陰キャでボッチな俺は、実は武術の達人。美人教師をDQNから助けたら、彼女と同棲して溺愛されるようになってしまった。
学校の女教師に溺愛されるようになった。
何を寝言を言っているのか、と思うかもしれない。
俺の名前は多田シンジ。
ごく普通の陰キャ男子高校生だ。
クラスでも一人で本を読んでいるばかりのボッチである。両親の海外赴任のせいで、家でも一人暮らし。
もちろん可愛い幼馴染なんているわけもない。
夏のある日の深夜。コンビニにふらっと出かけたら、帰り道に若い女性がいた。
しかもDQN風の男たちに絡まれている。
「ちょ、ちょっとやめなさいよ!」
あれ? クラス担任の西園寺アカリ先生だ。明るい茶色のロングヘアが印象的で、顔立ちも整っているし、スタイルも抜群。
男子生徒たちからものすごく人気だという。
そんな美人で有名な西園寺先生がこんな時間に何しているのか……。男たちは先生の白いブラウスや、紺のスカートをまさぐっている。
「放してっ! い、いや、やめて……!」
「そんなこと言わずにさあー」
「お、大声出すから……! んっ、んんー!」
男たちが西園寺先生の口を手で塞ぐ。
本格的に危ない。俺はさすがに放っておけず、西園寺先生のもとに行く。
俺は男たちの前に立った。はっとする西園寺先生。
「そこの人、知り合いだから放してくれないかな」
「なんだ? おまえは? 引っ込んでろ!」
俺に殴りかかる男たちだが、一瞬で返り討ちにあう。俺が全員、倒してしまったからだ。
男たちは呆然としていた。
「たった一人に、俺たちは全員やられたのか……」
「これでも一応、特殊な武術の有段者なんだ」
「くそっ! 覚えていろ!」
立ち去る男たち。茫然とする西園寺先生と、冷静な俺が残る。
「先生? 大丈夫ですか?」
突然、西園寺先生が俺に抱きついた。
「せ、先生?」
「こ、怖かったの……」
女の人に抱きつかれるなんて初めてだ……。じゃなくて! 甘いような、良い香りがする。
しばらく西園寺先生は俺に抱きついたままだった。俺はどうすればよいかわからず、すすり泣く先生を抱きしめていた。
やがて西園寺先生が一歩離れて俺と向き合う。
「学校の……多田君よね?」
「はい。えっと、先生は、家、このあたりですか? 送りますよ」
「ありがとう……。多田君って……すごく強いのね」
祖父にみっちり地獄のような訓練を仕込まれたからだけど……。
「強くても、俺は陰キャでぼっちなさえない男子高校生ですよ」
「そんなことないと思うけど。というか、なんでこんな深夜に一人で歩いていたわけ?」
「コンビニへ飯を買いに行ってたんですよ。そういう先生こそ、こんな時間に若くて美人な女性が一人で歩いてたら危ないですよ」
くすっと笑う西園寺先生。
「私は大人だからいいの」
「そう言ってたら、襲われたじゃないですか」
「それはそうだけど。というか、わたしのこと美人って言った?」
「事実ですから」
西園寺先生が頬を赤く染めて、視線をそらす。
「ふうん。多田君って一人暮らしなのよね」
「そうですけど……。よく覚えていますね」
「クラス担任だもの」
そんなことを喋っていたら、先生の家に到着した。
……けれど。
豪華なマンションだったが、驚いたことが一つある。
「せ、先生の住んでるマンションってここなんですか!?」
「なんで驚いているの?」
「俺のアパートの目の前なんです」
「え?」
俺と西園寺先生は顔を見合わせる。
「全然気づかなかった。わたし、最近引っ越してきたばかりだから」
「ま、まあ、ともかく、おやすみなさい」
俺はアパートに向かって帰ろうとする。
「ま、待って!」
西園寺先生が俺の手をつかんだ。どきりとする。
「な、なんですか?」
西園寺先生は顔を赤くしていた。たぶん、俺も。
「い、一緒にいてほしいの。怖かったから……」
「生徒にそんなこと言って大丈夫なんですか?」
「今は教師と生徒じゃなくて、お隣さんでしょう?」
西園寺先生が強引に俺を部屋に連れ込んだ。
俺は先生の部屋にお邪魔して、そして……。
西園寺先生がシャワーを浴びている。
お、俺がいるのに、無防備な……。
しばらくして湯上り姿の西園寺先生が現れた。バスローブだ。俺は目をそらす。
ほんのりと頬を上気させて、先生が俺を見つめる。
「多田くんも入ってきていいよ?」
「そ、それって……」
「へ、変なことをするつもりはないからね?」
「誤解されてもおかしくないと思いますよ」
「ほ、本当に怖いの。さっきの男たちがまた襲ってきたらって……」
不安そうな西園寺先生を見たら、放っておけなくなった。
