夏の章 鬼灯が照らす灼くる季節 淡咲2
夢茨が敷地内に作った畑で作業をしていると「僕もやるー」と子供たちが走ってきている。
ボロボロの寺院内を夢茨は、鬼狩りの仕事をしながら方づているのを子供たちは分かっているようで動けることをやろうと動いているようであった。
「ありがとう。けど、ケガだけはするなよ?」
夢茨は笑って言うが、子供には重たい鍬を使おうとしているのを目にしてアワアワしながら作業を続けていた。
「夢刻の気持ちがわかったような気がする」と夢茨は遠い目で小さく呟いていた。
煉華はそんな夢茨を眺めている。
「おやおや、今になって夢刻の心労が分かるようになってきたか」
軽く笑いながらつぶやく煉華は、胸の中に暖かいものが満ちているのに気づいた。
(……この気持ちはなんだろうか)と首を傾げる。
寺院内で人が生活できるように復興できてすぐ島脇が訪問してきた。
外の門構えに人の気配がしたと同時に子供たちが散って隠れてしまった。
「たのもー」
声がして、玄関先から煉華は訪問客を見た。
黒髪を上の方で縛り上げ、意思の強い黒い瞳の男性が来ていた。
彼の気配に気づいた子たちは奥の部屋に隠れてしまったのかと納得した。
「……どちら様ですか?」
「拙者、島脇と申す。急な訪問申し訳ないが、茨殿はおられるか?」
冷たい煉華の言葉に島脇は一礼しつつ言葉を紡いだ。
煉華は「夢茨ならもうそろそろ戻ると思います。」と答えた後に 「子供たちがそれに怯えてます」と島脇の腰にある刀を指さして言う。
「次からは見えないように隠して来て欲しい」
煉華は夢茨の部屋に案内しながら島脇へ伝えた。
「了解した」
「煉華様……お、おちゃ……」
ぷるぷると震えながらお客様にお茶を用意して持ってきた少女。
「ありがとう」
煉華はお茶を持ってきてくれた少女へとお礼を伝え頭を撫でてお茶の乗ったお盆を受け取り島脇へとお茶を出した。
煉華に撫でてもらった少女は少し安心したようにパタパタと戻っていく。
「ふむ」
島脇は少し悩むような雰囲気を醸し出す。
「夢茨が孤児を受け入れていることは報告で把握をしておるが、鬼を狩る場所であのような子が生きていけるとは思えない」
渋い顔をしている島脇に煉華は目を閉じる。
煉華は子供たちの反応をみての島脇の言葉なのは理解していた。
「それは……本人が選択することだ。」
煉華は島脇をみて言う。
「それに、鬼狩りの実働の人員も揃ってもない。見ての通り日常の作業もあるそのような作業をして貰えるならありがたい限りだ」
「ん?鬼を狩っているのは……」
煉華の言葉に島脇は声を上げる。
「今、対応しているのは夢茨、私、……私の知人の数名だな。」
煉華の言葉に島脇は言葉を飲んだ。
遠くから近づく足音に煉華は気づいた。
「夢茨が帰ってきたようだ」
途中から走ったかのような足音に変化している。
廊下をドタドタと近づいて来る足音に島脇も廊下へと目を向ける。
「……島脇さん!来てたんですか!」
走ってきたのに息も上がってない様子の夢茨。
「夢茨殿、数人で鬼を相手にするとはすごいでは無いか」
島脇は夢茨へと声をかける。
「……俺は、まだまだです。煉華さんや、そのほかの人の方がすごいと思ってます」
夢茨は横に首を振りつつ寂しそうにつぶやく。
「……ところで島脇さん、急にどうしたんですか?」
「一緒に帝に会いに行ってもらおうと思ってな」
島脇は夢茨を見つめて言う。
「顔見せをしておけば後々も徴用されやすくなるだろうしな」
島脇は頷きつつ話を続けている。
「行っている間ちょっとこっちが多忙になるやもしれぬのでこちらから何人か人を派遣する」という言葉に夢茨はうなづいた。
「そして、お主これより鬼城夢茨と名乗ってもらう」
夢茨は島脇の言葉に石化したかのように止まっている。
「今後その名を使え」と言って全て伝え終わったかのように島脇は帰って行った。
「これは確実にここに留め置かれるようになったな」
煉華は夢茨を見た。
「夢茨さまー!」
様子を伺っていた子供たちが集まってきた。
「行っちゃうの?」
「刀持ったひとがいっぱいくるの?!」
不安を感じて涙目な子供たちが口々に夢茨を見上げて疑問を口に出してくる。
「今日来た武士の島脇さんに説明しておくから安心して、怖い人は派遣しないでくれと伝えておくから。なにかあったら煉華様に言いつけていいから。」
夢茨は泣いてしまっている子供たちを撫でながら言って行く。
夕ご飯を終わらせて布団に潜り込んだ子供たちを見つめた後に自分部屋に戻り、自分の幼少期のことを思い出していた。
月明かりを刀身が反射させて煌めいた。
そのまま刀を振り下ろされて父と母は倒れてしまった。
刀を持った粗暴な男たちの気配に母は必死に逃がしてくれたが、外を走っていたら、見張っていた男に見つかり刀を振り上げた。
夢茨は自信に振り下ろされつつある刀を見つめた。
殺されると思った夢茨は目をきつく閉じるが、来るはずの痛みが全然襲ってこず、逆に追いかけてきていた男たちの野太い悲鳴が聞こえてきた。
「すまん、状況判断で手加減し忘れていたようだ。……大丈夫か?」
前半の言葉は冷たさが含まれていたが、後半の大丈夫か?の響きは優しい声だった。
夢茨が目を開くと黄金色に輝く瞳と淡い紫の髪を緩くまとめている青年が山賊と夢茨の間に立っていた。
周りを確認していたら山賊は倒れていて既に息を引き取っていた。
カタカタと身を震わせて青年を見上げていたら、青年は肩から大きく息を吐くと黄金色に輝いていた瞳の色が消えて普通の琥珀色になっている。
「夢刻おじちゃん!?」
安心した夢茨は夢刻に抱きつき大泣きしていた。
「ああ、異変を感じて様子を見に来たらこんなことになっていたようだ。すまないな遅くなってしまった」
そんな夢茨を落ち着かせるために夢刻は背中を撫で続けてくれていた。
鬼だった夢刻が山賊達から夢茨を助けてくれていたのだ。
夢刻との仲はそこから始まっていた。
彼は何も残ってなかった夢茨に対して生きていく上での知恵と仕事に対する技術を色々と叩き込んで来ていた。
夢茨は、夢刻から教わったことや学んだことを保護した子達にまた教えて彼らの選択肢を増やして欲しいという願いがあった。




