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第3話 聖女様の裏の顔

 俺があの事実を知ったのは月曜日の帰りの電車でのことだった。


 

 

 今日も聖女様は可愛いなぁ。

 疲れた頭を癒すのに必要なのは『推し』の存在である。今日も心陽と電車の中で2人きり。

 座る距離はまあだいぶ離れているが。

 

 しかし、今日は随分と疲れた。昨日あいつらと遊んだからだろうか。

 ......あいつらと遊ぶと楽しいが、ああいうことが起こるから嫌なんだ。


 俺はギャルっぽい陽キャが苦手だ。というか精神的に無理だ。

 なので配慮してくれたのは助かったが、ナンパさせられた時点で配慮と言えるのだろうか。


 聖女様みたいな存在は可愛すぎてある意味無理だ。近づきにくいオーラがある。

 

 多分俺が近づいたら陰オーラが打ち消されて跡形もなく消える。


 1番はやっぱりちょい可愛い清楚系の女子? 

 ......って俺何で自分の好みのこと考えてんだよ。


 と、電車に揺られながらぼーっとしていると、目の前に人が現れた。



「少しいいですか?」

「ふえ!?」


 そこに立っていたのは心陽だった。


 聖女様のことを考えていたので、思わず変な声をあげてしまう。


「......ど、どうぞ」

「この前のことで話があります」

「は、はあ......」


 いきなりのことだったので心の準備もできず、少し緊張でしどろもどろになってしまう。

 

 心陽が俺に何の用だろうか。

 理由がわからない。そもそも理由がないはずだ。

 

 学校内でも心陽とは接点がない。クラスが違うからである。

 何かの行事で一緒に活動することになったとかもない。


 心陽は吊り革を持って俺を見下ろした。

 しかし一言も言葉を発しなかった。


 え? 何? 何できたの?


 俺が話したいことを察しろということだろうか。

 いや無理だろ。

 

 話しかけようか、話しかけずそのまま沈黙に耐えるか。

 目のやり場に色々と困る。


 頭の中で葛藤していると、心陽はようやく口を開いた。

 ため息をついてから。

 

「昨日、私にナンパしましたよね?」

「えっと、ん?」


 ナンパ......ああ、昨日ナンパしたのはあの陰キャっぽい女子高生で......。

 ん? いや、まさかな。人違いだろ。


「七瀬にナンパする奴がどこに......」

「ここに」


 そう言って心陽は俺に指差した。


 ん? え? あれ、心陽だったの!?

 いやいやいや、そんな訳ないだろ。


「これで分かりますか?」

 

 そう言って心陽はバックからメガネを取り出してかけた。

 髪は整っているとはいえ、目元の部分は確かに似ている。


「あっ......」


 やらかした。崇高なる聖女様にナンパしてしまった。

 .......あいつらのせいにしておこう。


「あれ聖女様だったのか............すまん」

「別にいいです、謝らなくて。ただ、私も生徒会役員の1人として見過ごせない部分がありますので。注意に来たという感じでしょうか。あなたはまだ未成年。罰ゲームでもナンパなんて今後しないでください、やられた側も不愉快です」

「うっ......」

「忠告しようか正直迷ったのですが、またやりかねないですからね」


 キッパリと言われてしまった。精神的にダメージはかなりでかい。


「......あ、あと1つ聞いてもいいか?」

「どうぞ」

「なんであんなことを......」


 俺が言いかけると同時に電車は心陽がいつも降りる駅に停まり、ドアが開いた。


「着きましたね、ではまた明日。私があの変装をしていたのは他の人に言わないでください。あと聖女様というあだ名やめてください」

「......また明日」


 甘い香りを残して聖女様は電車を降りた。


「(......結局同じですか)」


 去り際、聖女様は小さくため息をついてそう呟いた。

 その言葉が何を意味しているかは分からなかった。

 


 ***


 絶対あれ嫌悪感しか持たれてないよな。っていうかそれが当たり前だろ。

 はぁ......。あんなこと何でしたんだろ。


 心陽に恋心を抱いている訳ではないとはいえ、推しに嫌われるダメージはでかい。


「どうした? 柚李」


 机にもたれて意気消沈していると、湊が話しかけてきた。


「聖女様......」

「聖女様? あー、心陽のことか。それがどうした?」

「聖女様に嫌われた」

「ん? 嫌われた? どういうことだ?」

「実は......ってあっぶね」


 言わない方がいいよな。


 朝の電車は混んでいて目が合うことすらなかったが、帰りの電車は結構気まずいだろう。

 というか俺の心がもたないだろう。


「色々あるんだよ」

「色々あるんだな」






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