「……わかりました。今日はここに泊まりますよ」
「本当!?」
「何かあったら俺が守ります。俺みたいな男でよければですけど」
「もっと自信持ってもいいのに、多田くんって強いだけじゃなくて、成績もすごく良いでしょう? 担任だから知っているの」
「だとしてもボッチで陰キャなのは変わりませんよ」
西園寺先生が俺に手を伸ばし、前髪を手で払う。俺はどきっとした。
「ちゃんと髪を切っておしゃれをすればカッコいいのに」
「も、もう寝ます!」
西園寺先生が、くすっと笑う。
「その前にシャワーを浴びないとね?」
俺は言われるがまま、シャワーを浴びて、そのまま俺は泊まってしまい……。
☆
翌朝。借りた布団で目を覚ますと、良いにおいがした。
リビングへ行くと……。
「おはよう。多田くん」
エプロン姿の西園寺先生が台所にいた。
「これは……」
「昨日のお礼」
豪華な朝食が食卓に並べられる。ものすごく手がかかっていそうである。
「お、美味しそうですね」
「実際に美味しいわよ?」
西園寺先生が微笑む。俺は席について、勧められるがまま料理を食べた。
「ほ、本当に美味しいです。これなんか絶品……」
俺が勢いよく食べるのを見て、西園寺先生は嬉しそうにした。
「そうでしょう?」
「先生は美人で人気者で、しかも料理も得意なんてすごいなと思いまして」
「べ、別に大してすごいことではないけれど……」
「先生の彼氏になったら幸せでしょうね」
西園寺先生が顔を真っ赤にする
「口説いているの? ……わたし、彼氏なんていないわ」
「そうなんですか?」
「悪い?」
「いえ、少し意外だっただけです」
「わ、わたし、まだ24歳だもの! 別に彼氏がいなくたって、結婚していなくたって焦るような年じゃないんだから!」
西園寺先生に涙目で睨まれ、俺は焦る。
「そ、そうですよね!」
「多田くんみたいな素敵な子がいれば、良かったんだけどな」
「え?」
「なんでもない! 忘れて。……朝ごはん、良かったらときどき食べに来る?」
「え? いいんですか?」
「もちろん!」
西園寺先生が花が咲くような明るい笑みを浮かべた。
☆
そんなわけで、俺は先生の家に入りびたるようになった。朝ごはんだけではなく、夜ごはんも一緒に食べるようになり、先生にご馳走してもらうようになった。
そこまでしてもらって申し訳ない気持ちもあったけれど、先生は嬉しそうで、強引にでも俺を家に連れてくるようになった。
今日は、俺と西園寺先生はテレビの前で格闘ゲームをしていた。先生はキャミソールにショートパンツというラフな格好だ。
「また負けちゃった。格闘ゲームも強いなんて反則じゃない?」
「鍛錬のたまものですよ。というか、先生の趣味がゲームだってことも意外でした」
「そう? わたしも普通の大人の一人よ。さあ、明日は土曜日だし、徹夜でゲームしましょうか!」
「泊まるのはさすがにまずいんじゃ……」
西園寺先生は笑う
「前もしたじゃない」
「最初の日に泊まっただけですよ……。あの日は不良に襲われたから特別です」
「わたしを守ってくれていたのよね」
ふふっと西園寺先生が笑う。
「やましいところがないなら、今日も泊まってもいいんじゃない?」
「それは……」
「それとも、なにかエッチなことができるって、想像してる?」
「そんなことはないですけれど……」
キャミソール姿の西園寺先生の胸元を、俺はつい見てしまう。豊かな胸の谷間がちらりと見えていた。
西園寺先生が頬を赤くして胸を手で隠した。
「今……わたしの胸をエッチな目で見ていたでしょう?」
「み、見ていません……!」
「ふうん。多田君も男の子なんだね」
「俺も馬鹿な男子の一人ですよ」
「わたし、若い女の教師だから、男子のみんなからいつもそういう目で見られるけど……多田君にはエッチな目で見られても、悪い気はしないかも」
「ど、どういう意味ですか?」
「内緒」
ふふっと笑う西園寺先生の可愛さに、俺は体温が上がるのを感じた。
☆
そんなふうに先生に甘やかされながら生活を送っていたある日の昼休み。俺がボッチ飯を食おうと学校の屋上に来ると……。
男子生徒と女性教師がいて、屋上で何かもめている。
「あれは……西園寺先生?」
男子生徒が西園寺先生の腕をつかむ。慌てて俺は近寄った。
「どうしたんですか、先生?」
「こ、来ないで……。わたしの問題だから」
「そういうわけにもいきませんよ」
男子生徒が冷たく笑う。
「おまえ、多田シンジだろう? 恋人のピンチに颯爽と登場ってわけか?」
「は?」
