その3
かつて同じような目をしたことがある。
両親と兄を冤罪で失った時だ。
世界に絶望した。
この世界全てが自分を拒絶している。
恐ろしくて。
悲しくて。
でも。
でも。
フィオレンティーナは強く彼女の肩を掴むと笑むと
「応えて、貴方はフェーズラッドの王族」
その足で立ち前を切り開く強さが必要です
と告げた。
エリーゼは涙をぼろぼろと零しながらも強くフィオレンティーナを見ると
「お父さまはフェーズラッドの国に恥じぬようにと……言いました」
私はフェーズラッドの王女エリーゼ・トゥルー・フェーズラッドです
と答えた。
「父を、フェーズラッドを救うのに力を貸してください!」
そう言ってフィオレンティーナに抱き着いた。
それを見てアーサーは苦く笑みを浮かべた。
「さすが……アイスノーズの聖女……いや、サザンドラの悪徳令嬢と言うべきか」
エリーゼは堰を切ったように大声で泣き、強く強く抱き着いた。
恐怖と悲しみで固まっていた心を解放したのだ。
フィオレンティーナはそれを感じると微笑んで抱きしめて
「助けるわ、ええ……まだ失っていないのならば」
希望はあるわ
と告げて、駆け込んできたカイルとアルフレッドとジョンを見た。
「私、フェーズラッドへ行こうと思います」
フェーズラッドはきっとアイスノーズよりも悪い状況に陥っている
それにカイルとアルフレッドとジョンは顔を見合わせ、ハッとアーサーに目を向けた。
アーサーは静かに頭を軽く下げた。
ジョンはフィオレンティーナの腕の中で泣いているエリーゼを見ると
「エリーゼ王女、か?」
と呼びかけた。
エリーゼはジョンを見ると足を進めて
「ジョンさま」
とその手を握り額を付けた。
ジョンは彼女を抱きしめると驚くフィオレンティーナとカイルとアルフレッドを見ると
「フェーズラッドとは交流がある」
エリーゼ王女はロバート王と技術の交換のために来訪してくれたことがある
と告げた。
フィオレンティーナはジョン皇子を見ると
「私はフェーズラッドへ行きます」
その間エリーゼ王女を守っていただけますか?
と聞いた。
カイルは彼女の手を掴むと
「フィオレンティーナ! 君は何を言っているか分かっているのか!?」
アイスノーズよりも悪い状態で王女がここにこの状態でいるということは
と言いかけた。
フィオレンティーナは真っ直ぐ彼を見ると
「わかっているわ、だから行くのよ」
アーサー王子も恐らくフェーズラッドを救いに行っていると思うわ
「でも王宮が落ちたとすれば孤軍奮闘ね」
きっと負けるわ
と告げた。
「そうなるとフェーズラッドは……きっとオズワンドの領地になる」
アーサーはそれに沈黙を守って肯定した。
それにカイルは目を細めて
「君は、そこまで分かっていて」
と呟いた。
フィオレンティーナは笑むと
「サザンドラにアイスノーズ、オズワンドが何を考えているかわからないわ」
でもきっと今の国を壊してオズワンドのかつての姿を取り戻そうとしていると思うわ
と告げた。
「けれどそれは世界を大きな混乱に陥れて最後は何も残らなくなる」
……私、貴方を愛してるわ。だから、アイスノーズを守りたいの……
「ここで見捨てたらいつかアイスノーズもサザンドラも壊れる」
この世界に身を置く以上は世界の動乱から逃れることはできないのよ
カイルは大きく息を吐きだすとアルフレッドとジョンを見て
「アルフレッドはアイスノーズ全てを管理してくれ」
守ってほしい
と言い、アルフレッドが深く頷くと
「ジョン、エリーゼ王女をお願いする」
と告げた。
ジョンは頷き
「命に代えて」
と答えた。
カイルはフィオレンティーナのベールを外すとキスをして
「俺も行く」
婚礼の儀はこれでいいだろう?
と笑みを浮かべた。
フィオレンティーナは微笑むとカイルを抱きしめた。
「私は貴方を守るわ、命を懸けて」
カイルも抱きしめ返すと
「それは俺の言葉だ」
君のような妻を望んだんだ
「これくらい覚悟しておくべきだった」
と答えて、アーサーを見た。
「今回は共同戦線だ」
容易に心は許せないがな
アーサーは安堵の息を吐きだして
「わかった」
今回だけは共同戦線で
と答えた。
一人、ロイだけが卒倒しかけてアンに背中を支えられていたのである。
最後までお読みいただきありがとうございます。
続編があると思います。
ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。