冬の章 紅椿の落ちる白き季節2
空は血のように赤く広がっている。
マントを目深に被ってとある家の戸を叩く。
叩く音のすぐ後に「はい」と返事が来て扉が開く。
紫色の髪を緩く下の方で結んでいる作務衣の見知った気配に目線を上げた。
「……よく、来たな」
金の瞳は変わらずに夢茨を写していた。
「……夢刻」
鬼の世界への入り口になりうる所は全て封印して回っていたはずだったが目の前に現れた夢茨に夢刻は焦ることなく夢茨の事を見据えていた。
「いや、よく来れたな。 こちらへの扉は全て封印していたはずだったが」
夢茨は無言で夢刻を見た。
「一回だけ渡れる方法を教えてくれただろ」
「……そうだったな」
夢茨の言葉に夢刻はうなづいて生きる気力が抜け落ちている夢茨を室内に招き入れた。
「どちらにせよ、夢茨を呼びだそうとは考えていたからちょうどいい」と話しながら座布団に座らせて向かいに夢刻も座る。
人の夢から最近まであった事を読み取っている夢刻は夢茨を見た。
「……みんなが探しているぞ? 一度帰ってみろ」
「あそこには煉華はいない」
夢刻の言葉に夢茨は首を横に振り、言葉を絞り出していた。
「何より、あの組織は煉華を否定したんだ」
夢茨の怒りの声色に夢刻は息を吐く。
「生きて生まれ変わりを探しても良い」
夢刻は夢茨に言い聞かせる。
「……今なら選択できる。鬼城へと戻り人として生まれ変わりながら煉華さまを探すか、鬼となって煉華さまを探し続けるか」
夢刻は封印を施した壺を目の前に置く。
「これは?」
「実質上のお前の敵みたいなもんだ」
夢茨の問いに壺を見つめて答えた夢刻は呟く。
「こいつが柘榴を焚き付けた」
夢刻は静かに呟く。
「しかし、こいつの絶大な力でないとお前を鬼へと変化させられない」
夢刻の力だと夢茨を鬼にするには足りないのだと呟いていた。
「選べ」と夢刻は夢茨を見ていた。
「……鬼になる」
熟考をしたのちに夢茨は夢刻へ宣言した。
「戻る事はできんぞ? それでも良いのか?」
「死んで忘れるのも嫌だ」
夢刻は夢茨の選択を承諾したかのように壺を夢茨の前に押し出した。
「壺の中の物を飲め」
壺を傾けると小さく白く輝く球が手のひらに転がり出てきた。
「……」無言で夢茨は白い球を飲み込んでいた。
夢茨はゆっくりとその場に倒れた。
「……鬼に作り変えられるのを耐えられるのだろうか」
夢刻は倒れた夢茨を布団に横たえてやっていた。
「……耐えろ、夢茨」
夢刻の言葉は夢茨の耳に届いてはいなかった。
鬼の血を引いているとはいえ人と同じ存在に純血の鬼を食わせて鬼へと変化できるのかは不透明であった。
以前は半鬼が鬼に変化した事例は確認できてはいた。
煉華が亡くなった話を聴いたとき、愧焔は崩れ落ちていた。
力を増幅を狙い夢刻の力で弱った鬼王の心臓を喰らうと言う作戦で見事にやって退けていた。
次点で鬼王に近しい皪魄の心臓は今、夢茨が食べている。
もうすぐ、夢刻は寿命を感じて消滅するのを待つばかりの身。
夢茨に残せるのが力しかない事は寂しい事だと思いながら夢茨を待っていたのだ。
眠り続けている夢茨。
時々くぐもった呻き声が鳴き声が聞こえてくる。
ゆっくりと鬼になっていく夢茨の姿に夢刻はほっと息を吐く。
ゆっくりと目を開く夢茨。
瞳の色が黒から黄金へ。
髪の色も紫色へと変化していた。
「夢茨、大丈夫なのか?」
「……大丈夫」
夢刻は夢茨を見て声をかけると夢茨はうなづいていた。
愧焔が扉を開いて入ってくる。
「心配でな、様子を見にきたんじゃ」
愧焔は夢刻から視線を外して起きた夢茨を見た。
「うむ、起きたのか」
愧焔は夢茨の側に座る。
「夢の一族の復興お主に頼むぞ」
愧焔は夢茨の肩に手を置く。
「何故ですか? 夢刻がいるじゃないですか」
夢茨は夢刻を見た。
「……夢刻はもうそろそろお迎えがくる」
愧焔の言葉に夢茨は目を見開く。
「……他の鬼たちにもお声をかけているのですね」
夢刻は愧焔に問いかけている。
「わし1人だとまもれないからのぅ。 一族に1人見る物を据えておけば見守りも容易であろう」
愧焔は夢刻に答える。
「何もしてない小鬼たちが狩られるのはちと思うところがある。悪いことした奴を守る義理はないがの」
愧焔は夢茨を見た。
「お主、夢茨だったな。小鬼たちを守ってくれておったのは聞いてある。ありがとうな」
愧焔は夢茨に、声をかけたが夢茨は首を振る。
「人だった夢茨は死んでます」と夢茨は呟いた。
「鬼の夢斗と呼んでほしい」
愧焔に夢斗は改名して名乗っていた。
「分かった。夢斗やよろしく頼むの」
愧焔の言葉に夢斗はゆっくりとうなづいていた。
鬼になってでも煉華を忘れたくはなかった。
煉華を忘れて次の生に行きたくはなかった。
生まれてきたとき別の種族になってしまってもこの力なら、守り続けられると思っている。
夢斗へ夢刻は持てる全ての力を教えてそれをみるみるうちに自分のものへと落とし込んでいた。
全て教え終わると夢刻は笑ってゆっくりと空に溶けて消えてしまった。
本当に、夢刻たちは夢の終わりのような最期を迎える一族なんだろうと理解してしまった。
夢斗は夢刻の席へと周りから押し上げられ夢鬼の族長になったのだった。
桜が光に包まれた事件以来、他の桜と同じように花を咲かせ四季を巡るようになった桜の枝にのり、夢斗は、煉の様子を見にきていた。
鬼灯で見た顔が煉の側にいるのに気づいた。
雪太郎が考えて配置してくれていたんだろうと思い夢斗は姿を消す。