「あんたら二人が街で一緒に歩いているのを見ちゃったんだよ。だが、教師と生徒が付き合うのは禁止だろ?」
「俺と西園寺先生は付き合っているわけじゃない」
「嘘をつけよ。仮にそうだとしても、誤解されるようなことをしていただろ? このことを他の教師に言ったら、西園寺先生はクビかな」
たしかにまずいな……。
「黙っておいてやってもいいぜ。代わりに何をしてもらおうかな。西園寺先生に恥ずかしいことを……」
俺がどごっと男子生徒の腹を殴る。
「た、多田君?」
「西園寺先生に何かしてみろ。俺が許さない。このまま屋上から突き落としてもいいんだぞ」
「陰キャのくせに! 俺は空手部員なんだぞ!」
殴りかかる男子生徒に、俺はかわして反撃する。
「この程度か。……まだ続ける?」
床に転がされる男子生徒。俺に殺気ある目で見られ、彼はおびえていた。
「わ、わかった。黙っておくよ」
「もし先生に不利益になるようなことをしたら……」
「しない、しない!」
男子生徒が逃げ去る。残された俺と西園寺先生は、互いを見つめる。
「あ、ありがとう」
「いえ。先生のことを守るって約束しましたから」
「多田君……」
「でも、しばらく距離を置いたほうがいいですね。明確な証拠がないから、今回はなんとかなりましたけど、このままだと先生に迷惑をかけてしまい……」
いきなり西園寺先生が俺に抱きついた。むぎゅっと抱きしめられて、俺は慌てる。
西園寺先生の柔らかい胸の質感に、俺はくらりとした。
「せ、先生!? こ、こんなところ、誰かに見られたら……」
「屋上は他に誰もいないから平気。多田君はわたしのこと、嫌い?」
「そ、そんなことはないですけど……」
「だったら、距離を置くなんて言わないでよ」
「わ、わかりましたから! は、恥ずかしいから離れてください」
「これからもわたしの家に来るって約束してくれる?」
「もちろんです」
西園寺先生がとても嬉しそうに笑う。でも、先生は俺とくっついたままだった。
「恥ずかしがってる多田君も可愛い……」
☆
その日の夜。いつもどおり俺は西園寺先生の家で夜ご飯をごちそうになっていた。
豪華な食事を食卓の上に並べ、西園寺先生が胸を張る。薄着のTシャツ姿の西園寺先生の胸が揺れるのを見て、俺は赤面する。
「じゃーん!」
先生は自慢げだったけれど、自慢する価値のある夕食だ。
「すごく豪華ですね。しかも美味しい!」
俺が食べる姿を、先生は目を細めて幸せそうに見つめていた。
「多田君がそう言ってくれて嬉しいわ」
「いつもごちそうになってばかりで申し訳ないです」
「いいのいいの。多田君はわたしを助けてくれたんだし、それに、わたしが一人だと寂しいもの」
「でも……」
「あっ、そうだ! だったら、わたしが料理を教えてあげる。そしたら、多田君の手料理をごちそうしてほしいな」
「そんなことでよければ、いくらでもやりますよ。というより、教えていただけるなんて、むしろ俺がお礼を言うべき方ですね」
「わたしは教師、あなたは生徒だもの。わたしがあなたに教えるのは当然のことでしょう?」
「そ、そうでしょうか……?」
「でも、もうひとつお願い事をしちゃおうかな」
「どんなことでもお安いご用ですよ」
「『アカリ』って、下の名前で読んでほしいの。ダメかな?」
「だ、ダメなことはないですけど……急にどうして?」
「もっと君と仲良くなりたいって思ったの……」
甘えるように言われて、俺は拒否できなかった。
「……アカリ先生?」
俺の言葉に、ぱっと西園寺先生は顔を輝かせる。
「ありがとう、シンジくん。これからもよろしくね!」
「お、俺のことも名前で呼ぶんですか?」
「もちろん! ね、今日も泊まっていくよね?」
俺はなしくずしに、アカリ先生の家に泊まることになってしまう。
いつも風呂上がりの先生の際どい姿にドキドキさせられている。
間違いが起こったらどうするつもりなんだろう……?
男は狼なんだから。でも、アカリ先生なら「シンジくんになら、襲われてもいいよ?」と冗談を言いそうだ。
そんな俺の内心とは関係なく、アカリ先生はふふっと笑う。
「今日は添い寝とかしてみる?」
「遠慮しておきます……」
「残念」
本当に残念そうにアカリ先生は言い、そして、くすっと笑った。
これからも、俺はアカリ先生に甘えられ、そばにいるんだろうな、と思う。
そして、俺もそれを望んでいた。
お読みいただきありがとうございました!
面白かった、二人のこれからが気になると思っていただけましたら
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