その16
陽光が音もなく降り注ぎ大軍が王都の郊外で向かい合っている。
軍勢の背後からワルダー侯爵とクック男爵は馬に乗って見つめ息を飲み込んでいた。
フェーズラッドはこれまで戦らしい戦が勃発することがなかった。
兵士も誰もが緊張が走っていたのである。
カイルは周囲をそっと見て
「なるほど、本当に戦の経験がなかったんだな」
と冷静に考えると馬を前に進ませた。
それにロバート・トゥルー・フェーズラッドは一度目を閉じてスッと目を開けると馬を走らせて前へと出ると腕を上げて
「我がフェーズラッドの獅子身中の虫を断つ!!」
行くぞ!!
と声を限りに叫んだ。
それにハッとハリスも前にかけると腕を上げて下ろした。
「王に続けぇ!!」
おおぉぉお!!
声に誰もが足を踏み出すと
「そうだ!! 王都奪還こそ我らが使命!!」
オズワンドに渡すな!!
と叫び軍勢がワルダー侯爵とクック男爵の軍勢へとなだれ込んだ。
威圧するような鬨の声を上げて向かってくる大軍にワルダー侯爵とクック男爵の兵士は一瞬ビビった。
同じような武器と同じような兵士の数だった場合はより意識の強い方が勝つのである。
カイルも腕を振り下ろして
「出遅れるな!!」
と馬を駆った。
そして、目の前に現れた兵士を見ると片手で手綱を操り、剣を手に突っ込んだ。
太陽の光を弾かせながら振り上げるとすれ違いざまに振り下ろし兵士を切り、更に前へと進んだ。
アイスノーズの精鋭である騎馬隊はワルダー侯爵の軍の中央を切り裂き分断すると驚き逃げまどう兵士を倒していった。
分断された軍をトンプソン子爵とフェーズラッドの王の軍勢が各個撃破するように取り囲み殲滅させた。
ワルダー侯爵は後退ると
「く、くそぉ」
オズワンドの兵はどうした!
と叫んだ。
その背後に20名ほどの騎馬小隊が近寄り指揮をしているオズワンドのカーター・スコットが一歩前へと進んだ。
「まさかここまで差が出るとはな」
そう言い
「アーサー王子が言っていたようにペンダントでもあればその力で士気を付けることもできたが」
『本物』の王が前に出て前線で戦うかお前たちのように後ろでうがるだけかで戦局はきまる
と息を吐き出した。
「まあ、恥を知っていれば取る道はわかるだろう」
わからなければ投獄されるだけだがな
「もう王都は王の軍に占拠されて中に残っていた兵は投降している」
お遊びは終わりだ
言って手綱を引くと兵を連れて走らせた。
カーターはカイルやロバート達がワルダー達を殲滅させている間に戦局を離れた。
兵士の一人は自らの将を見て
「これから国へ戻り報告を」
と言いかけた。
が、カーターはその兵士を一刀両断するとその遺体を前に驚く兵士たちに
「……あんな邪眼に狂った王妃の元へ戻って死ぬ以外に道があると思うか?」
と告げた。
「我々を売り込む国はある」
アーサーもまた混乱に乗じて戦局を離れ、カーターが姿を消すのを見つめ自らも姿を消した。
フェーズラッドの混乱は王軍の勝利で終結し、ワルダー侯爵とクック男爵は捕縛されたのである。
正式に裁判にかけられることになるのである。
ロバート・トゥルー・フェーズラッドは焼けた王宮へ戻り、そこでフィオレンティーナとロッシュとジョン皇子と共に戻ってきたエリーゼ王女を抱きしめた。
人々が集う中でエリーゼ王女からペンダントを受け取り高く掲げた。
瞬間にペンダントは強く輝き光を放った。
ジョン皇子はエリーゼ王女と王の頼みで王宮の再建の手伝いをすることなったのである。
カイルとフィオレンティーナはジョン皇子に後のことを頼んでロッシュと騎馬隊と共にシャールとサラアに挨拶をしてウェンズランドとサザンドラを抜けた。
そのアイスノーズの手前でアーサーが姿を見せるとフィオレンティーナとカイルに
「今回は……助かった」
礼をいう
と告げると
「……俺の方も……そろそろ全てが見えてきた」
と呟き立ち去った。
フィオレンティーナはシャールから聞いた彼とオーロラ王妃のことを思い出しながら
「私が……私たちが知らない何かが動いているということね」
と心で呟いた。
オズワンドの王の暗殺からサザンドラ、アイスノーズ、そして、フェーズラッドと国内を揺るがす事件が起きている裏で何かが蠢動している。
恐らくアーサーはそれに向き合っているのだとフィオレンティーナは感じたのである。
そして近い内に自分たちもそれと向き合う時が来るのだと感じたのである。
が、その前に。
アイスノーズに戻るとフィオレンティーナとカイルが想像もしていない事態が待ち構えていたのである。
彼女は目を見開くとアンに手早く着替えさせられて髪を華で飾られるとブーケを渡された。
「ロイさまよりご命令です」
カイルも着替えさせられて聖堂の誓いの石の前で立たされていたのである。
周囲ではアルフレッドや幾人かの臣下が両側に立ち彼女を待ち構えていた。
フィオレンティーナはそれを目に
「そうね、ここはロイを立てないといけないわね」
と言い足を進め、じっと自分を見つめ笑みを浮かべるカイルを見ると
「よく考えるとカイルと共になってから……私は変わったわ」
良い方向に
「恨みも憎しみも融けて……時折過ぎる風のような懐かしい切なさだけになったわ」
これでよかったのね
と空を見上げた。
「お父さま、お母さま……そして、お兄さま」
フィオレンティーナはこれからカイル皇子と長い道を歩いていきます
フィオレンティーナは笑みを深めてカイルの元へと進み、互いに手を強く握りあった。
陽光は降り注ぎ、明るく人々を照らし出していた。
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