第13話 友達だから
「体調は?」
「今のところ大丈夫です......ありがとうございます」
今、お風呂上がりでパジャマ姿の心陽がソファーで俺の横に座っている。
良い香りがしてそちらに気が入ってしまっていることは置いておこう。
正直家に送るところまでで終わって帰ろうかと思ったのだが、またしても服の袖を掴まれて上目遣いで止められた。
これをやられてしまっては断りようがない。
少し声色が明るくなったが表情はまだどんよりとしている。
今のところ体調は大丈夫らしいので安心だが、精神的な面としてはまだまだ不安がある。
「その、すいません......変ですよね、私。家にいて欲しいだなんて」
「別に気にしなくてもいい。友人の頼みだし嫌じゃない。確かに不思議には思ったけど」
「......多分友人と一緒にいて欲しいんだと思います。寂しいっていうか......実はその......」
心陽が言おうとしたとことで、少し声が震え、言い淀んだ。
湯呑みを持つ手が震えている。
「......すいません、また私......」
先ほどから謝罪を連呼している。それだけ悲観的になっているということだ。
「謝らなくていい。言っただろ? 今は自分の心配をしてくれ。泣きたいなら泣けばいいし、頼りたいなら頼ればいい。まあ、甘えたくなったら甘えてくれたっていい」
友達ってそういうものだ。
友達が少ない俺がいうのもなんだが、俺もよく苦しんでいた。
心陽ほどではないけれど、心のダメージを負っていた。
でもそれをあいつらに救われた。
「.......どうして私のためにそこまでしてくれるんですか?」
声は震え、いかにも泣き出しそうだ。
「友人だからだ。俺は七瀬のことをそう思ってる」
「友人......ですか?」
「ん、七瀬から友達になりませんかって言い出してきた癖に」
「......確かに......そうでしたね」
また心陽はポタポタと涙を流し始めた。
しかしこちらを見て、笑って見せた。
「じゃあ......少し落ち着いたら聞いてくれますか?」
「ああ、もちろんだ」
心陽はそう言うと、湯呑みのお茶を飲み干し、俺の膝にこてんと倒れた。
不覚にも少しドキリとしてしまう。
「......七瀬? 何してるんだ?」
「友人......なんでしょう? それに甘えていいって言ったの調月くんじゃないですか」
「いやまあそりゃそうなんだが......」
そうは言ったものの、あれはその場のちょっとした誇張のようなものだ。
まさか本当に甘えることをご所望されるとは思わなかった。
それに心陽は異性である。
心の中で戸惑っていると、そんな俺を見透かしたのか、ふふっと笑った。
「素直に甘えさせてくださいよ」
......意識してしまってそれができないんですよ。
落ち着こうとしようも落ち着けない。
......そしてこの髪すごく撫でたい。そんな衝動に駆られてしまった。
またしてもそんな心を見透かすように心陽は言った。
「髪、撫でていいですよ」
「......それは無理な話だ」
「いいじゃないですか、別に。素直になっても」
どうしてこうも心を読んでくるんだよ。
俺が何も言い返せず沈黙を決め込んでいるとまたしてもふふっと笑って七瀬は言った。
「ではこうしましょう。私の髪を撫でてください」
「......」
「どうしました? 友人の頼みですよ」
心陽の様子がいつもと違う。
甘えたがりな聖女様状態である。正直この状態の心陽に触れたことがない。
学校で見ているのは美しくて純粋で光り輝く聖女様。
俺が見ているのは奥手で謙虚で可愛らしくてちょっと自信なさげな少女。
しかし今は甘えん坊でちょびっと小悪魔の少女。
こんな一面があったのか。......良くも悪くも心臓に悪い。
俺は抵抗を覚えながらも心陽の髪を撫で始めた。
甘い香りが鼻腔を掠める。
髪は少し湿っているが触り心地が良い。
心陽の方も満足しているのか、瞼を閉じている。
「......これで良いのです」
「今日の心陽、少し変だぞ?」
「......ええ、でも、人間誰しも甘えたい時があります......少し寂しいんです。でも今は満たされてますよ」
最後のセリフに心臓が飛び上がってしまう。だから......あー、心臓に悪い。
しばらく撫でていると心陽はすぴーっと寝息を立ててぐっすりと眠ってしまった。
その無防備な顔に俺の精神は大きなダメージを受けた。




