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あなたの花に名前を付けるなら  作者: 蜜咲
2章
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月の光

 予定より遅くなってしまったため、私たちはレミナの転移魔法で家まで送り届けてもらった。レミナが得意としているのが風を扱う魔法のためか、転移が完了した際には突風で庭の草がざわざわと揺れていた。

「リュイ、大丈夫?」

「はい。えっと、本も無事です!」

 リュイは服の下から本を取り出し、傷が付いていないかその中身をパラパラと確認していた。


「じゃあ、家の中に入りましょうか」

 私が玄関のドアから中に入ると、リュイドアの前で立ち止まっていた。

「リュイ?」

「サラ、ただいまです!」

「……おかえりなさい?」

 私が不思議そうにそう言うと、リュイは楽しそうに笑っていた。リュイが楽しそうならまあいいかと考えていると、リュイは私に近寄った。

「おかえりなさいって久しぶりな感じです。僕はあまり言われたことがなかったので、こんな気持ちになるんですね!」

「これから時間はたくさんあるから、リュイが私の元に帰ってきたらいつでも言うと思うわ」

「ふふっ嬉しいです。サラ、ありがとうございます」

 リュイはそう言うと、本の続きを読みたいと二階への階段を上がっていった。そんな彼を私は見つめながら見送った。


 その夜、私はルカに頼まれた魔法薬を準備していた。魔法薬を作っている最中に、いくつか足りない材料が出たため、家の裏に採りに行くことにした。

 家の裏に続くドアをガチャっと開けると、少し肌寒い風が身体全体を包んだ。花の季節といっても、夜は冷える。そんな中、私は魔法で灯りになるような光を出して先に進んだ。

「これと、これ」

 ぶつぶつと呟きながら目的の薬草などを採っていく。両手いっぱいになったところで、私は家に帰ろうと足を踏み出した。

 あたりに甘い香りが広がった。何度か嗅いだことのあるこの香りに私は薬草を落とさないように急いで家の中に入った。

「リュイ! 起きているかしら!」

「はい。どうしましたか?」

 二階に向かってそう叫ぶと、リュイはガタっと中から出てきた。

「リュイ、少し珍しいものを見ることが出来るかもしれないわ!」

「珍しいものですか?」

 リュイは二階から降りてきて、不思議な表情をしている。そんなリュイに私は大きめのコップを手渡した。

「私はこの鍋と自分のコップを持っていくから、リュイは後ろについてきて」

「コップ……?サラが言うなら、僕もちゃんとついていきます」

 私たちは、家の裏の草むらをザクザクと進んだ。あたりには先ほどの甘い香りが広がっている。


「甘い香りがしますね」

「そうよ、この香りはある花の蜜の香りなの。その花は何年かに一度の周期で開花するのだけれどその時に大量の蜜を流すの」

「それで、鍋とコップなんですね。何か魔法に関係あるんですか?」

 リュイと会話をしながら進んでいくと、目の前に大きな木が見えてきた。その下には大きなツタが巻き付き、人間の頭くらいの大きさの花のつぼみがあった。


「さっきの質問に答えるとね……その花の蜜を口にしたものは寿命が延びると言われているのよ」

「寿命ですか?でも魔力を持つものは元から長い寿命を持っていますよね?」

「そうね。だから、これは魔力を持たない人間側の迷信というものになるわ。私は昔、その花の蜜の成分を調べてみたことがあるの。でも、蜜にそんな力はなかったわ」


 目の前の花のつぼみは、もうすぐ開花するだろうと思うほど大きく育っている。リュイは観察するようにそのつぼみをじっと見ていた。

「サラ……それじゃあ、どうして今日は蜜を採りに来たんですか?」

「この村の人たちは、この蜜が好きなの。それに本当に美味しいのよ。リュイにも一度飲んでもらいたかったから凄く良いタイミングだと思ったの」

 そんな話をしていると、月の光をさえぎっていた雲が流れ辺りは少し明るい月の光に包まれた。月の光を受けた、大きなつぼみはゆっくりと開花する。


 とろりと花の中から蜜が流れ出してきた。

 私は花の下に鍋を置き、流れる蜜をコップに満たした。

「はい、リュイ。飲んでみて?」

「ありがとうございます」

 リュイはコップを受け取ると、おそるおそる蜜に口を付けた。その瞬間リュイの表情はぱぁっと明るくなる。

「少し温かくて、飲みやすい甘さですね!」

 ごくごくとリュイが飲み進めるのを見ながら、私も花の蜜を味わった。

「もう一度飲んでも良いでしょうか?」

 そう言ったリュイに私はクスクスと笑いながら、リュイのコップをもう一度蜜で満たした。鍋のほうも、十分に満たされている様子だった。それでも花の蜜は、尽きることがないような勢いで流れ出ている。

 花の蜜は、月の光が届かなくなるまで流れ出ていた。私たちは月の光の中、出てくる蜜を味わいながら、少し暗い夜を楽しんだ。

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