第17話 小声のデレ
「また手伝おうか? 何やるのか知らないけど」
俺は心陽にそう提案した。
この前と同じように気分である。......ただ、本心を言うと心陽と一緒に帰りたいだけだ。
思ったよりもここ最近俺は心陽を意識してしまっている。
話していて楽しいし、友達としてかけがえのない存在になっているからなのだろう。
......しかしそれでは説明できないほど胸の感覚が妙だ。
いつもの3人はもちろんのこと大切な友達だ。
心陽もそうである。ただ、それとは違った感情が心陽に対してある気がする。
......何だろう。これ。
「じゃ、じゃあ、手伝ってもらおうかな」
心陽は拒否することなく、承諾した。
「まず、段ボールの中身出して貰えるかな?」
「わかった」
そう言えば心陽は誰と文化祭に回るのだろうか。
心陽のことなので大勢から声がかかることだろう。
......前から心陽はそうだった。しかしどうしてか心陽が俺を選んでくれたらな、と思ってしまう。
そんなことを考えながら、しばらく心陽の言った通りに作業をしていると、心陽が手を止めてこちらを見ていることに気づいた。
「(そう言えば放課後......2人きり......)」
「ん、どうした?」
「はうっ!? ......あ、えっと、いえ。別に何でもないです」
俺が心陽に話しかければ、何とも言えない声を出してびくりと驚いた。
ぼーっとしていたのだろうか。
というか心なしか心陽の頬が赤い気がする。
「......風邪か? 顔赤いぞ」
「な、何でもないです!」
心陽は色々と一人で溜め込んで隠したがる癖がある。
素直に言ってくれれば良いのに。
俺は心陽に近づいた。
やっぱり顔が赤い。
蒸気が出ているような気もする。
俺は心陽の髪をあげて額に手を当てた。
「は、はふっ......なななな、何ですか?」
「......心陽、熱あるだろ」
「ああ、えっと、ないです! ないですから離れてください!」
心陽は俺を押して、生徒会室の窓を開けに行き、大きく息を吸った。
「あ、いや、すまん......た、他意はない」
「いい.....よ。別に」
心陽は胸に手を押さえて外を見たまま答えた。
「いやでも体調悪かったら休んでいいんだぞ?」
「ち、違う.....から! 大丈夫だから!」
「お、おう。そうか」
そうを言われてしまってはこれ以上何とも言えない。
体調が悪そうな顔をしていたかと言われれば確かにそうではない。
熱を帯びていただけだろう。
心配のしすぎか。
「......そういえばさ、柚李くんは文化祭誰と回るの?」
心陽は何事もなかったように俺にそう聞いた。
「え? あー、多分いつもの3人で回ると思う」
「......そっか」
心陽を誘いたいところなのだが、人気者なので男子からのお誘いも絶えないことだろう。
ガードが硬い心陽が他の男子と行くことは考えられない......ちょっと考えたくない。
しかし俺が心陽と行くことは他の男子が許さない可能性が高い。
心陽と一緒に食べていたというだけで男子からの視線が痛かった。
さらに女子も心陽と仲良くしたい人は一定数いるだろう。
「ん、それがどうかしたか?」
「ううん、何でもない。そうだよね」
心陽はこちらを振り向いて少し哀しげに笑った。
「(私は柚李くんと行きたかったのに)」
「......っ!?」
心陽がボソッとつぶやいた小言。
それが俺の耳には鮮明に聞こえてしまった。
胸がドキリとしてしまう。
......俺で良いんだったら。
「なあ、心陽......2人で......」
俺がそう言いかけた時生徒会室の扉がバンと開いた。
『閉門時間5分前でーす!』
***
「......結局作業あんまり進まなかったな」
「だね、全く誰のせいなのやら」
「え? 俺なんかしたか?」
「大いにしたよ! (いきなりは心臓に悪いです、全く、それに......むう)」
心陽はぷくーっと頬を膨らませて何やらぶつぶつ呟いている。
「そう言えばさっき何か言いかけたよね? 何を言おうとしたの?」
「......いや、別に何も」
はぁ。ここで逃げてしまうのが俺の悪い癖だ。
『(私は柚李くんと行きたかったのに)』
その声が脳内で突然リピートされた。
そして彼女の哀しそうな顔
......もし本当に俺で良いなら。
「やっぱりさ、一緒に2人で文化祭回らないか? ......嫌ならいい」
「っ......3人はどうするの?」
「ん、多分大丈夫だ。今思い返せばあいつらバンドやるみたいだし回る機会もないというか......」
司なら号泣しながら承諾してきそうなんだよな。
それに3人と回る約束をした訳でもない。
「......心陽が嫌なら別にいい」
「ふふ、嫌なもんですか。私は柚李くんと一緒に回りたい。いいよ。」
心陽はニコッと笑った。
......そう言えば最近心陽の聖女様スマイルを見たことがない気がする。
学校であまり関わりがないのもあるが、2人きりの時はよく素の笑顔を見せてくれるようになった。
何だが俺だけが心陽の裏の顔を知っているみたいで嬉しいというか。
「(不器用ですね、本当)」