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第12話 雨の下、迷子の子猫

「休日なのに何やってんだ......」


 迷子の子猫。もしくは捨て猫。

 そういう風に表現するのが正しいだろうか。

 

 ざぁざぁと雨が降りしきる中、心陽はバス停の屋根の下で雨宿りをしていた。

 服は濡れており、髪もびしょびしょである。傘を忘れたのだろう。


 何の用があってここにいるのか知らないが、心陽の様子はいつもと違っていた。

 

 ぼーっとただ雨雲を見ており、いつものような光がない。

 どこか迷っているかのような、何かと断ち切れていないかのような、そんな感じがした。


 というかそれよりあのままは普通に風邪を引くだろう。

 

 俺は心陽の元へすぐに駆け寄った。


 しかし心陽は、ぼーっとしておりこちらに気づいていない様子だった。

 

「心陽」

「......調月くん? ......どうも」


 こちらに気づいたかと思うと、視線を下にして、また自分の世界に入った。

 想像以上に重症である。何かあったのだろう。友達として見過ごすことはできない。


「......なんかあったのか?」

「いえ、別に。......気にしないでください」


 声もいつものような明るさがない。暗くて小さい。


「風邪引くぞ」

「......そうですね」

「何か拭くものいるか?」

「......いえ、いらないです」


 会話はそれで止まった。

 雨の音だけがよく聞こえる。


 こちら側からすれば気まずいのだが、相手からしたらそんなことを気にする余裕などないのだろう。

 詮索するのは余計にダメだ。相手は知られるのを避けている。

 友達......とは言っても信頼はされていないのか。

 友達は友達でも悩みや本音を言い合えるような友達ではない。まあそりゃあ当たり前か。


 当たり前なのだが、俺はもっと心陽のことを知りたい。

 ......あいつら以外にできた初めての友達だから。


 ただ、今は1人にさせて欲しいということだろう。

 心陽が1人になりたいと願っている以上、これ以上の介入は野暮だし、ここにいるのは無駄だ。


 風邪を引くのは流石に放って置けないので俺は一応ハンカチを置き、無言でその場を去ろうとした。


 しかし、心陽が俺の服を弱々しい力で掴んでそれを静止した。


「......」


 .なんだよ......それ。


 俺は心陽の隣に静かに座った。

 そしてしばらくすると、彼女はポタポタと涙を流し始めた。

 

「うぐっ......」


 我慢して堪えていたものが湧き出してしまったのだろう。

 こちらとしても胸が痛い。

 心陽は一生懸命服の袖で涙を拭っている。しかしそれ以上に溢れる涙が多い。


「ハンカチ使っていいぞ」

「......」


 俺がそう言うと、彼女はハンカチを手に取り、顔を疼くめた。

 

 ......俺は彼女の様子を見てあげることしかできない。


 本当なら俺が心陽を抱きしめて、頼らせてあげたい。......が、これからの関係に亀裂を生じる場合がある。

 俺としても心陽が落ち着くまで、ただただ見守るつもりだった。しかし......。


「......うぐっ」


 雨音に混じって啜り泣く声に見守るという選択肢がどうして取れようか。

 何かしてあげたい。

 

 ......これくらいなら友達関係でもやるはず。


 俺はハンカチを使っていない心陽の華奢な左手を掴んだ。

 嫌がられるかな、と心配したが、心陽は俺の手を握り返した。


 ***


「......すみません......お見苦しいところを」

「あーいやいや、そんなこと言わなくていい」


 落ち着いた後、心陽が発した言葉は他人を気遣う言葉だった。

 どれだけ自分が苦しくても他人思い。


「はっくしゅん」


 心陽は可愛らしいくしゃみをした。......ってこれ風邪引くやつでは?


「......うう......寒い」


 とにかくすぐに対処しないと本格的に風邪を引いてしまう。

 俺は来ていた上着を脱いで心陽に渡した。


「とりあえずそれは着替えた方がいい。俺はあっち向いておくから」

「......しかし」

「大丈夫! 見ない!」

「......あ、ありがとう......ございます」


 俺は目を手で覆い隠して反対方向を向いた。


 心陽の服を脱ぐ音からつい無意識に想像してしまうが、必死に別の話題に意識を背ける。

 

「......あの、着替え終わりました」

「お、おう。俺傘持ってるし家まで送って行くから、とりあえず家の場所だけ案内してくれるか?」


 おそらくそう遠くはないはずだ。ここは心陽がいつも降りている駅に近いのでこの近くに住んでいるのだろう。


「で、ですが......」

「......あー、相合傘が嫌なら俺だけ濡れて帰ろうか?」

「いえいえ、そう言うわけではないです! むしろ......嬉しいです!」

「ん、じゃあ早いうちに行くぞ」


 俺は心陽を傘に入れて心陽の家に向かった。


 





 


 






 

  


 


 

 


 

 

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