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夏の章 鬼灯が照らす灼くる季節 淡咲3


 夢茨(ゆめじ)は睡眠から醒めた。卓に着きつつ寝落ちていたようだ。

 久しぶりに夢刻(ゆめこく)の夢を見たなと、身体の筋を伸ばし白く輝く光る月を見ながら夢茨は思う。

「鬼でも協力してくれる鬼側の人はいるはず…………だけど、人喰い鬼からたすけた子どもたちは、怯えるだろうし」

 夢茨は呟く。

「今、保護している半鬼の子どもたちで鬼狩りと別に弱い鬼を保護する組織、作れないかな」

 しばらく思考の海に沈んでいたが「いや、ダメだ」と軽く横に首を振る。半鬼の孤児たちは、煉華が連れてきた子たちが多く夢茨が連れてきた子も居たが連れて帰っても怯えて隠れてしまう。

 今でこそ子どもたちは、夢茨に慣れて室内や、庭先を駆け回ってくれるようになった。

「半鬼の子は、大勢の人に追われてしまって、人を脅えてしまうだろうな」

 今日のお昼に島脇が訪れた時の状況を思い出しつつ悩む。

 島脇(しまわき)の訪問により、孤児たちにはまだまだ心の傷が残っていることも露見した。

「子どもたちの持つ悪い記憶を切り取ってしまえないかな…………」と静かに呟いている。

「悪い考えだ」

 いつのまにか月の光が遮られている。

 そして、障子の向こうに感じたことのない気配を感じた夢茨は身を固くする。

「だ……誰だ……?」

 声が出しづらく感じたが、掠れつつも音は出た。

「しかし、面白い考えだ。切り取った記憶や、感情を武器に転用してみたら?」

 夢茨の言葉を聞いてはいないかのように話は続く。

「面白くなりそうだから、一寸手を貸そうかと思った心優しいお兄さんだよ」

 薄らと障子の影くくくっと笑う様に身を震わせていた。

 たしかに耳に染み込んでくる声色は、優しいモノ。

 しかし、感じてくる気配は、優しいものではない。

「ヒトには無理だろうが、君と懇意にしている鬼なら感情など切り離してどうこうする術は知っているはずだ」

 笑うのを止めて話を続けた。

 ゆっくりと雲が晴れて月の光が戻り始める

「凄い業物になるかもな」と言い置いておや、時間だ……っと気配は、掻き消えていた。

 夢茨は、生きた心地がしなかった状況から戻ってこられて「一体、誰だったんだ?」と一筋脂汗が流れ落ちてきていた。


 愧焔(きえん)と話した事を煉華(れんげ)にも伝えておこうと寺院近くにきた天華(てんか)

 寺院から出てきた影に気づき扇子で氷の矢を放つ。

 人の物取りだと決めて氷漬けにして足止めの心つもり術であったのだが、「おや?……」矢を受け止めた影も天華に気づいた様で近くに生えている木の枝に軽やかに降り立つ。

 追いかけて向かい合う様に別の木の枝に降り立つ天華。

「心地よい冷感だったよー」

 氷を受け止めていた手を天華に向けて陽気な様子で手を振る。ヒトだと思って氷の矢の出力を加減を加えたせいで小さい凍傷すら残す事ができなかった様だ。

「煉華には気づかれなかったのに……」

「一体、何をしてるのでしょう?皪魄様」

 ブツブツ呟いている皪魄(れきはく)に天華は聞く。

「このまま食い散らしても力にならないし、なにより弱いままだと面白くないし……」ねっと笑って言う。

「現鬼王は強いままでいてほしいし、食物を献上するなら強くなってもらわなきゃ」

 俺いい弟じゃんと自賛している。

「役立たない半鬼ならおにーちゃんたちに喰われろよ」

 皪魄は天華を美味しそうな食べ物を見る様に見つめる。

「煉華に天華の二人位なら、今からでも頭からバリバリと食い散らしても良いんだよ?」

 静かに話を聞いていた天華は、皪魄に向かって扇子を振う。

 手加減ナシの最大出力の氷の矢を出現させた。

「……これは、……」

 幾十幾百と皪魄を氷の矢が囲う。

「再起不能にして差し上げる!」

 天華が宣言すると同時に皪魄に氷の矢が襲いかかる。

「……」

 皪魄は楽しそうに矢を掻い潜って天華に迫ってきている。

「ほんと規格外ですねっ」

 天華は避けるために枝を蹴り跳ね上がりながら追加の矢を放つ。

 血に染まりながら止まる事ない皪魄に天華は恐怖すら覚える。

「まだまだかな――」と呟いて皪魄は、天華に対して回し蹴りを繰り出しそのまま地面に叩き付けられた天華を見る。

 背中から叩き付けられた天華は一瞬息が詰まる。

 そして、痛みで身悶えて意識を手放していた。

「あら、……? やりすぎた?」

 天華の近くに降りて首を傾げる皪魄。

 まぁギリギリ生きてるか、と皪魄は倒れた天華に手を伸ばした。


 天華に皪魄の指先が触れたかと思った瞬間、冷たく白い光が弾けた。

 一瞬にして周囲を包んで光が消えたのち天華しか残っていなかった。

 

 天華の白い光が弾けた瞬間、煉華は書類から顔を上げた。

「この力……」

 天華の力を感知して煉華は、歩き出した。

 氷の矢が刺さったままの樹木や地面を見ながら天華を探す。

「……天……?」

 煉華は一瞬目を疑った。倒れた天華を中心にして周囲が1メートルくらい氷ついていたのだ。

「……はぁ、これは骨折れそうだ」

 煉華は、ため息着きつつ天華が無意識のうちに発動させている絶対零度の領域へ自分の保温しながら足を踏み入れた。

「天華、……起きろ」

 煉華は天華のほっぺを軽くたたく。

 敵意のない煉華の出現に領域は急速に小さくなり掻き消えていた。

 凍りついていた全てのものが元に戻る。

「ある意味、これ私じゃなくて、天華でよかったな……」

 煉華は天華を抱えて、寺院へと足を向けた。

「戦闘痕、何かあったのか…」

 夢茨が脳裏に掠めたため、早足で寺院へと急いだ。


 

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