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第6話 聖女様と友達になった

「......まあぼっち飯も悪くはないか」


 俺は1人校舎裏の学校のベンチに腰掛け、買ってきた牛乳とメロンパンを頬張る。

 本当はカレーパンを買おうとしたのだが、普通にお金が足りなかった。


 本当なら司と2人で、もしくはいつものメンツで食堂で食べているのだが、今回はいない。

 ナンパを提案してきたことで俺の中で最近好感度が下がった司は女子を口説くことに成功したのでそいつらと食べている。

 湊はいい感じになっている女子に弁当を作ってきてもらって一緒に食べているらしい。非常に憎たらしい。

 秀に関しては普通に風邪で休んでいる。後で差し入れでも持ってってやるか。

 ......そういえば秀の家、俺の家から遠いんだった。無理だな。


 牛乳をのみ、メロンパンを食べる。これを交互に繰り返す。

 友達がいなければ、食事はただの作業だ。

 美味しい食事はそりゃ美味しいが。


 コンビニの商品も美味しいには美味しい。しかしすぐに飽きるものがある。




 しばらくすると、人がやってきた。


 ここは通る人が少ないから珍しいな、と思っていると、俺の前で止まった。


 目を上げるとそこには心陽がいた。


「隣いいですか?」

「ん、どうぞ」


 あの日から少し心陽と俺の距離は縮まった。

 帰りの電車で会った時は話す程度だが。

 

 しかしこうして学校内で話しかけてくるのは初めてである。


「どうしたんだ? というかよく見つけられたな」

「校内探し回りました、流石に疲れましたよ」

「え!?」

「流石に冗談です」


 真面目なトーンで冗談を言ってくるのだから少し笑えてしまう。


 ふと思ったように彼女は俺の食べているものを見てこう言った。



「食事、それだけですか?」

「ああ」

「足ります? 絶賛食べ盛りの男子が」

「......正直言うと足りない」


 まあお金がないのだからこれで我慢する他ないのだが。

 あいつらに借りてもいいのだが、利子がお高くつきそうだ。


「これ、あげますよ」


 そう言い、心陽はバッグからカレーパンを取り出した。

 そして俺に手渡す。


「え、いいのか?」

「はい、この前のりんごジュースのお返しだと思っていただければ」

「気にしなくていいのに」

「借りた恩は貸す、がモットーですから」


 りんごジュースよりこっちの方が高いだろうに。

 利子をつけた覚えはないんだが。


 まあ心陽がいいと言うならありがたく受け取らさせてもらおう。


 俺はメロンパンの袋を近くのゴミ箱に捨てて、カレーパンの包装を開けた。

 パンとカレーの良い匂いが鼻腔を掠める。


「わざわざこれ渡すためだけに来たのか?」

「ただの偶然です。見かけたので声でもかけようかと。カレーパンは私が食べ切れなさそうだったので夜用に残しておいたものです」

「......なんかすまんな、ありがとう」

「お礼の必要はないですよ。これで貸し借りなしですね」


 そう言って心陽は聖女様スマイルで微笑んだ。

 うん。尊い。


 俺から見たら、心陽は俺を溶かす聖のオーラを身に纏っているかのように思えるのだが、話してみると案外そうでもない。

 ただ、やっぱりこのスマイルを見てしまうと普通に溶ける。


「あなたこそ、他の3人はどうしました?」


 あいつらのことを言ってるのだろう。多分心陽の中では俺に罰ゲームでナンパさせた人という印象以外ないだろうが。


「1人は普通に風邪、もう2人は女子絡みだ」

「なるほど。他に友達がいないのですか」


 そう返され、俺の心は打ち砕かれそうになった。


「意図的に作ってないだけだ」


 そう言うと、心陽は何かもの言いたげな目でこちらを見た。


「......どうした?」

「いえ、何も。どうせ作ろうと思ってもできなさそうだなって」

「おい」

「冗談です」


 なんかちょっぴり毒舌系になってないか?


 話しているうちに、手元にあるカレーパンはなくなり、牛乳も飲みきってしまっていた。



「ん、何度も言うがありがとうな。腹が膨れたおかげで昼は寝れそうだ」

「......私はあなたが寝るためにカレーパンをあげたのですか」

「流石に冗談だ......いや、可能性はなきにしもあらずだがな」

「そこは否定しきってください」


 

 しばらく話していると、突然心陽がソワソワとし出した。


「あ、あの......えっと......」


 そして手慣れない手つきでポケットからスマホを取り出した。


「私たち友達になりませんか?」


 心陽の頬は少し恥ずかしいのか赤くなっている。


「俺でいいのか?」

「は、はい! かくいう私の方も友達らしい友達がいないので......」


 友達になる、連絡先を交換しようということでもあるのだろう。

 俺でいいのだろうか。俺は心陽と友達になれれば普通に嬉しい。



「嫌......でしょうか」


 少し色々考えていると心陽はスマホを胸に当てて、視線を逸らし、しょぼんとした。

 俺は慌ててフォローする。


「あー、違う違う、そういうわけじゃない。罰ゲームでナンパなんてするやつだぞ、友達にしていいのか?」

「ナンパは......許容できませんけど、もちろんです。あなたと話す時間はすごく楽しいですし、素も出ちゃいますし。それに電車でもたまに話してるじゃないですか」


 まじまじとそう言われて、少し気恥ずかしい。

 俺もポケットからスマホを取り出した。

 

 そして心陽と連絡先を交換した。


 初めて異性の連絡先を何気にゲットしたかもしれない。

 俺は喜びを小さく噛み締めた。







 



 


 


 

 




 


 


 



 

 


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