半月で新規取れなかったら、店長にめちゃくちゃ怒鳴られてたもん。シュウ姐さんたち、よく我慢した方だよ。」


「てかさ、お前の生徒ってどうやって集めてんの?」コウが聞く。


「昔のジムの常連が、そのまま何人かこっちに来てくれてるだけ。」アーノルドが答え、逆に聞き返す。「お前は?前はトレーナーじゃなかったよな。」


「へへ、俺は全部スマホで探してるよ。」


「スマホ?」


そのとき、着替え終わったユウンが毅騰のところへ寄ってきて、ちょっと嬉しそうに話しかけてきた。「トントンコーチ、交際アプリ使ったことある?」


毅騰は「え、交際アプリ?」と聞き返しつつ、ユウンがスマホの画面を見せてくれる。「アプリに登録して、いろんな人とチャットしてると、たまに“ジムに通いたい”って人が出てくるんだよ。」


「そんなことできるの?でもさ、交際アプリってみんな違う目的で使ってるって聞いたけど……」


「違う目的って?」


「セフレ探し。」毅騰はきっぱりと言った。


「……まぁ、それも一理あるけど、マッチングアプリにもちゃんとした人はいるよ。」

(それに普通のトレーナーなら、女子生徒の前で“セフレ”とか言わないし……そりゃ、シュウ姐さんが心配するわけだ。)


ユウンはスマホをしまい、ロッカーを閉めながら言った。

「残り一ヶ月しかないんだから、ネットで探した方が、道端でいきなりナンパするよりはマシでしょ?さすがにこのままクビになりたくないでしょ?とにかく、がんばってね、トントンコーチ。」


「そろそろ求人サイトに履歴書アップしとくべきかな……」毅騰はぼそっとつぶやく。


「私が応援したばっかりなのに、すぐ諦めモード入るのやめてよ!」

ユウンはあきれ顔でジムを出て行った。


生徒がまったく集まらないトントンは、いつも夜の片付けや閉店作業を担当していた。この日も、閉店時間が近づく頃にはジムには誰もいなくなるはずだったのに、珍しくアキ兄貴がソファに座ってスマホをいじっていた。


掃除機と消毒スプレーで一通りきれいにした後、トントンはちょっと意外そうに声をかける。


「アキ兄貴、今日は夜のレッスンないのに、こんな遅くまで?シュウ姐さん、心配しない?」


「シュウは数日実家に帰るんだ。だから今は“独身気分”満喫中ってわけ、ふふふ。」


その“ふふふ”の笑顔が、なぜか少し怪しく見えてしまうトントン。

道具を片付けて着替えながら、何気なくアキ兄貴の方に目をやると、なんとアキ兄貴はマッチングアプリで誰かとやり取りしていた。


(え、アキ兄貴もマッチングアプリ使うんだ……)


そう思っていると、アキ兄貴が相手にブリーフ一丁の筋肉自撮り写真を送信する瞬間を目撃。

トントンは思わず目を見開く。


(えっ、まさか……シュウ姐さんに内緒でアプリで女の子と会うつもり!?)


(やばい……アキ兄貴、やるなあ。すごい、俺も真似した方がいいのかな……いや、でも……)


ふと頭の中に、さっきのマダムの顔がフラッシュバックして、トントンは慌てて我に返った。


「え、今、俺の画面覗いた?」

アキ兄貴が振り返って毅騰トントンを見る。毅騰は一瞬黙ってから、真顔でこう言った。


「いや、でも……三股なんかしてもシュウ姐さんには絶対勝てませんよ。あの人、学生時代は女子レスリングのエースだったって知ってます?」


「ははは、何言ってんの!俺は仕事中だよ、バカだなぁ。」

アキ兄貴は爆笑しながら、こっそり毅騰の胸筋をつまむ。


「お、鍛えてるな?また体デカくなってるぞ。でもな、筋肉だけじゃダメだぞ。たまには頭も使えって。シュウがきつく言うのも、お前のこと思ってだよ。だって、うちがオープンする前からお前のこと知ってるし、“なんで成長しないんだ”って、ほんと心配してるだけなんだ。」


「アキ兄貴も、こうやってやってるんですか?」


「ん?何を?」


毅騰はアキ兄貴のスマホを指差して、「マッチングアプリで生徒探しですよ」と言う。まるで何か大発見したような顔で、


「来てるお客さんって、アキ兄貴がアプリで見つけた人が多いんですよね?そうか、そういうことか!」


「まあ、確かにいるよ。メッセージやり取りして、“ジム興味ある”ってなったら、一度体験しに来てもらうこともあるし。」


「じゃあ、俺も登録してみます。あと三十日あるし。アキ兄貴と同じアプリ使ったら、チャンス増えるかも。アプリの名前、教えてください!」


アキ兄貴がマッチングアプリを駆使してると知って、トントンは一気にやる気に。スマホ越しなら直接話さなくていいし、きっと自分にもできるはず。

――もし一人でも、二人でも生徒ができれば、ジムの皆にも笑われずにすむ……!


毅騰の本気の顔を見て、アキ兄貴は肩を軽く叩いた。


「ほんとにやる気だな?後悔しない?」


「やります!探してるフリって言われたくないですから!」


毅騰トントンの真剣な顔を見て、アキ兄貴はうなずき、毅騰のスマホをすっと取って言った。


「よし、本気でやるつもりなら俺も手伝うよ。今ここで登録手続きしてやるし、年会費も今回は俺が払っとくから。今度こそ、しっかりやれよ?」


えっ、アキ兄貴がマッチングアプリの年会費まで出してくれるの!?


