第10話 約束
学生の本分と言ったら勉強なのだ。勉強するしかないのだ。
それはわかっている。
しかし中間テストがいざやってくるとなるとため息が出るというもの。
中間テストが終われば楽しい楽しい文化祭の準備に取り掛かることになる。
だからこれを乗り越えるだけ。普段からコツコツとやってきてはいるので心配をする必要もない。
課題が多いことを除けばだが。
まあいつもより倍勉強する必要があるのはたしか。それが嫌なのだ。
自宅でもどうせ勉強できない。図書館で勉強した方がましか。
うちの学園は図書館がだいぶ広い。いろんな書物が置かれている。
そして大テーブルの数も多い。
なので、学生たちが勉強スペースとして使っている時もある。
閉門までまだまだ時間がある。
十分に勉強できるだろう。
俺は図書館に入り、勉強できそうなスペースを探した。
ガラ空きとまでは行かないが、勉強している生徒は少ない。
成績上位者がちらほらいるという感じだろうか。
せっかくなら1人席がいいよな。
まあそんなのないか。
と、探していると、1人で勉強している心陽の姿も見られた。
相変わらず勉強熱心だな。
勉強の邪魔するのも悪いか。そう思って別のテーブルを探そうとした時、心陽がこちらの姿に気づいた。
「調月くん、珍しいですね。こんにちは」
「こんにちは、流石にテスト勉強しないとやばいからな」
「調月くんも勉強ですか。でしたら一緒に勉強しませんか?」
「ん、いいのか? 俺が足引っ張るかもしれないぞ」
「いいですよ。アウトプットも大切なので」
心陽と勉強できるとなればだいぶ助かる。
俺は心陽の隣に座って早速教材を開いて勉強を始めた。
「調月くんはいつも昼食は食堂で食べているのですか?」
ふと、心陽がこんなことを言い出した。
「え? ああ、まあそうだな。あいつらと食べてる」
「そうですか......」
「それがどうかしたのか?」
「その......たまにはお弁当もどうですか?」
心陽の目は少し泳いでいる。
「え、作れるには作れるけどけど下手だからな」
「あ、いえ! そういうことではなくて......わ、私が調月くんの分のお弁当作ってくるので一緒に食べませんか!」
聖女様の......手作り弁当? た、食べたい......!
各方面に少し申し訳なさを感じるが、それでも食べてみたい。
「昨日たまたま気になる漫画あったので見てみたらそういうシチュエーションがあったので......それに最近新しい料理を覚えたので調月くんに味見してほしいといいますか......」
「なるほど、俺としては非常にありがたい。けど七瀬の負担にならないか?」
「そこは大丈夫です」
「なら、頼んでもいいか?」
「はい! 中間終わって作る時になったら連絡しますね」
中間後に聖女様の手作り弁当。そう考えれば中間の勉強に拍車がかかる。
「楽しみにしとく」
「そ、そんなに期待されても困ります」
気恥ずかしそうに心陽は笑った。
***
中間テストの結果は前より少し順位が上がっていた。
心陽は相変わらず全科目1位である。
張り出された順位表を見ても、もう感嘆の息を溢すことはない。慣れたというか、次元が違うというか。
日頃からコツコツと真面目に勉強できる努力家な一面に関しては俺も見習わなければならない。
努力せず逃げてばかりではこの先の人生困るだろう。
まあでも今回に関しては自分でもよくやった方だと思う。
中間後のご褒美のようなイベントを考えたら自然とやる気が出てきて気づいたら机に向かっていたのだ。
トップ10に入っている教科もあったので、満足である。
司は悲痛の叫びをあげていたのでおそらく赤点があったのだろう。
すると、横から声が聞こえてきた。
「七瀬っちえぐくねー、毎回1位取ってんじゃん。すげー」
「まじそれなー。やっぱうちらとは頭の出来が違うっていうか?」
見れば俺の天敵の中でも超絶天敵『The ギャル』が心陽に絡んでいた。
心陽は少し困った顔をしている。ああいう陽系の相手をあまりしたことがないのだろう。
会話のテンポについていけていない。
「あ、ありがとうございま......」
「まじパネー、今度教えて欲しいわー」
心陽はこちらに気づいたのか目をやり、まるで助けてくれとも言わんばかりの目をした。
しかしああいうギャルたちも悪意はない。......まあ中にはいるのだが、うちの学校のギャルは比較的温厚だろう。
「ていうかさー、今度七瀬っち一緒に遊ばねー? ていうか友達ならねー? あ、その前に連絡先交換か。七瀬っち携帯かしーの」
「え、あ、はい」
「よしこれでいつでも連絡できる。ほんじゃあまた連絡するねー、七瀬っち」
「あ、えっと、はい、さ、さようなら?」
そうして嵐は去っていった。少し面白い構図である。見ていて吹き出しそうだった。
ギャルたちが去っていった後、心陽は俺のところへ寄ってきた。
「ああいう人たちは少し苦手です。テンションが高すぎて疲れます」
「学校の七瀬はお淑やかって感じするしな。わかる」
「学校の......ですか。プライベートだと?」
「えー、えっと、可愛い系? 学校の七瀬は美しいって感じだけど、普段の七瀬は可愛い雰囲気だな」
「え......あ、ありがとうございます。可愛い......ですか」
そう言うと心陽はくるくると髪をいじり始めた。
顔も心なしか赤く見える。
「(調月くんの方こそかっこいいと思いますよ?)」
心陽は小声で何かを呟いた。しかし聞き取れなかった。
「ん、なんか言ったか?」
「いえ、何でもないです」