第16話 近づく文化祭
「そうか......もうすぐ文化祭だからか」
放課後、門が閉まるまであと数十分しかないというのに、せっせっせと他クラスは準備をしていた。
定番のお化け屋敷をするクラスもあれば、ジェットコースターをするクラスなど多種多様。
メイド喫茶は......あったら行ってみたいがそれをやるような猛者クラスはいないだろう。
いやでも風の噂で聞いたことはある。......きょ、興味はないけれども。
中学では軽い出し物をやったくらいでここまで本格的なものはしたことがなかった。
だから少し文化祭は楽しみにしている。
心陽の姿は見受けられなかったが、生徒会の方も忙しいようだ。
俺たちのクラスはというと文化祭と言ったら焼きそばだよね? ということで屋台を出すことになった。
メニューは焼きそば、たこ焼きなどなど。
みんなで練習に励んでいるところである。
司は料理が苦手らしいので少し教えるのが大変だったが最近は上手くなってきている。
かく言う俺もそこまで料理上手ではないのだが、焼きそばくらいなら作れるようになった。
文化祭まで約1ヶ月半ほど。それまでには完成できるだろう。
作業風景を見ていれば、時間も時間だったのでそろそろ帰ろうとしていると、突然声をかけられた。
「そ、そ、そこの少年......」
酷く掠れて弱々しい声である。
「俺ですか?」
「き、君以外に誰がいる」
上級生だろうか。しかし覇気はなく顔は青白くて、壁に寄りかかって腰の部分を押さえている。
よくよく見てみれば、制服に生徒会のバッジが付けられていた。
うん、まさか......。
「えっと生徒会長ですか?」
「ああ、そうだが......」
こ、この人が......ってあれ?
生徒会長こと花園 絢華。しかし俺の印象とかけ離れている。
何と言うか覇気がない。体育祭の時も前でオーラを放ちまくっていたが今はそれがない。
そして腰を必要以上に痛そうの押さえている。
これには流石の俺も気づく。
「もしかして腰痛めたんですか?」
「ああ、うう......情けないが、そうだ。まだまだ若々しい体なんだがな」
ちなみにこの人の精神年齢の方はだいぶ先を行っている気がするのは気のせいなのだろうか。
お姉さん系とも言えないが、大学生とは間違えられてもおかしくないだろう。
「と、とりあえず保健室に......」
「いやいい。それよりこの段ボールを運んでくれないか? 生徒会室に」
そう言って生徒会長は床に置いてある段ボールを指差した。
「分かりました。先輩の頼みですし受けさせていただきます」
「ありがとう。助かる」
「1人で保健室へ行けますか?」
「ああ、大丈夫だ......うぐっ!? うっ、多分大丈夫だ」
いや、大丈夫ではないだろう。しかし本人はこう言っているので俺はこれを運ばなければならない。
俺は段ボールを手に取り、持ち上げた。
「って、重たっ」
中身は想像以上に重たく、持った瞬間足元がぐらついた。
なるほど。これは生徒会長の腰も痛めてしまうわけである。
「もし無理なら他の誰かに頼む。重いからな、無理もない」
しかしここで、重いので他の人に頼みます、などと言えるわけがない。
俺だって男子。女子にかっこいいところを見せたい。
......本心を言うとここで折れてしまっては情けないなと思ってしまったからだ。
それに持てないほどではない。
「いや、全然大丈夫です。俺が持ってくので」
そう言って俺は生徒会室に向かった。
***
「はあ、はあ......」
生徒会室まではそう距離も遠くない。重いが余裕だろうとたかを括っていたわけなのだが、あとちょっとのところで腕と手から悲鳴が聞こえてきた。
俺は何とか踏ん張って、生徒会室の扉をノックした。
「はーい......って柚李くん?」
扉から出てきたのは心陽だった。
しかし段ボールを見て何かを察したようで、すぐに中へ入れてくれた。
「はー、う、腕が......」
すぐに段ボールを机に置き、手と腕を振った。
「運んでくれたんだ。ありがとう」
生徒会室には相変わらず心陽しかいなかった。
なので心陽もタメ口である。
他のメンバーは別の場所で準備でもしているのだろう。
「絢香先輩が運ぶって言ってたはずなんだけど......」
「ああ、生徒会長は腰を悪くして現在保健室」
「え、それ大丈夫なの?」
「多分大丈夫......」
「そっか、それならいいんだけど」
......いや、大丈夫じゃないな。まあいいか。
「......そう言えば心陽のクラスって文化祭の出し物何やるんだ?」
俺はふと疑問に思ったので投げかけてみる。
心陽のクラスメイトたちが特に気合が入っている様子だったからだ。
すると、心陽は答えずらそうに視線を外した。
「......えーっと」
「あ、いや、秘密ならいいんだ」
「そういうわけではないです......けど、うーん」
心陽は視線を外したまま頬を赤らめていった。
「......メイド喫茶」
あ、普通にいた。メイド喫茶やる猛者クラス。
「心陽もやるのか?」
「......うん」
何故だろう。絵面を想像しただけで鼻血が出てきそうである。
心陽のクラスはよく自分たちのクラスの需要がわかっているようだ。
「今変なこと考えたよね! うー! 恥ずかしいから想像しないで!」
心陽は俺の手を揺さぶっている。
「あー、行ってもいい?」
「絶対だめだめだめ! 見せたくないーーーーーー! 特に柚李くんには見られたくないー!」
心陽の叫びが生徒会室に鳴り響いた。