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ニンジャと、側付き侍女。


「これは困ったでござる」


 縁側でのお茶の後、屋敷に上がるように誘われたミスティカだったけれど。


「淑女に、男性の前で足を晒せと言うのですか!」


 と、断固拒否していた。

 

 当たり前である。


 そもそも素足を晒すことすら恥ずかしいことなのに。

 ミスティカの足には淑女の礼(カーテシー)の姿勢を取る時、ドレスの裾を少しでも上げ過ぎれば見えるくらいの位置に深い傷跡が幾つもあるのだ。


「しかし、屋敷に土足で上がることは、ミスチカ・サンの御無礼になるでござる。屋敷に上がる際の作法故」

「人を誘拐しておいて、作法を口になさいますか」

「『郷に入りては郷に従え』という(ことわざ)もあるでござる。門前まではともかく、屋敷まで着いてきたのはそなたの意志」

「であれば、わたくしは門のところまで戻らせていただきます」

「客人にそのようなこと、させられる訳がござらぬ」


 ニンジャもニンジャで、全く譲る気配がなかった。


「そもそも、最上級の礼儀にて応じられた故に、こちらも礼儀をもってもてなしているのでござるぞ?」

「……最上級の礼儀とは?」

「どうも、という挨拶に、どうもと返されたであろう」

「それが?」

「あれは、友好の契りにござる。『お互いに礼節をもって接し、腹を割って語り、意見を違えば全力で斬り合う仲になる』という意思表示でござろう」


 ーーーそんな風習は、王国にはないのですが。


 ただの挨拶である。

 まさかそんな物騒な意味を含んでいると、誰が思うだろうか。


「……確かにそれを知らなかったことは、こちらの落ち度ですわね……」


 異国の方と接する際に『知らぬから』は無礼を働いて良い理由にはならない。

 まして王族に近しい立場である侯爵家令嬢としては、恥ずべき点である。


 が。

 

「そうした部分については、これから勉強致しましょう。ですが、礼儀の問題として語るのであれば、貴方の方にも落ち度はございます」

「どのようなものか、お聞きするでござる」

「まず、屋敷に上がったところで、ドレスは一人では脱げません」

「そうなのでござるか!?」

「はい。またこちらの風習としては、貴方に肌を晒すことは断固として否なのです。靴を脱ぐにしても何にしても、淑女を招くのであれば侍女と着替えは必須。その点についてはどうお考えですの?」


 ミスティカが切り返すと、ニンジャは少しの間黙り込んだ。


「……確かに、それはこちらの風習を知らぬ(それがし)の落ち度にござるな」

「そうでしょう」


 話が通じるのか通じないのかよく分からない、と思っていたけれど、頭の回転そのものは早い人物のようだ。

 ただちょっと、価値観と生きてきた環境が違い過ぎる。

 

「ふむ。では、もうしばし縁側に掛けて待たれよ」


 と、ニンジャはまた姿を消した。

 そしてそう、言われた通りに座って、体感で20分程だろうか。


 改めて入り口の方から姿を見せた時、彼は一人の女性を後ろに連れていた。

 見慣れたお仕着せの服装に、ポニーテールの形に茶色の髪を括った、小柄で快活そうな少女である。


 彼女は、こちらを見るなりパッと顔を輝かせた。


「ミスティカお嬢様〜〜〜〜ッッ!!」

「……イスネ?」

「ああ、ご無事で何よりですぅ〜〜〜!!」


 ニンジャが連れて来たのは、ミスティカの専属侍女である少女、イスネだったのである。

 

 今にも抱き付かんばかりに突撃してきた彼女は、ジャリジャリジャリ! と地面の小石を蹴散らしながら停止すると、ブワッと涙を流し始めた。


「イスネは、イスネはぁ……ッッ!!! お嬢様がお消え遊ばしてから百度ほど死んだ心地で眠っておりましたぁ!!」

「寝ていたの?」

「夜中で、特にやることもなかったのでぇ〜〜〜〜ッッ!!」


 行動と言動が全く合っていないけれど、元々こういう少女なのでミスティカは特に気にしなかった。

 彼女はそこで、ハッと気づいたように振り返る。


「ニンジャ! お嬢様に不埒なことをしていないでしょうね!?」

「なんという御無礼。契りを交わした者にそのような真似をする訳がないでござる」

「ち、契り!? ままままままままさか、お嬢様! ここ、このニンジャに貞操を!?!?」

「奪われておりません。落ち着きなさい」


 相変わらず騒がしい侍女である。


「この屋敷に上がるのに、履き物も着替えも何もなかったのです。それを伝えましたが……まさか、イスネまで誘拐するとは」

「してないでござる」

「しているではありませんか」

「きちんと事情を説明し、ご同行願ったのみ。喜んでついて来たでござる」

「……そうなのですか?」

「はい!!」


 シュピッと手を上げたイスネが握っていたのは、ミスティカの室内履きだった。


「他にも、色々必要なものを取り揃えて来たでござる」

 

 言いながら、ニンジャはさっさと自分の履き物を脱いで屋敷に上がる。


「さ、お嬢様はこちらをどうぞ!! ニンジャ! ちょっと後ろを向いていなさい!」

「分かったでござる」


 イスネの威嚇を受けて素直にニンジャが後ろを向いたので、ミスティカは彼女の手を借りて室内履きに履き替えた。

 座っていたとはいえハイヒールを履き続けていたので、少々足の先と傷跡がジンジンするけれど、ホッとする。


「終わりましたわ」

「うむ、では部屋に案内するでござる」


 と、ニンジャは先に立って歩き出した。


「……隙だらけですね。刺します?」

「やめておきなさい。多分、そう見えるだけですわ」


 こっそり物騒なことをイスネが呟いてくるのに、ミスティカは首を横に振った。

 側付きの彼女は、暗殺者としての訓練も受けているけれど、実際にその腕を振るったことはないのである。


 あの速度を持つニンジャ相手では、イスネには荷が重いだろう。

 と、思っていると。


「聞こえているでござるよ」


 そう言いながら、ニンジャが手を上げると、その指先には四本のダガーが挟まれていた。


「物騒故、預からせていただいているでござる」

「い、いつの間に!?」


 イスネがパタパタと体を叩いて、自分のダガーがなくなっていることに愕然とする。


「……四本も隠し持っていたのですか?」

「何があるか分かりませんから!! ……こ、この変態ニンジャ! 太ももの内側の鞘に仕込んでおいたものまで! 乙女の履き物の中に手を入れるとはとんだムッツリですね!!」

「そんなところに隠し持つのが悪いでござる。それに、それがし子どもには興味がないでござる」

「私はお嬢様と同い年です!!」

「そうなのでござるか!? これは御無礼!」


 あまり発育の良くないことを気にしているイスネが真っ赤になって怒鳴るのに、ニンジャが驚いて謝罪するが。


 ーーーお互いに、気にするのはそこなのですか?


 と、ミスティカは心の中で思っていた。

 

続きは明日12時更新です。


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