その6
ソフィーナの村を抜けて更に山を越えるとフェーズラッドの国境がある。
山の峰が自然の区切りを作ってはいるが国境には長い壁と入国するための大きな門がある。
門前の番兵を見てアーサーが
「さて、ここからだな」
と言い、茂みの中で馬車を止めて
「ベールとブーケは箱の中に入れてくれ」
それからその付き添いはもう一つの服を着ろ
と告げた。
ロッシュは己のことだと理解し馬車から降りて服を着替えた。
カイルと同じ市井の服装である。
アーサーも帽子を取り顔を見せると馬車を門に向けて走らせた。
番兵はフェーズラッドへ入ろうとする人々を一旦止めて検問を行い、商人や怪しくない人間は通していくようである。
フィオレンティーナはそれを見て
「意外と厳しいのね」
と呟いた。
カイルはそれに
「常はそんなことないさ」
前に訪れた時は止められることはなかった
と答えた。
カイルはこれまで様々な国を探訪していたのだ。
それなりの知識はあった。
なので、冷静に
「今は異常事態って事だろ」
と付け加えた。
アーサーは番兵の前で馬車を止めると
「私だ」
と告げた。
「下のモノを同伴させている」
それに番兵は彼の顔を見ると敬礼し
「これは失礼いたしました」
どうぞ
と通した。
フィオレンティーナはそのやり取りを横目で
「つまり、今はオズワンドか、オズワンドと繋がりのあるフェーズラッドの人間が実権を握っているということね」
と理解した。
馬車は門を抜けると再び木々の覆う道を通りフェーズラッドの入口に位置する少し大きめの町へとたどり着いた。
そこにはウヨウヨと兵士が通りを歩いて、町の人々の姿はあまりなかった。
ぽつりぽつりと歩く人の姿があっても兵士を避けるように足早に抜けている人ばかりであった。
昼前だというのに活気はなく井戸端会議の談笑すら聞こえては来ていない状態であった。
アーサーは馬車を走らせ一軒の極々普通の宿屋の前に停めると
「箱を持って降りて看板娘のサラアに宿泊を頼んでくれ」
後は彼女とよろしく頼む
と言うと、「「「は?」」」と彼を見るとカイルとフィオレンティーナとロッシュが木箱を下ろすと同時に立ち去った。
……。
……。
「これは、置いてけぼりと言う奴ですか」
とロッシュは冷静に呟いた。
フィオレンティーナはにっこり笑うと
「そうね、でも彼は良くも悪くも目立つ立場の人間だわ」
自由に動くには側にいられると迷惑ね
とさっぱり告げた。
カイルは冷静に
「『迷惑』とは……確かに自由度は低くなるが」
とぼやいた。
フィオレンティーナは宿屋の戸を開けると
「サラアさんと繋ぎを取れということね」
と言いながら、中を見て目を見開いた。
1階はどうやらレストランのようである。
が、ガラーンとして人の姿は無かった。
閑古鳥が鳴いている状態である。
外にあれだけ人がいないのだ。
当然と言えば当然かもしれない。
彼女はフロアの奥で盆を持って立っている年配の女性を見ると歩み寄り
「すみません、この宿の看板娘のサラアさんはおられますか?」
私はフィオレンティーナと言います
と告げた。
カイルとロッシュは箱を持ちながら彼女の後ろに立ち
「俺はカイル、こっちがロッシュだ」
居られたら話をしたい
と告げた。
それに年配の女性は目を見開くと
「あらあらまあまあ」
と言い
「アーサーさまから信用のおける人物と聞いていたのでどんなご立派な人が来るかと思ったら」
と笑った。
彼女はにっこり笑って
「私がサラアだよ」
ここいらじゃ
「宿屋のサラアおばあって呼ばれているね」
と告げた。
最後までお読みいただきありがとうございます。
続編があると思います。
ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。