その14
2日ほどすると探索をしていた兵が突然姿を消し始めた。
これを機にシャールは父親であるハリス・トンプソンを説得するためにフィオレンティーナとフードを被った人物を連れて書斎へと行き、フィオレンティーナから聞いたそのことを訪ねた。
「侍女から兵がいなくなったと聞きましたが」
ハリスはそれに後ろの壁で控えているフィオレンティーナとその人物を一瞥して息を吐き出すと
「まあ、いいだろう」
と言い
「どうやら、王宮の探索に力を入れるようでワルダー侯爵とオズワンドが兵を引き上げさせた」
と告げた。
そして暫く俯いて考えながら
「……アーサー王子も……動いておられるのか?」
と尋ねた。
「ワルダー侯爵の私兵とオズワンドの兵が動ているので判断に迷うところだが」
それにフードをしてた人物はフードを払うと
「公には動けないがアーサー王子はわが友として動いている」
と告げた。
身体の包帯が痛々しいものの凛とした立ち姿に精悍な顔立ちをした男性を見てハリスは目を見開くと椅子から降りて跪いた。
「もしや、とは思いましたが」
情けない臣下とお思いだと思われますでしょうが
「シャールのように勢いよく打って出て領民や領土を焦土にするわけにはと」
フェーズラッド王であるロバート・トゥルー・フェーズラッドは頷き
「わかっている」
全ては私の不徳の致すところだ
「まして我が国は後継者争いもなくこの百年以上を戦乱がない状態できた」
家臣たちが戦いに対して臆する気持ちもこのような場合にどうすれば良いかと迷い気持ちもわかる
と告げた。
「だがこのままでは何れ災いはフェーズラッドの全ての領土にも降りかかる」
いやオズランドは他の国に対しても侵略戦争を仕掛けている
「一角が瓦解すれば世界の秩序は崩れて世界が崩壊する」
その最初の切欠を我が国が作る訳にはいかない
「そのためにも力を借りたい」
そう言って頭を下げた。
ハリスは慌てて
「王! 私の方こそ……領民たちは兵士たちに怯え活気があった町が今や通りにほとんど人が通らない状態になっているのに見て見ぬふりをしてしまっておりました」
申し訳ございません
と言うと
「今回はこの不肖の息子の力で動くことが出来そうです」
そういう意味では息子も一端になったのだと感謝しております
と微笑んだ。
フィオレンティーナは微笑み、ロバートを見て頷いた。
ロバートはハリスとシャールに
「アーサーが作ってくれた反撃の準備をするチャンスだ」
無駄にするわけにはいかない
「トンプソン子爵、アンダーソンやロドリゲス、ホールを動かすために至急行動をしてくれ」
と告げた。
「私も最前線で戦う心づもりがあると」
ハリスは頭を下げて
「はっ!」
と答えると立ち上がって
「王はこの館で全体の指揮をお願いいたします」
シャール、行くぞ
と頷いた。
シャールは笑顔を見せると
「はい!」
と答えた。
サラアの宿屋で待機していたカイルもハリスの要請でトンプソン家の館に身を寄せた。
書斎をワルダー侯爵とオズワンドに対抗するための本部として会議が開けるように整えると、カイルはロッシュに
「ロイとアルフレッドにフェーズラッドへ支援を送れる準備をするように伝えてくれ」
ことは急を要するが恐らくオズワンドの領土を通るには監視が厳しい
「迂回ルートと通るために内々でウェンズランドとサザンドラに折衝をするようにと」
と告げた。
ロッシュは跪くと
「かしこまりました」
急ぎ
と答えると立ち去った。
フィオレンティーナはカイルを見ると
「イースではないのね」
と告げた。
カイルは少し考えて
「俺は大体の国を回ってきたが……ウェンズランドは隣国として良く知っているし王族の気質もわかっている」
それに今のサザンドラに関しても
「それは君の方が良く分かっていると思うが?」
と答えた。
フィオレンティーナは故郷であるサザンドラの王と王子と妹を思い浮かべ
「……そうね」
と呟いて
「確かに事態が事態ですもの」
より信用が置ける国と言うことね
と告げた。
カイルはウェンズランドとサザンドラの二国の方がイースより信用が置けると踏んだということである。
ロッシュからの伝令を受けたロイとアルフレッドは早急にアイスノーズの中で動き出した。
ロイはカイルの領土内の兵士を収集して遠征の準備を行い、アルフレッドはその分の兵士の配置を考えると共にウェンズランドとサザンドラへ密書を送った。
ウェンズランドの女王であるガルシア・サンチェス・ウェンズランドは書状を読むと
「やはり、オズランドが各地で動いているみたいですね」
と側近のミラルダ・ムーアに手紙を渡しながら
「5年前の前国王の暗殺……最終的にはスチュワート・アダムズが全ての犯人としてアダムズ男爵家はオーロラ姫を残して一族が全員抹殺されましたが」
真相は闇の中
「我々他の国が共謀してオズランド解体の動きをしたという噂もありましたが」
それも何者が流したのかわからぬまま
「それに端を発していなければ良いのですが」
と呟いた。
「もし端を発していたならば……これは唯の勢力拡大という折れば沈静化する侵略ではなく怨念という折っても沈静化しない世界崩壊への戦いになってしまう」
ミラルダは顔を顰めて
「我が国もコリンズ伯爵の小競り合いだけで済みましたが」
やはりこの件が収まるまで注視は必要でございますね
と答えた。
ガルシアは頷いて
「今回はアイスノーズに力を貸しましょう」
ただし国境沿いの一部の領域のみと言うことで
と告げた。
ミラルダはそれに
「かしこまりました」
直ぐに返書致します
と立ち去った。
最後までお読みいただきありがとうございます。
続編があると思います。
ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。




