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その5

 夕刻の空は濃い茜色に染まり、地上には深い陰りが広がる。

 森林は特に木々が闇を生み、山道を進む馬車や人をその漆黒で覆い隠してしまうのである。


 アーサーが御者をし、フィオレンティーナとカイルとロッシュイが積み荷を乗せて座っていた。


 フィオレンティーナは髪を結い上げてウィンプルという白い布頭巾で頭を隠し、長いチュニックを腰の辺りでベルトで絞める村や町の娘が着る質素な服装で手にはブーケを持っていた。

 カイルは丈の少し長いシャツとズボンというこれまた村や町の青年が良くするスタイルでベールを膝の上に乗せて持っていた。


 ロッシュは聖職者の出で立ちで手に本を持っていた。


 フィオレンティーナは馬車に揺られながら

「村で婚礼の儀を行うために向かっている最中ってことね」

 とポツリと呟いた。


 カイルは笑みを浮かべると

「まあ、強ち嘘じゃないな」

 と返した。


 馬車は闇の中をガラガラと走り、夜明け前にフェーズラッドへと続く道の途中で検問の兵士に呼び止められたがアーサーは帽子を目深にかぶって顔を隠しながら

「今からこの先のソフィーナの村で結婚式を行うために新郎と新婦を送っております」

 と告げた。


 兵士はフィオレンティーナとカイルとロッシュをじろじろ見ながら彼らの足元の長い木箱を軽く叩き

「これを開けろ」

 と告げた。


 中には着替えと武器が入っている。

 だが、ここで開けなければ一戦交える形になる。


 フィオレンティーナもカイルも緊張した面持ちで箱を見つめた。


 ロッシュは冷静に

「それでは私が」

 と木箱を開けて

「花嫁と花婿の婚礼の衣装が入っております」

 と見せた。

「せっかくの祝いの品ですので乱暴はおやめいただきたい」


 兵士は花が散りばめられた美しい白いドレスを見て頷くと

「わかった、いけ」

 と言うと顎を動かした。

「ったく、あの辺りは大変だというのに」


 アーサーはそれに

「花嫁の里ですので」

 と答え、馬車を走らせた。


 暫く走り、村の中へと続く道に来るとフィオレンティーナはアーサーを見て

「婚礼の儀は花嫁の里で行うものなの?」

 と聞いた。


 アーサーはそれに

「そうだ、オズワンドでは婚礼の儀は花嫁の里で行い花婿の家へと祝いの全てを持って行くんだ」

 と答えた。

「花嫁は自身の全てを実家から結婚相手の家へと持って行くことで実家の決別を表明することになる」


 フィオレンティーナは「詳しいのね」とポツリと呟いた。


 アーサーは馬車を走らせて村の中央を抜けながら

「5歳の時に結婚したからな」

 と告げた。


 カイルは思わず目を見開きアーサーの背中を凝視した。

 5歳で結婚と言うことは間違いなく政略結婚である。


 なのにこの自由っぷりが凄い、と思ったのである。

 アイスノーズは何だかんだで結婚するとあちらこちらに飛び回ることはない。

 いや、あったとしても王妃と同行と言う形をとることが多いのだ。


 なので、無意識にアーサー王子は独身だと決めつけていたのである。


 アーサーは肩越しにカイルを見ると

「安心しろ、3年前に離婚した」

 と答えた。


 カイルは思わず視線を逸らせて

「……そうか」

 とポツリと零した。


 フィオレンティーナは沈黙を守りつつ

「3年前……と言うと、彼があの時にオズワンドが終わったと言った頃の少し前ね」

 そうオズワンドが急激に変わり出した頃ね

 とふっと考えた。


 サザンドラにしてもアイスノーズにしても、そして今回のフェーズラッドにしても元凶はオズワンドだ。


 言い換えればアーサーは敵。

 敵の王族だ。


 だが。

 だが。

 フィオレンティーナは視線を伏せながら

「今回は味方……いえ、アイスノーズでも敵ではなかったわ」

 でもオズワンドの人間だわ

「恐らく国王や王妃に知られたら命がないわね……なのに何故?」

 何を考えているのかわからないわ

 と考えた。


 警戒心を解いて良いのか。

 それとも味方と見せておいて裏切るのか。


 今はまだアーサーの心の在り処は闇の中であった。

最後までお読みいただきありがとうございます。


続編があると思います。

ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。

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