第18話 生徒会長
「今年の文化祭、無事快晴で迎えられることができて本当に......」
なんだかんだで時は流れ、文化祭当日。
結局生徒会長の腰が治るまで仕事(雑用)を手伝わされたのは......辛い思い出だ。
機材運びなどのかなりの重労働を押し付けやがってと内心では思っていたが、心陽と一緒に帰ることができるという点で言えばこちら側としてかなり嬉しかった。
しかし恩を売っておいて損はないし、腰を悪くしてしまうのも仕方ないのでしょうがない。
まあ、その一件は置いておいて流石生徒会長。話し方が上手い。
支持率も高いだろうし、信頼もあるだろう。とにかく統治に長けているのがわかる。
「......という訳で私からは以上だ。文化祭、盛り上げるぞおおおお!」
『おーーーーー!』
そうか、高校3年生にとってはこれが最後の文化祭か。
声でいえばやはり3年生の方が高い。熱量のレベルが違う。
そして開会式が終わり文化祭が始まった。
クラスメイトは各持ち場に動いて最終確認をしている。
俺は司たち3人の元へすぐに駆け寄った。
バンドをやるということで3人がやるとなれば俺も興味がある。
その前に一度会っておきたかったのだ。
「よっ!」
後ろからパンと司の肩を叩いた。
「おお、柚李」
司はこちらを振り向いた。
いつも通りの笑顔だが、やはり緊張が垣間見える。
「おっす、柚李」
「誰かと思えば柚李か」
秀も湊もやはり顔つきが強張っている。
「やっぱり緊張するか?」
「そりゃあな......でもここ数ヶ月で完成させて見せたんだ。やってやるさ」
覚悟を決めた目をしていて、緊張はしているものの問題はなさそうだ。
「わかった、まっ、楽しんでやれよ。じゃあな。俺は屋台で仕事してくる」
あいつらなら問題ないだろう。
俺は別れを告げて、屋台へ行った。
最初の2時間の当番は俺だ。
幸いなことに司たちのバンドは午後にやるらしいので全然時間がある。
心陽の当番も午後で、忙しい時間帯らしい。
となると、一緒に回れるのは2時間くらいか。
***
「はい、かしこまりました」
しばらくすると、一般の人たちもゾロゾロとやってきた。
ちなみに屋台のメニューはというと......。
『焼きそば』
『たこ焼き』
『かき氷』
あとは市販のジュースである。
寒い季節なのにかき氷が売れる訳ない。
そう思っていた訳なのだが、センスある陽系女子がかき氷の概念を一新したおかげで売上がいい。
レインボーかき氷だったり数量限定だが丸ごとスイカかき氷だったりとインスタ映えを明らかに狙っている作品にデザインした。
その結果、かき氷の担当である俺が激務をさせられる羽目になった。
たこ焼き当番や焼きそば当番も手伝ってくれるが微小なもの。
皮肉なことにこのデザインできる人がこの場にいないからである。
「......柚李、頑張ってくれよ」
「お、おう」
そして同情される始末。
案外ミニ行列になっている。
「もうこれかき氷店にした方が良かったんじゃないか?」
「......俺も思った」
そうして捌いていると、1人の見覚えのある女性が来た。
「たこ焼きを1つ」
「はい、かしこまりました〜」
クラスメイトはそう聞くとすぐにたこ焼きを作り始めた。
「......って生徒会長!?」
「やあ、調月。調子はどうだ?」
生徒会長である。
「腰の方はもうすっかり大丈夫なんですか? 文化祭だからと羽目を外しすぎないでくださいね。また痛めますから」
「ははは。先輩に対する扱いも随分と上手くなったな。だが心配はいらん。見ての通りピンピンだ......うっ」
生徒会長が反ろうとすると痛みが走ったのか、腰を抑えた。
「......言わんこっちゃない」
「だ、だが大丈夫だ。十分に歩けるくらいには回復している」
この人の大丈夫は当てにならないんだよな。
「そんなことよりだ。お前に聞きたいことがある」
「......な、なんですか?」
話題を変えるように生徒会長はそう言った。
そしてくいくいと手で俺の耳を引き寄せた。
「(調月は心陽と付き合ってたりするのか?」
「......!? な、何聞いてるんですか。こんな場所で少なくとも言うことじゃないです」
「少し気になってな。嫌ならいい」
「まあ、答えますけども。別に会長の思っている関係ではないですよ」
「そうか、いやあなんだ。心陽と調月がよく話しているのを見かけるからな」
「そういうことですか。確かに仲はいいです」
「......心陽は生真面目で1人でやろうとする、抱え込もうとする癖がある。自分を押さえ込む癖もある。そういう面で脆いと思っていたから私は心配していたのだが、最近の心陽の表情は柔らかい。それに......」
「お待たせしました。たこ焼きです〜」
「ありがとう。ではまたな、調月。......あーそうだ言い忘れていたが文化祭の準備手伝ってくれてありがとうな」
「いえいえ、また困ったら呼んでください。さようなら」
流石生徒会長、人を見抜く力が高い。
あの人には隠し事が通じなさそうである。