春の章 桜が眺める淡い季節 蕾2
夢茨が夢刻に武道を教わり始め、数ヶ月が過ぎていった中で数ヶ月に数人だった行方不明が、1週間に数10人へと変化してきていた。
自主的に走り込みしながら川口村の村人たちの御用聞きをしながら耳に入る情報を頭の中で整理している。
今月だけでも行方不明者の数が異様に多すぎるとの人々の不安の声もあった。
夢刻と夢茨の平屋建ての家へと足を向けた。
「ただまー。師匠、あちらこちらで行方不明者が増えたってみんな不安そうに噂してる」
夢刻は今している作業を止めて、夢茨へと視線をむけた。
腕を組みつつ何かを考えてるようなそんな表情見つめて夢茨は「今日までの3日で5人って…」と夢刻に伝えると。
「...いや、多いな。普通の行方不明では無いな。」
暖炉の日を見ながら思案の底に沈んでいるようだったが夢茨のまっすぐ夢刻を見つめる意志のある瞳に気づいた。
「何かを期待してるようだがな。お前は絶対に原因究明しようとするな。」
キッパリと夢茨へと声を上げる。
「夜は特に出歩くなよ。 剣や身のこなしなど教えたが、お前は、まだ使い物になってないからな。」
夢刻は夢茨の言いたいことを理解しているようだ。
「まだ子供だ。 何かあったらどうするんだ…」
「夢刻さん! オレ、力試ししたい!」
夢茨は夢刻ののんびりした声色の言葉に被せて駄々っ子のように腕を振りながら地団駄を踏んでいる。
夢茨の地団駄を踏んでいる姿に夢刻は「お前...…」と頭を押さえていた。
その日の夜。
夢刻は寝室で布団を被り寝息を立てる夢茨を確認し、そっと部屋の外に出て、戸口をゆっくりと閉めて歩き出す。
扉の閉まる僅かな音に気づいて夢茨は目を覚ます。
「夢刻さん?」
目を擦りながら夢刻を探すが、気配がない。
「……っ!」
飛び起きて、扉から出た。
「置いていくなんてずるい!」
お昼間の「夜、出歩くな」と言う夢刻の言葉は既に脳裏の彼方で消し去り夢刻を追いかけて行く。
すぐに後ろ姿を見つけ夢刻が気配を読めないギリギリの距離を稼いで尾行を開始していた。
(……あれ? こっち桜の寺院だ……)
夢茨は夢刻の後を追いながら首を傾げる。
対の狛犬を通り抜けて行く夢刻。
夢茨は狛犬の影にかくれ、様子を伺っていると寺院の正面に空間が縦に割れ白い炎を纏う通過門ができている。
通過門の向こうは割れた寺院の姿とは違う景色が見えた。
夢刻は躊躇いもなく門を跨ぎ向こうの景色へと踏み出した。
「……どうしよう」
夢茨は慌てて割れた空間の前にゆっくりと近寄るも中へと入る度胸は無い。
門の前でまごまごしていると背後から獣のような息遣いが聞こえてきて、重苦しい気配が迫ってくる感じがする。
恐る恐る振り返ると巨体を持つ異形の化け物が疾走してきていた。
驚きで身体が凍りついたかのように身動きが出来ないでいると(生きるために走りなさい!)と今は亡き母の声が脳裏で蘇ってきた。
体の硬直がとけ、生きる為に夢刻が通った門へと飛び込み走り出した。
化け物もまた、小さな獲物を捕まえて喰らおうと夢茨を追いかけて門へと飛び込んだのだった。
数分間、走り回ると息が上がってきていた。
夢刻作成した時刻割での修行をして、体力が上がってきていたはずだったのにも関わらずにだ。
「……はぁ、はぁ、」
息が上がる。
止まりたい…。
止まると絶対に、殺されて食われる!
走りながらも弱腰になるが、結果、喰われることは想定できた。
死にたくないっという必死の思いで足を動かす。
目の前に桜が咲き誇る屋敷が目に入り、躊躇いもなくその屋敷に飛び込んでいた。
「……誰だ?」
白い前髪ごと後ろで纏め長い髪の冷たい雰囲気の男が夢茨を見下ろす。
息を整えようとしている夢茨を追いかけて屋敷の中に足を踏み入れようとしているモノに目線を投げる男。
「こっちは人喰い鬼の方か…」
透明な壁に阻まれているように藻掻く化け物。
「ソレをコッチに寄越せ!」
化け物は、夢茨を指さして嗄れた声で男に怒鳴り始める。
「ソレは、お前たちには不必要なものだろう!!俺が喰う! コッチにヨコセ!」
耳障りな絶叫は屋敷を震わせた。
「なんの騒ぎか」とゲンナリして部屋の奥から出てきた人に驚きの目をむけた。
「おろ?人の子か? ここに迷い込んだのか?」
「寺のおねーさん!」
気がついた桜の女性は夢茨に声をかけてきて、夢茨も嬉しそうな表情とほっとした雰囲気に包まれた。
「喰わない鬼だろうが!!! さっさとヨコセ!!」
屋敷が震える音量でなおも吠えていた。
顔を真っ青にした夢茨は耳を塞いでうるさそうにしている。
「ひとまず月。黙らせろ」
「御意に。」
月はどこからともなく棒を取り出して人喰い鬼へと襲いかかっていく。
人喰い鬼も爪で応戦していた。
「寺のおねーさん!」
「うん? 寺のおねーさんではないんだが?」
夢茨が走り寄ってきて煉華の隣に立つのと張っていた結界が壊れたのが同時であった。
「?!」
煉華は武器を出現させ夢茨を護るように身構える。
「ソレ食う!!!」
結界の欠片を纏わせながら飛びかかって来た人喰い鬼の背後に月が人喰い鬼に攻撃範囲内に捉えている。
「手は出さなくていい」
月は声を上げるのと同時に人喰い鬼の心臓部を棒で突き刺した後に屋敷の壁へと吹き飛ばした。
屋敷の壁は崩れ落ち瓦礫の中に鬼は埋まったのを確認し棒に着いた血糊を振り落とした。
「月、ご苦労様。えーと。人の子どうしてここに迷い込んだ?」
月を見て労い。
夢茨に視線をずらして問いかける。
「人の世より、行きずらい場所だ」
月は夢茨を見ていた。
「夢刻さんが、この世界に来てるんだ! あの人気にせずに奥まで入ってちゃった!!」
オロオロと涙目になりつつある夢茨。
「夢刻、というものが私たちの知ってるやつなら問題は無いと思うが…」
「……夢……の鬼だな。」
煉華は月と顔を見合せて皺を寄せていた。
「戻っているなら愧焔さまのところなのだろうな。煉華さま、一寸、見てこようと思う」
煉華がうなづいたのを確認をし月はそのまま屋敷から出ていった。
「煉華?」
夢茨は首を傾げる。
「私の名前だ。」
煉華は夢茨に反応した。
「俺もおねーさんの名前呼んでいい?!」
入れ食いのように両手握りこぶし作って声をあげた。
「好きに呼べばいい…」
気圧されて煉華はうなづいた。
更新出来ました!
よろしくお願いします!