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王太子殿下と、ニンジャの正体。

 

「ううむ……」


 【ニンジャ伝説】に目を走らせていたカーシィは、内容を頭に叩き込んで小さく呻いた。

 すると従者のライディンが、ワクワクした様子で声を掛けてくる。


「どうです?」

「うむ。確かに、血湧き肉躍る物語だな……」


 騎士の伝説を詩人が歌うかのような、平易な文章で書かれたそれには。

 ニンジャがいかに凄く、また並外れた存在であるかが綴られていた。


 言うなれば、ある種の英雄譚である。


 影から影に、闇から闇に、ある時は苦境に立たされた人を助け、ある時は無慈悲に法で裁けぬ罪人を斬る……読み物としては、話題になるのも分かるくらい非常に面白い。


 が、今カーシィが求めているのは、そうした楽しみの方ではなく、ミスティカの行方に関する手がかりである。


 本の中でニンジャはニンジャ刀という刃渡りの短い片刃の剣や、手裏剣やクナイといった形状の違う飛び道具、あるいは魔術よりも凄まじい数々の忍法を操っていた。


 が、一つだけカーシィが実際に見たニンジャとは違う点がある。



「あの『ござる』という口調が、書物の中に見当たらないのだが」



 『どうも』という言葉が、強者としての己を示す掛け声であること。

 あるいは『〜サン』という呼びかけが最上級の敬意を払ったものであること。

 また『御無礼』が丁寧な謝罪であること、等は記されている。


 しかし『ござる』という話し方は、書物の中のどこにも記されていなかった。

 ニンジャのセリフを全部追っても、一度もそうした話し方はしていない。


「そういう口調は、【ニンジャ伝説】の続きの巻にも記されていないですね!」

「続きというのは?」

「それは【ニンジャ伝説】の1巻です。2巻以降、本編だけで10冊分あります。別のニンジャ勢力が現れて信念のぶつけ合いをする下りとか、その別勢力を主役にした外伝もありますし、後は【ニンジャ伝説】の影響を受けた王国詩人も語ってますし、貴族のお抱え作家による二次創作も流通しまくってる一大ブーム作品なので、総数はどのくらいあるか分からないですね!」


 ーーー全く知らなかった。


 一応、カーシィは教養として演劇なども見てはいる。

 が、大劇場で掛かる演目は大体有名な劇団が行うもの。


 古典であったり、あるいは人気作品の中でもいわゆる『上品』なものであることが多かった。

 もちろん、カーシィの耳にも入っているくらいなので、上位貴族にもちらほら口にしていた者はいる。


 が、【ニンジャ伝説】は基本的に、下位貴族や使用人、あるいは大衆などに支持されている類いの物語だったのである。


 まさか、そんなに流行っているものだったとは。

 だが、それならむしろ、カーシィの疑問には答えが出るかもしれなかった。


「ライディン。貴殿の見たそれらの中で、たった一度でも『ござる』口調を目にしたことはあるか?」

「ないですね!」


 その返答に、顎を右手の指で挟んで考える。


 ーーーあの『ござる』が、ニンジャ全体として使われているような口調、ではないのなら。


 実は幼い頃に一人だけ、カーシィはそんな口調の人物に会ったことがあるのだ。


「あのニンジャが何者なのか……誰がミスティカ嬢を誘拐したのか、分かったかもしれん」

「ええ!?」


 ライディンが驚くのに構わず、カーシィは本を閉じた。


 たった一度会っただけだが、強烈な印象の残っている彼。

 もしミスティカを誘拐したのがあの人物なら、辻褄が合う・・・・・


 そして誘拐した目的の方も。


「だが今問題なのは、どこに・・・誘拐したのか、だ」


 犯人の正体が推測出来たところで、肝心のニンジャとミスティカ嬢の行方が分からなければ、意味はないのである。


 しかし少なくとも、一つだけ分かることは。


「もし私の予想通りなら、とりあえずミスティカ嬢に命の危険はないだろう、ということだ。……予想通りならば、だが」


 どちらにせよ、なんとしても見つけ出してミスティカを救い、あのニンジャと話をしなければならない。

 そこで慌ただしい足音がバタバタと近づいてきて、部屋のドアがノックされた。


「何だ? 何かあったのか?」

「は! ご報告致します! 現在、今、城内であの夜会の場にいた者の点呼を取っていたのですが……!」


 ドアの外から、少々焦ったような声が早口で質問に応じる。



「ーーーミスティカ・サルピス侯爵令嬢の側付き侍女が一人、姿を消しているそうです!!」

 