トントンは思わず口をあんぐり開けた。さすが俺の憧れのフィジーク選手であり、一番の兄貴分であり、ジムの師匠でもあるアキ兄貴。今回ばかりは絶対に生徒一人は見つけないと……!

拳を握りしめて、妙にやる気が湧いてきた。


その夜、二人の男――一人は独身、一人は妻が里帰り中――は、西町の屋台で夜食の拉麺をすすっていた。

路上では、数人の若い男たちが大声で笑いながら通り過ぎていく。毅騰のすぐ後ろを通る時、彼は少し椅子をテーブルに近づけて、距離を取った。


彼らはレインボーフラッグのバッジをつけ、短髪で、ジムタンクトップと短パンからたくましい肌を露出している。話題はバーや男の話で盛り上がっていた。

――ああ、ここはこんな人たちばっかりなんだった。

毅騰は少し眉をひそめる。西町のこの辺り、夜になれば紅楼の裏は完全に彼らの世界。とにかく麺を食べ終えて、早く帰ろうと下を向いた。


「お、あの人、めっちゃ仕上がってるな。」

アキ兄貴が肘でトントンを突いた。


トントンも視線を向けると、そこには極短髪で小さなひげ、筋肉のラインが服の上からも分かるほどのガッチリ体型の男が、無表情でスマホをいじりながら誰かを待っていた。


「ほんとだ、すごい体だな……」

そう言い終わるやいなや、その男は突然しなやかな動きを見せ、ひげ面から想像もできないほど綺麗な声で、魔法のような手振りをしながら、向こうから走ってきたもう一人のマッチョに向かって叫んだ。


「ねえ、こっちこっち!もう、また待たされたじゃん~」


――拉麺も豆腐スープも、やっぱりうまい。


毅騰トントンはサッと視線をそらして無視する。その仕草を、アキ兄貴はしっかり見ていた。頭をかきながら、「トントンって、本当に昔から変わらないな……時代の変化、なかなか受け入れられないタイプなんだよな」と思いつつ、拉麺をすすりながら小さくつぶやく。


「……あんまりショック受けなきゃいいけどな。」


「アキ兄貴、小皿料理もう一品頼まない?」

毅騰はアキ兄貴の言葉を聞いていないふりをした。


――――


翌日、昼前。アキ兄貴はあくびをしながらジムのドアを開けようとして、もうすでに誰かが中に入っていることに気付いた。「え、朝早くから誰か生徒のレッスン?」と思いながら中に入ると、ソファに座っていたのは――そう、生徒ゼロのトレーナー・トントンだった。


「……世界の終わり?こんな朝早くから、珍しくない?いつも寝坊してるのに。」


「アキ兄貴……あの、ちょっと相談が……」


「うん?どうした?てか、せっかくだからサラダチキンでも出前頼む?割引クーポンまだ余ってるし。」

アキ兄貴は電気と除湿機をつけながら、じっとトントンの顔を見る。


「で、トントン、何の話?」


毅騰は意を決して言う。


「アキ兄貴、昨日もらったマッチングアプリなんだけどさ……」


「……なんでスワイプしても、出てくるの男の人ばっかりなの?」


毅騰トントンは思いきって聞いてみた。けど、本当はまだ口に出せない疑問があった――

(なんで出てくる男の人、みんなやたら露出多いし、やけにセクシーな写真ばっかなんだ?……もしかして、設定間違えた?それともバグ?)


「おう、別に驚くことないよ。」

アキ兄貴はまったく動じずに言った。


「いや、いやいやいや、これはさすがに変でしょ?」

毅騰は本気で困惑している。


アキ兄貴は笑いながら、トントンの隣に腰を下ろし、肩に手を回して優しく言った。


「昨日、“俺もアキ兄貴と同じアプリ使う!”って言ってたよな?」


「うん……」


「本気でやるって言ってたよな?」


「う、うん、やる気あるよ?」

――もしかして“女の子が全然いない”とか、俺の言い方がまずかったのかな?と焦って弁解し始める。


「俺、別に女の子目当てじゃなくて、ただ……なんで男ばっかなんだろうって、それだけなんだよ!」


「トントン、お前が今使ってるのは、“ゲイ専用のマッチングアプリ”だからだよ。そこに女の子は絶対いないから。」


――100パーセント、絶対に女の子はいません。


アキ兄貴は一語一語ゆっくりと、毅騰に念を押すように言った。

毅騰はまるで石化をくらったみたいに、その場で固まった。

二人の間に沈黙が流れる。しばらくして、アキ兄貴が何気なく聞く。


「それで、サラダチキン頼む?どうする?」


「……は?」

トントンが呆けて返事したその時、スマホに突然通知が。


『トントンさん、あなたに“いいね”が99件届きました!』


“今すぐ“王子様”とマッチングして、ロマンチックなトークを始めましょう!”


――筋肉バカ直球ノンケ・トントンの、ゲイアプリ珍道中、ここに爆誕。

ジムでトレーニングしながらふと思ったんです:

「もし、ゲイが苦手なトレーナーが、どうしてもゲイの生徒を教えなきゃいけなくなったら……絶対おもしろいんじゃない?」って。(´・ω・`)


そんな妄想から、この小説を書いてみました!(๑˃̵ᴗ˂̵)و

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