第9話 帰りの電車
「ゲームセンター楽しかったですね」
「だな、また行くかー」
ゲーセンで結構遊んでしまった。
思ったよりも楽しかった。心陽も満足しているようなので嬉しい。
取ったくまのぬいぐるみは入りきらないらしく心陽が抱えている。
電車にはもう沈みそうになっている紅い夕日の光が差し込んでいた。
「ちょっと遅くまで遊んじゃったけど大丈夫か?」
「はい、祖母にもう連絡してるので」
「おばあちゃんと暮らしてるのか」
「はい、父方の祖母と父と私で暮らしています」
......母がいない、か。
「あ、そういえば文化祭の準備が始まりますね」
話題を変えるように心陽がそう言った。
そうか。もうすぐ文化祭か。
「だな、今年のクラスの出し物何やるんだろ」
「文化祭と言ったらあれですよね、メイド喫茶」
「なぜそうなる......いや、そうなんだけど」
「冗談です。メイド服は着たくないです」
一瞬でも心陽のメイド服姿を見てみたいと思った自分を恥じたい。
しばらくすると、沈黙がやってきた。
隣を見てみれば心陽が無防備な寝顔で寝ていた。
遊び疲れたのか。
警戒心がないというか......友達だからということで気を許されているのだろう。
そして電車が少し大きく揺れ、心陽が俺の肩に寄りかかる形になった。
心陽はぬいぐるみを抱えたまま、すっかり安心し切った様子ですぴーと可愛い寝息を立てている。
起こすのも気が引ける。駅に停まるちょっと前までこのままでいさせてあげよう。
***
「七瀬、もうすぐ着くぞ。起きろー」
「ん......」
俺は心陽の頬をぷにぷにと指先で触り、目が覚めるのを促した。
頬をつついたのは触ってみたかっ......起こすためだ。許していただきたい。
心陽は目を開けて体を起こした。
「おはよう、七瀬」
「あ......私寝てたのですね。おはようございま......」
言い終わる前に心陽は時間差で顔を赤くした。
「え、あ、もしかして私......」
「ああ、俺の肩で寝てたぞ」
「ふわああああ、すいません! 忘れてください!」
あわあわとして気が動転している。
......ピュア?
「いやまあ別にいいぞ。気にしてないし」
「わ、私が気にするのですー!」
やっぱりピュアである。
「可愛い寝顔だったぞ」
俺はそう言った。
純粋で可愛い一面が出ているので少しいじってみたくなったのだ。
「つ、調月くんのばかっ」
***
昼休み。司にテラスにて言い寄られていた。
「おいおい、これはどういうことなのかね」
そして司は写真を見せた。
そこには俺と心陽が一緒に歩いている情景が映っていた。
「......盗撮ダメ絶対」
「顔写ってないからセーフ。それより今はこっちの方が大事だ。これはどういうことなんだ?」
「どういうことかと言われましても......」
「裏切り者め。俺だけ先に置いていくつもりかっ! 別にいいんだけど、いいんだけど! というか攻略とか言い出したの俺なんだけど!」
俺は別に攻略する気もないし、友達でいたい。そういう関係を保ちたい。
とりあえず司を静めるために面倒臭いが事情を説明することにした。
「同じ電車に乗ってる.....?」
「ああ、それで色々あって友達になった」
「お前なんでもっと早くアプローチしなかったんだよー!」
司に肩を揺さぶられる。
「え、いやだって急に話しかけても嫌がるだろ」
「ヘタレめ!」
ヘタレに関してはぐうの音も出ない。
ただ色々と司は勘違いをしている気がする。
「言っとくけどただの友達だからな」
「......うーん、まあ納得はできないけどそういうことにしておこう」
「ちなみにだが、これでもし七瀬が好きとか言ってたらどうなってたんだ」
「くっつくように応援するぞ」
「じゃあ七瀬の彼氏とか言ってたら?」
「爆発させるぞ」
「......圧倒的矛盾」