第1話 学園の聖女様とは
朝とは打って変わって、この車両にいるのは2人だけ。
俺といつも乗っている『学園の聖女様』こと七瀬 心陽。
地元の人が何人か乗っていることはあるが、帰りは大体こんな感じである。
学園の聖女様と2人きりで電車に乗っているということに羨ましさを覚える人も少なくない。
容姿端麗、頭脳明晰。......才色兼備、文武両道。
さらにまだ高校1年生でありながら、生徒会副会長として頑張っている始末。
まさしく才女。
艶やかな髪に、うるうるとした瞳、スベスベとした肌......。
全男子が見惚れるほどの美貌を兼ね備えている。それに加えてテストではいつも1位。
スポーツも万能だと聞く。
それ故の苦悩としてよく男子から告白されたりそういう目で見られるらしい。
まあ、そんなにモテている人物だから彼氏ぐらいはいるのだろうなと思っていたらどうやらいないらしい。
年頃の女の子なんだから彼氏ぐらい作って遊べばいいのに、と俺は最近思っている。
まあ、俺も彼女はいないのだが。
ちなみにもちろんそんな心陽とは一度も話したことがない。
同級生なのだがクラスが違うし、さらに話しかけたことがないのだ。
元々ヘタレ心がある俺にとって女子どころか『学園の聖女様』に訳もなく話しかけるなどもってのほか。
ただ、電車に揺られながら外の景色を眺めているという貴重な聖女様を眺められるのはこの世界で俺だけだろう。
可愛いな、というよりは、美しいな、と思っている。
どこぞのラノベの中であろうかと目を疑う。ただ、現実なのである。
今日もいつも通り聖女様を眺めていると目が合ってしまった。慌てて俺は視線を逸らす。
しまった、絶対ジロジロ見てくる変な人って思われた......。スマホ触っとこ。
別に俺は聖女様に好意があるわけではない。『推し』という表現が正しいだろうか。
聖女様に近づいて仲良くなりたい......あわよくばお付き合いを......などという幻想を抱いているわけではないのだ。
そもそも好きな人じゃないと付き合わないのが俺のスタンスである。あくまで聖女様は『推し』
そんな受け身だからいつまで経っても彼女できないんだよと言われるが図星なので黙っておこう。
......ああ、そうか、聖女様も同じ感じなのか。そう考えると腑に落ちる。
今日も聖女様は俺の降りる1つ前の駅で降りて行った。