 

※※※


 ーーーミスティカ……どこに消えてしまったの……。


 スウィは、両親と共に下がった高位貴族用の客間で、両手を合わせて祈っていた。


 ティオ侯爵令嬢として生まれた自分。

 けれどスウィは、生来引っ込み思案だった。


 明るく快活なミスティカがいなければ、きっと幼い頃から皆の輪の中にも混ざることは出来なかったし、心も折れてしまっていただろう。


 10歳の時も、彼女がいたから。


『スウィは、魔力を操るのがとっても上手いのよ!』


 そう言って、初対面の子供たちのところに、手を引っ張って行ってくれたから。


 自分では大したことではないと思っていた、空中に色とりどりの光で文字や模様を描く特技を皆の前で披露して、喜んで貰えた。

 受け入れて貰えて、他のお友達を作ることが出来た。


 12歳の時も、ミスティカが居たから。

 

 教会での洗礼の時、天から舞い降りる白い祝福の光は、ちゃんとスウィの体を包んだのに……何も思い浮かばなかったのだ。


 与えられた祝福は、言葉として心に刻まれると言われていたのに。

 他の皆は、祝福を受けたらスラスラとそれを口にしていたのに。


 神から何の祝福も与えられなかったことに青ざめて、頭の中が真っ白になってしまったスウィに、気づいたミスティカは、すぐに駆け寄ってきてくれた。


『もしかして……何も浮かばなかったの?』


 スウィが震えて、泣き出しそうになった時。

 ミスティカは、ニッコリと笑ったのだ。


『大丈夫よ! たまにそういう人もいるって、お父様が言っていたから!』


 そう言って、抱きしめて、耳元で。


『スウィはきっと、生まれた時から祝福されているのよ! 優しくて、賢くて、とっても凄いから、きっと何もいらないと神様は思ったんだわ! だって、スウィはスウィでいるだけでこんなに可愛いもの!』


 って。

 だから、耐えられた。


 スウィの一番のお友達は、ずっとミスティカだった。



 14歳の時に、あの事件が起こるまでは。



 その後、ミスティカは王太子殿下の婚約者になった。

 けれどスウィは、彼女なら良いと思った。


 一目見た時から、心を惹かれたカーシィ王太子殿下。

 内面を知れば知るほど、誠実で少し不器用で、でも優しい、カーシィ王太子殿下。


 彼なら、ミスティカを絶対に幸せにしてくれると思ったから。

 でもあの日から、ミスティカはずっと、無理をするようになった。


 どんなに酷い言葉を口にしても、騙せる訳がないのに。

 幼い頃からずっと一緒にいた彼女が、どんな気持ちでそれを言っているのか、スウィはずっと分かっていた。


 だから、苦しかった。

 自分の為に、そんな無理をして欲しくなくて。


 『無能が』と言われるたびに、『ごめんね』と言っているようにしか聞こえなかった。


 何度だって『気にしないで』って言いたかった。

 でもきっと、ミスティカはそんなスウィの気持ちにも気づいていたから。


 彼女の『看破』の祝福は、そういう力だから。

 『知りたくなかった』って泣いている姿だって、何度も見てきた。


 そういう全部を全てひっくるめた上で、ミスティカは言うのだ。


 『話しかけて来ないで』、って。


 ーーー言えば良かったのかしら。


 こんなことになるくらいなら。

 ミスティカがいなくなってしまうくらいなら。


 自分が間違っていたのだろうか。


 ーーー無事に帰ってきて。お願い、ミスティカ……。


 スウィは、一晩中祈りを捧げながら考え続けた。

 結局王城から屋敷に帰される前に、お父様のティオ侯爵にお願いした。


「一度……カーシィ殿下とお話をする機会を設けていただけないでしょうか」

 

続きは、明日の昼12時に更新します。


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