第7話 聖女様スマイル
「うーん......」
心陽と連絡先を交換した日の夜。俺はずっと携帯のメッセージ画面と睨めっこしていた。
俺は今までに女子とあまり関わったことがない。高校に入ってからは特にである。
行事とかで一緒に活動することになった時は関わるが、それ以外に接点がない。
つまり女子に慣れていない。秀は遠距離の彼女がいるので、秀に聞けばメッセージの送り方を教えてくれるかもしれない。
ただ、いじってきそうで怖い。
しかもあいつ風邪だからもう寝てそうなんだよな。
さて、何を送ろうか。
あいつらに送る感じで送るという訳にもいかない。
そもそも俺からメッセージを送信することより返信することの方が多い。
話題作りにあまり長けていないのだ。
ここは無難によろしくとかでいいのだろうか。
よろしく、と打つことはできる。しかし、その後の会話が続かないのが容易に想像できる。
趣味は? と無難な質問を聞くこともできるが、なんかおかしい気がする。
俺は自然な会話をしたいのだ。......欲張りすぎだろうか。
しばらく俺はベッドでゴロゴロとしながら考えた。
そして1つの結論に至った。
「よし、よろしくだけでいいか!」
心陽は異性ではあるが、友達だ。
さほど意識する必要はないだろう。
俺は自動ロックで閉じてしまったスマホを再度開き、メッセージを送信した。
それから5分。メッセージに既読はまだついていない。
まあ心陽のことだから勉強でもしてるのだろう。
気長に待とう。
そしてさらに1、2、3時間が経過した。
既読はついていない。
「うーん、寝てるのか」
どうしてここまでして気になってしまうのだろうか。返信の内容に期待してしまうのだろうか。
気にする必要はないものを。
やはり心陽が女子だからだろうか。
......とりあえず今日は寝よう。
俺はスマホを閉じ、電気を消して眠りについた。
***
結局、返信が返ってきたのはその日の朝だった。
『おはようございます。ごめんなさい! 勉強してたらいつのまにか寝てました! こちらこそよろしくお願いします』
勉強してたらいつの間にか寝ているなんて俺からしたら信じられない。
テスト期間ならまだわかるが、別にそういうわけでもない。
俺も勉強......というか何か頑張ってみようかな
***
「柚李、今日は一緒に食おうぜ!」
昼休み。俺は司に肩を組まれ、昼食に誘われる。
「あの口説いた女子たちはどうした」
「......えーっとな、そのー、はい」
司は罰が悪そうにポリポリと頬をかいた。
あ、これ失敗したやつだな。
「まあ、何だ。とりあえず飯いこうぜ!」
「お、おう、そうだな。まあなんだ、お疲れ」
「うう......」
最近俺の中で好感度が下がっていた司だが、元に戻った。
お疲れとしか言いようがない。
「お前は何でそんな嬉しそうなんだ......」
「え、だって、湊はいい感じの女子いるだろ? そして秀に関しては遠距離の彼女がいる。お前にまで裏切られたら俺だけ非リアになるからな。それはそれでまたぼっちに逆戻りだ」
「なんか複雑」
「まあお前に彼女ができたら応援するけどな」
「ゆ、柚李ー!」
「抱きつくな! 暑苦しい!」
こんな感じのやり取りをしていると、何やら廊下が少しざわついていることに気づいた。
前方を見てみれば先日連絡先を交換した、俺の友達であり学園の聖女様でもある心陽が歩いていた。
歩くだけであんなにざわつかれるとは......大変そうだ。
「心陽さん、僕と一緒にご飯を食べませんか?」
そしてなんと、1人の勇敢な男子生徒が昼食のお誘いをしていた。
他クラスの生徒なのか、そもそも同級生なのか知らないが結構なイケメンである。
しかし心陽の返事はというと......。
「ごめんなさい、私約束している相手がいますので」
「......そうですか」
キッパリと丁重にお断りしていた。
「聖女様ってすげえよな。ぶっちゃけ可愛すぎて2次元の世界かよって疑う」
その様子を見て、司は感嘆の息を漏らした。
「司、七瀬のこと狙ってみたらどうだ?」
俺は冗談めかして言ってみた。しかし渋い顔をしてこう答えた。
「......あの人は無理だ。高嶺の花すぎる。一回お近づきになろうとチャレンジしたけど結果惨敗」
「チャレンジしたのかよ」
「当たり前だろ。男は当たって砕けてなんぼだ。そもそも当たってないけどな......それにしてもお前は行けるんじゃねえのか?」
そう言い、司は俺の顔をまじまじと見る。
「......何だよ」
「いや、お前自覚ないかもしれんが顔立ちいい方だぞ。それに案外お前人の気持ちとか汲み取れるから性格も申し分なし......攻略できる気がするんだけどなぁ」
「攻略って......ゲームかよ」
まあ心陽の可愛さは2次元並みだ。恋愛ゲームみたいなものかもしれない。
「でもお前のどタイプだろ? 超可愛い清楚系女子。前言ってたじゃん」
「それとこれとは話が別だ。それにタイプというよりギャルとか圧倒的陽キャが苦手だから強いていうならだ」
よく勘違いされるが、特にこれといったタイプはない。
強いていうなら、清楚系というだけだ。俺は陽系が苦手なだけだ。
すると、こちらの進行方向とは反対方向へ歩く心陽と俺の目が合った。
そして優しく、慈愛に満ちた笑顔で心陽は微笑んだ。
廊下はざわつきが加速した。
「あ、あれは......!? きっと俺に微笑んだんだ!......!」
「いや、どう考えても俺だろ」
「はぁ? 男子に聖女様が微笑む訳ないでしょ? どう考えても私たちよ」
何故か軽く女子と男子の間で論争になっている。
男女問わず人気なんだな。聖女というかアイドルというか。
あの笑顔はおそらく俺に向けたものだろう。
司は俺の顔を再度覗き込んだ。
「なんか頬りんごみたいになってるぞ」
「......気のせいだ。さっさと食堂行くぞ」
「お、おう」
もの言いたげな司の腕を強引に引っ張って食堂へ向かった。