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第4話 お手伝い

 それからというもの、特に何もなかった。

 いつも通りの日常に戻ったという感じである。心陽は前のことなど気にも留めていない様子だった。


 そして今日も駅のホームで2人、いつもの電車を待っている。

 ベンチに座っているが、もちろん心陽は離れたところに座っている。


 あー、まだ休日まで日にちがある。

 学校生活は楽しいが、その分疲労も溜まるというもの。

 

 俺はグーっと背筋を伸ばした。




 ふと横を見てみると、いつものピンとした背筋とは一転。

 重い瞼を何とか開けながら睡魔と戦っている聖女様がいた。


 そりゃ疲れるよな。


 生徒会役員としてプレッシャーに押されつつ、1つ1つの動作にも気を配らなければならない。

 文武を両立させるために頑張ってるのに、その努力を知らない男女から才女だと持て囃され嫉妬される。

 時折、心陽は電車の中でも勉強をしている時がある。努力家なのだ。スマホを触っているところなど見たことがない。

 まあ美に関しては生まれつき持ったものなので何ともいえないが、気を配っている部分もあるのだろう。


 ......何であいつあんなに頑張ってるんだろ。頑張れるんだろ。


 俺とは大違いだ。


 

 とにかく、電車はもうすぐ来る。起こしてあげた方がいいよな。



 ......あっそうだ。


 はぁ、と疲れがこもったため息をついてからのベンチから立ち、再度背伸びをした。

 立ち上がった俺は近くの自販機まで行き、冷たいリンゴジュースを買う。


 

 そして睡魔に負けそうになっている心陽に近づき、首元にそれを当てた。


「っ!?  つ、冷たっ」


 急なことで驚いたのか、ビクッと体を動かして、疲労が垣間見える目でこちらを見た。


「ほい、差し入れ」


 心陽は目をパチパチとさせた。

 


「私に?」

「疲れていそうだったからな。あ、いらないなら俺が飲む。さっき買ったばっかのやつだから別に何も入ってない」

「......わざわざすいません」

「こっちこそすまん。あんなの不愉快だったよな」

「不愉快?」

「ナンパのことだ。お詫びにしては足りなさすぎるけどな」

「別に私は気にしていませんし大丈夫です。あなたも不本意のようでしたし、男子高校生が集まるとああいうことになるのはよくあることですからね......少し羨ましいくらいです」

「......羨ましい?」

「あーいえ、気にしないでください」


 心陽は華奢な手で蓋を開けて、ジュースを飲んだ。

 1つ1つの動作が眩しい。


 俺は元の位置に戻ってスマホを触った。

 

 ***


 誰もいなくなった校舎で階段を下る音だけが聞こえてくる。


 階段の方を見れば書類の束を持ち、急ぎ足で階段をおりている心陽がいた。

 生徒会役員も大変だな。

 

 一瞬俺と目が合ったものの、すぐに逸らした。


 心陽とは接点があまりない。一緒に電車に乗って登下校しているくらいだろうか。

 とはいえそこでも喋らない。それにクラスも違う。

 嫌でも同じ電車というだけあり、相手も俺の顔は知っているだろうがそこまでだ。


 お近づきになろうとは思っていない。なる気がない。

 まずまず心陽は俺にとって高嶺の花すぎるので友達にすらなれない気がする。


 疲れたし帰るか。

 俺は真面目な彼女と違い、課題が残っていたので先生に今日片付けてほしいと言われて残っていたのだ。


 と、俺はもう帰ろうと思ったときだ。

 

 あっ、という声と共に聖女様が階段から落ちてきそうになった。


 位置が良かったので俺は咄嗟に聖女様を受け止める。


 あまりの書類の束で下が見えていなかったのだろう。

 

 書類は地面にバラけ落ちてしまった。


「大丈夫か?」

「は、はい。あ、ありがとうございます」


 あちこちにバラけた書類たちを俺は集めて行く。

 まったく、危ないものだ。


 心陽は突然のこともあり少し呆気に取られていた様子だったが、すぐに書類を拾い始めた。


「あの......助けていただいてありがとうございます」

「別に気にするな。これ生徒会室持ってくのか?」

「はい、そうです」


 少し折れてしまったものもあるが、特に気にするほどでもない。

 1、2分ほどして全てをなんとか綺麗に集めることができた。

 俺は拾い集めた書類を持った。別に時間に余裕はあるし生徒会室まで持って行ってあげるか。


「あ......私が.......」

「またこけるかも知れないだろ?」

「それはそうですが......」

「うーん、じゃあ半分だけ頼む」


 全て持たせることに少し罪悪感を感じたのだろう。俺は半分を心陽に渡して一緒に生徒会室に向かった。


 ***


 生徒会室にはびっくりするくらい誰もいなかった。心陽1人で作業しているのだろうか。

 ただただファイルや紙が積み重なっている。


「......これ何やってるんだ?」

「プリントとファイルの整理とか文化祭の準備とか......色々です」

「1人で?」

「いえ、もう2人いるのですがさっき帰りました」

「なるほど......そういうのって生徒会役員全員でやるもんじゃないのか?」

「あ、いえ。1年組は整理ついでに、この学校の文化祭制度を知らないので過去の記録を見て勉強中です。私は少し気になったことがあったので残っています」


 心陽の向上心には本当に感心させられる。それに用意周到なタイプだ。

 

「何か手伝おうか?」

「よろしいのですか?」

「まあ別に、それにそっちの方が効率いいだろ?」

「ありがとうございます」


 俺は後片付けを行ったり、色々して、閉門時間ギリギリで仕事を終わらせた。

 



 


 

 


 

 







 








 


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