秋の章 彼岸花が見上げる実る季節 情熱1
組織に戻り、夢茨は大量の文の処理をして居る。
その隣で、煉華も文の処理を手伝っていた。
ふと、夢茨は文を持つ手を下ろして煉華を見つめた。
「煉華さま、一緒に生きて行こう」
まっすぐに煉華を見つめて夢茨は伝える。
「……今も同じではないのか」
夢茨の言葉に煉華は首を傾げていた。
そうだけど、言いたいことはそうじゃない。と夢茨は思い涙を流す。
夢茨は煉華に向き合い真剣な目を煉華に向ける。
「……家族として一緒に過ごしていきたいと伝えてるんだけど」
夢茨の言葉に煉華は言葉の意味を噛み砕いて理解した瞬間、真っ赤になっていた。
「すでにお前は私の家族として見ていた。 だから一緒にこの場所にいるんだよ」
「それってつまりは?」
煉華の言葉に夢茨は首を傾げていた。
「夢茨、私にそれを言わせるのか……」
ゲンナリと煉華は呟いていたが夢茨を見た。
「私は夢茨が好きだ」
煉華は優しい声色で夢茨に伝えると夢茨も嬉しそうにしていた。
煉華は鬼の世界に戻っていた。
心配しているであろう直上の兄である愧焔に報告のために赤銅色した空の世界に戻って来ていた。
「愧焔兄上」
煉華は愧焔の館に足を進めて来ていた。
「ん? 入って良いよ?」
愧焔の言葉に煉華は襖を開いて愧焔の部屋に入る。
文を広げて何やら忙しそうにして居る金色の毛先がクルクルと独特な癖毛で黄金色の瞳の愧焔に気づいて煉華は悩む。
悩んでいる煉華を見て愧焔は周囲を見渡してハッと乱雑に散らかった文や書籍などを片付け始めた。
「良い良い、気にするな。 丁度、休憩したいと思っておったのでな」
愧焔は笑って先ほどまで持っていた文を横に避けておいていた。
煉華はほっとして愧焔の側に座った。
「夢茨と一緒に暮らす様になりました」
「……そうか」
煉華の言葉に愧焔は柔らかい笑顔でうなづいていた。
「ワシはな、煉華と天華の“幸福”を祈っておる」
こちらの事はワシに任せておけと心の声が聞こえて来た気がした。
「ありがとう。兄上」
「……いつでも会いに戻って来れる」
煉華の言葉に愧焔はうなづいていた。
「祝いの品は豪勢に贈るからな」
「……そんないらない……」
愧焔の言葉に煉華はゲンナリとお断りをしている。
愧焔は笑いながら“遠慮するでない”と言いながらケラケラと笑っていた。
「けど、そうだな。いつでも戻れるからまた顔を見に来るよ」
煉華は輝くような笑顔で愧焔に言い置いて部屋からでて行っていた。
愧焔は煉華を見送って避けていた文を広げて立ち上がる。
すぐ後ろに影が現れたのを気配で察したようだった。
「……さて、ワシらも動くか?」
愧焔は“あやつらの為になぁ”とのんびりと声を出していた。
「……まぁ、卑怯な作戦で……しかも、私の力が通じる相手かすらも未知数なのですが」
「お主、力を増強する為修行すると言って夢茨を置いて行方をくらませていたではないか。夢刻」
現れた影がゆっくりと人型をとり、紫の長い髪、金色の瞳を持つ男、夢刻が姿を現す。
「それにしても、我が義理の息子を選びなさったか……煉華様には申し訳ないが、あいつで大丈夫なのか」
相当、心配している様な声色に愧焔が気づいてケラケラと笑っている。
「問題なかろう」
愧焔はある程度笑いが落ち着いた頃に冷静に答えていた。
「煉華が選んだ婿殿だ。問題があればあやつらが乗り越えて行く事じゃろうて」
愧焔は夢刻に近づいて肩をポンポンと叩いていた。
「さて、ワシらは力のない者のやり方で勝ちに行くぞ」
夢刻は一度重々しくうなづいて立ち上がる。
「こっちの世界は混乱するじゃろうが、人の世界はしばらく平和に持っていけるはずじゃ」
愧焔は人の世界から保護されて愧焔の館に連れてこられた半鬼たちに“許せ”と謝り動き出した。
館の奥から出て来た半鬼たちは愧焔と夢刻に対して正座をして深々と頭を下げて「行ってらしゃいませ」と送り出していた。
事務員の3人娘は夢茨と煉華の纒う雰囲気に変化が起こったことに気づいた。
「先日、夢茨さん告白成功したらしいですよー」
「ようやく……ですか!」
「ただ、告白した場所がいただけない……」
3人娘はキャイキャイ話をしている。
「ちょっと式をどうするか伺って来ますわ」
握り拳を作り1人の女性は急いで夢茨の部屋に向かう。
「一応、目次を作っておきますか」
「楽しいですね」
ふふふと笑いながら各々明るい話題に動き始める事務3人娘であった。
月の館でも事が動いている。
「……お祝い準備しなきゃ!」
「何を用意する?」
ヒソヒソと囁き合う声があちらこちらから聞こえてくる。
「姉様と夢茨2人の結婚でこんなに明るくなるのは応援してくれてた人が多いって事ですね」
周囲を見回して天華は笑いながらうなづいていた。
あれよこれよと言うあっという間に事務方3人娘と月の館の子たちの恐ろしく素早い影の実力により、数日のうちに結婚の用意をしていた。
「いや、そんな大事にしなくても?」
「いい、区切りになりますのでぜひ!!」
遠慮する煉華の声と事務方娘Aの声が飛び交っていたのだが、事務方娘Aの勢いと熱心なお願いにより折れたのは煉華であった。
お祝いのために奔走していた全員は万歳をしていたり、両手を合わせて涙を流して喜んでいたり反応はそれぞれであるが皆んなは嬉しそうである。
特に主役の2人の嬉しそうに笑う煉華と夢茨の姿は記憶の中に焼き付けるものが多数存在している。
後日、絵の得意なものたちはその光景を絵に記して大事に取ってあると言う一幕も後に語られた。




