夏の章 鬼灯が照らす灼くる季節 枯灯籠1
サブタイの枯灯籠の読み方→[かれとうろう]となります。
雪太郎と野菊たちが鬼退治の依頼を受け、旅立ち数週間が過ぎて行った。
「雪太郎、大丈夫でしょうか」
心配そうに天華は夢茨の所に訪れた。
「心配しすぎ」夢茨は苦笑しながら天華を見て言う。
「あの子が誰かを傷つけていないかが一番心配なのですよ。罪は絶対に背負わない方がいいですから」
天華の言葉に夢茨もうなづく。
天華と夢茨の面談した後、数日が過ぎ雪太郎が一団を連れ戻って来た。
「戻りました」
気楽に戻った雪太郎と一様に重苦しい雰囲気の後方との差がある状況にたちあって居る夢茨も眉を顰めている。
「雪太郎の声がしたから来たのですが、これは一体?」
桜の館の術組の部屋から歩いて来た天華は雰囲気を読み取り夢茨と同じ様に眉を顰めた。
「天華さま!」
雪太郎は声を上げて手を振る。
「無事に戻った」
「おかえりなさい」
雪太郎の言葉に天華はうなづいてすぐに一団を見回していた。
「向かった時にいた人が見えなくなってますね」
天華が1人つぶやいていると天華の側に来た夢茨も「何人か居なくなってるな」とつぶやいて戻って来た隊士に歩み寄って行く。
「みんなお疲れ様」
沈んでいる隊士に夢茨は声をかける。
「一体なにがあった?」と夢茨は隊士全員を見て問う。
その裏で雪太郎が冷めた目で全員を睨んで居るのを天華たちは気づいていない。
「……依頼された鬼を全員で対応して倒したのですが……」
夢茨の問いに言いにくそうに呟く。
「……“別の鬼”が現れました」と言葉を紡いだ人はそのまま顔を伏せて報告している。
野菊筆頭に、顔が見えない隊士たちは標的だった鬼を倒し、気を抜いたところに別の鬼が出現し襲われ、近くにいた隊士たち野菊を含め数名、生命を落としたと言うことだった。
「雪太郎さんが気を取り戻し、出現した鬼を滅しました」
天華は雪太郎を見ていたら「やられたから、やりかえした」と真顔でつぶやいた。
「後で、話を聞きます」
「分かった」
天華の言葉に雪太郎はムスッと不機嫌になりながらもうなづいた雪太郎の頭を軽くポンポンと撫でた。
「理解してますよ」
「うん」
天華は雪太郎に伝え、天華の言葉に雪太郎はゆっくりとうなづいていた。
しばらくした後、雪太郎は夢茨に呼ばれて夢茨の部屋に来ていた。
「失礼します」
入り口で止まり一礼して雪太郎は、声をかけていた。
「雪太郎か、入れ」
夢茨は雪太郎を見て前の座布団に招く。
「話については分かってるな」
「……分かってる」
幼い体なのに大人びた光を宿した眼で夢茨を見つめた。
「せめて敬語を……ってまぁいいか」
夢茨は咳払いをしつつ呟くが気を取り直し本題へと入る。
「何があったのか状況を報告してくれ。多分、雪太郎が冷静な報告できると思われるから」
夢茨は雪太郎の告げる内容を聞こうとしている姿勢になっている。
「……標的だった鬼を倒したのはいいんだけど、新手の鬼が出現した時に、野菊が近くの鬼灯の者1人を新手の鬼に向かって突き飛ばした」
雪太郎の言葉に夢茨は息を止めた。
「当たり前だけど突き飛ばされた奴は死んだ」雪太郎は冷静に言葉を紡いだ。
「野菊さんが鬼灯の子を?」
「そう。あいつ鬼に喰われた」
雪太郎は思い出すかの様に遠くを見た。
「喰われたってか……力が弱かったからなのか、鬼からしたら美味しくなかったからなのか、すぐ別の奴が標的になっていた」
雪太郎は崩れ落ちた同期の身体を目にしたとき野菊を鬼の前に蹴り出していた。
そして、すぐに力を使って氷の檻で野菊を鬼と一緒に閉じ込めていた。
閉じ込められたと分かった鬼は怒り狂って共に閉じ込められた野菊を殺し、氷を砕こうとした時に雪太郎が鬼を消滅させた。
【真実は言わない】と確固たる意思で雪太郎はまっすぐ夢茨を見た。
「それで次の標的になったのが野菊さんだったのか」
「そうだったよ」
夢茨の言葉に雪太郎はうなづいていた。
「自分が正気取り戻したのは同期が死んだ後しばらくしてだったし」
雪太郎は肩をすくめて言葉を放つ。
「鬼を倒してみんなのところに戻ったけど何人かは命を落としてた。だから近くで墓を作って戻って来た」
雪太郎は「応急処置できる奴は処置して連れ帰ってるよ」と夢茨に言う。
「分かった」
雪太郎の言葉に夢茨はうなづいていた。
「もういい?なら戻るよ」
雪太郎は立ち上がり夢茨の部屋から出て行く。
まっすぐ顔をあげ天華の部屋に戻る。
「おかえり」
「天華は、まだあっちに戻らないの?」
雪太郎の言葉に天華は悩む。
「月の館に運ばなきゃいけないものとかあるし、まだ片付いてないから今はまだかな」
天華は雪太郎の言葉に首を傾げる。
「……戻るにしても雪太郎はもう連れて帰れないよ」
雪太郎は人間の世界での事を考えて天華を見た。
「うん、みんなを守ってあげないと……そうしたら天華様についていけない」
雪太郎は半鬼の子たちの現状を考えてうなづいていた。
「これを託しますね」
天華は月の館の鍵を差し出していた。
「これは?」
「鬼灯専用の館の鍵。そのうち使うことになるでしょう」
雪太郎は天華の手から銀糸の紐を通した鍵を受け取り天華を見た。
雪太郎は半鬼ではないので、月の館の結界に阻まれる可能性がある。
鍵に天華の髪を編み込んだ紐を通してあり、雪太郎が通れなくなることは無くなるだろうと天華は考えての結果だった。




