夏の章 鬼灯が照らす灼くる季節 燐光3
鬼狩りが始動し数日が過ぎた。
夢茨は自室で真剣に事務作業をしている。
突き刺さる視線を感じ、夢茨は視線の元を辿り目を向けた。
「野菊さん、なんですか?」
ニコニコと見つめて来ている野菊に困った表情の夢茨は声をかける。
「夢茨様、どうぞお茶です」
野菊はお盆に乗せた湯呑みを持ち夢茨のそばに座って差し出す。
「あ、……ありがとう」
野菊からお茶を受け取り夢茨はお礼を言い、湯呑みを両手で包み込みながらお茶を飲む。
「野菊さん、先日も鬼と対峙していたんだし、ゆっくり休んでいてください」
夢茨は野菊を見て言葉を紡いだ。
「夢茨様も同様ではないですか」と笑いながら答えている野菊を見て苦笑いを浮かべた。
夢茨は、内心で(貴女がここに来たのが理解できないんだけど……)と声には出さずに笑みを貼り付けて困ってしまって居る様子だ。
「ところで」と野菊は身なりを糺して夢茨を見つめる。
「なんでしょう」と湯呑みを盆に置いて真剣な目を野菊に向けて次の言葉を待つ夢茨。
「心に決められたお方というのはどなたかお決まりのお相手がおられるのですか?」
野菊の言葉に夢茨は思考を止めて言葉の意味を考えた。
顎に手を置いて真剣に悩む夢茨を野菊は希望を浮かべた目でまっすぐ見つめていた。
夢茨は、野菊の意図を理解できずにその視線を受け止めてひとまずは、質問の意味を答えた。
「……ゆくゆくは、とは心の中に浮かんでいる人は居る。けど、多分、今はどうこうとかは考えてはないかな」と煉華を思い浮かべて言葉にしていた。
夢茨の言葉に野菊は「そこに、私は入れる余地はあるのでしょうか?」と小さな声で問うのと外からの大声が同時に上がっていた。
「……また、喧嘩してるのかな……」と夢茨はため息を吐きつつ立ち上がり声の発生場所に向かおうとしていた。
「そういえば、野菊さん、術士の子と一緒に行ってたよね……どうだったかな?」
始めて尽くしの鬼狩りだと天華さんや煉華さんと行くはずだったんだけど、と申し訳なさそうな表情で言う夢茨を野菊は考えるように目線を逸らして思考を巡らす。そして、思い出したと言うように手を合わせていた。
「良く、動いて下さいましたよ。良く役に立っていましたね」
野菊はうなづいて答えていた。
野菊の答えを聞いて夢茨はほっとした表情になり答えてくれた野菊に「ありがとう」と言い置いて声の発生源へと向かって行く。
「……一筋縄ではいきませんね」
野菊は爪を噛みつつ呟くのであった。
目の前で口論が始まり天華は頭を抱えていた。
些細なことで口論は手を出しての喧嘩になるのは早く、どう止めるべきかと言葉を探して居る中でどんどん激しくなる喧嘩。
「なんの喧嘩だよ!」
夢茨が声を上げて喧嘩していた2人の間に入ると2人はは口を噤み取っ組み合いの喧嘩は治る。
「だって……」
泣きそうな術士の子供を見て夢茨は焦る。
「だって、あいつ、穂香たちと鬼狩りに一緒に行ったのにあいつら無傷でこっちだけ重症の奴が多いんだよ」
夢茨は天華を見た。
泣きそうな術士の子を撫でながら「……治療は、したんですよ」天華は夢茨の視線を感じ、夢茨を見て答える。
「……聞き取りはまだ出来ないんですが」
天華は治療した子たちの容態を考慮してまだなにがあったのか聞き取りが出来ていない事を夢茨に伝えた。
「天華さま、緋流、穂香が目を覚ましたよ」白銀の髪と青い目の少年が歩いて、天華に声をかけて来た。
「雪太郎、ありがとうございます」
天華は少年の頭を撫でて、治療している部屋に戻って行く。泣きそうだった術の子も天華に付いて行ったのを見て雪太郎は夢茨を見た。
冷めた目をこちらに向けて「……聞き取り終わったら行くから落ち着くまでくるな」と冷たい声で言い置いて雪太郎は天華と緋流の消えた方へと歩き出していた。
天華は、穂香の側に座る。
「あ、天華様……」穂香は目一杯に涙を浮かべて声を上げ起きようと身体に力を入れたのを天華は、「大丈夫……」と穂香が起き上がらなくていいように手で制した。
「勝てる見込みのある鬼を当てたのですが、……手強かったのですか?」
穂香の頭を撫でながら天華は治療した組織の隊士の鬼の爪での大怪我を思い出して見つめていた。
鬼が相手で半分とはいえ鬼の血の入っているためか少し丈夫な人間である。
傷つけば痛いし、血が流れ過ぎたら治療をしたとしても、治療が間に合わなければ生命すら消える。
鬼が相手の傷ではないものもあり天華は戸惑いを隠せない状態である。
「ごめ……んなさい」と内心穏やかではない天華に穂香は涙を流しながら謝罪を口にした。
天華はどうして良いか悩んだが「生きて帰って来てくれただけで私は嬉しいですよ」と穂香に伝えて涙を拭いていた。
「そんなに謝らなくても良いんですよ」
天華は泣き続ける穂香を撫で続けている中で「今回組んだ奴、誰だっけ?」と緋流と雪太郎は話している。
今回の鬼退治は、足を引っ張られない限りは怪我なく終われる件であったと思っていたのは天華だけではなく、ここにいる術組全員の考えであった。
「次、僕行こうか?」
緋流の言葉に天華は首を横に振る。
「状況がわからないから緋流たちには行かせません」
「……次自分が行こうか?」と雪太郎は天華を見つめて問いかけて来ている。
「雪太郎、……駄目ですよ。絶対、反撃するでしょう」
呆れ顔で雪太郎を見て冷静に反論している。
鬼相手だったらそれでいいんですよね。と内心では考える。ただ、鬼の爪の傷の他に刀でつけられたと思われる傷があり、少し考えたくはないが悪い予感もある。
「いえ、私が復帰できます」
穂香は自力で涙を拭いて声をあげた。
天華は周囲を見回して「分かった」とうなづく。
「穂香たちの怪我が治るまでは代理で私が出ます」
天華の言葉に雪太郎は頭を抱えた。
「あんたこそ駄目なやつだろ。悪いことしないから俺に任せとけって」
雪太郎は声を上げる。
「なにかあったら手も出さないし、絶対に報告するから」
反論あるように口を開きかけた天華に雪太郎は反論の言葉を封じるように言葉を続けていた。
「……まぁ、わかった」納得してないだろう声色ではあるが、それでもうなづいた天華に雪太郎はほっと胸を撫で下ろした。
「雪太郎君、ごめんね」としょぼんとした穂香に雪太郎は「気にするな」と暖かい目を向けて笑っていた。
「じゃあ、夢茨に報告行ってくる」
雪太郎は立ち上がり天華もついて行くように立ち上がった。




