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あなたの花に名前を付けるなら  作者: 蜜咲
2章
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街へ

 夕食の後どうやって自分の部屋に戻ったのか覚えていない。光の眩しさに目を開けるとベッドの中で、外は朝になった頃だった。私は勢いよく起きて、すぐに着替えた。部屋から出ると、家の中は食事を作っているようないい匂いに包まれていた。

「リュイ?」

 私が調理場に顔を出し確認すると、リュイが手際よく食事を調理していた。

「あっ、おはようございます! すみません、勝手に朝食を作っています。もちろん2人分ですよ!」

「そうなの?ありがとう」

 リュイは料理を作ることが好きなのだろうか。私は昨日の夕食の味を思い出してお腹がグゥと鳴った。

「サラも、お腹鳴るんですね」

「仕方ないじゃい……身体の構造は普通の人間と同じなのよ」

 リュイはくすくすと笑いながら、できた料理を机の上に並べていった。

「私はお茶の準備をするわ」

「あの甘いお茶ですか? 僕あの味大好きです」

「気に入ってくれて良かったわ」

 甘いあのお茶には、精神を穏やかに保つ効果がある。もしかしたらその効能が彼にも効いているのかもしれない。


 私たちは朝食を食べ終え、少し話をしていた。

「そういえば、昨日の手紙……大丈夫でしたか?」

「大丈夫よ。それにほら」

 私は一通の封筒をリュイに見せる。封筒の中の文書を机の上に置き、リュイにも見せた。

「この文書のこの部分にリュイが私の弟子になることを許可するって書いてあるの」

「文字がぐにゃぐにゃで読めません……」

「この文字も元は普通の人たちが使っている文字だったのよ。書く人が魔力を持っているとこうなってしまうらしいわ」

 リュイはその文字をじっと見ていた。おそらくリュイの魔力は安定していないのでこの文字がまだ読めないのだろう。


「大丈夫よ。魔力を安定させれば文字くらい読めるようになるから」

「安定……出来ますかね?」

「そうね。そのためには基礎を学ぶことが必要だから、今日は街の図書館に行こうかと思っているわ」

「街……。それは僕も一緒にですか?」

「ええ、そうよ。レミナにも色々と報告したいこともあるし、どうかしら?」

「ぜひ、一緒に行きたいです!」

 リュイはキラキラとした笑顔でそう言った。彼の回復した姿を見たら、きっとレミナも喜んでくれるだろうと私は思った。


 朝食の後片付けも終え、私たちは各々街へ行く準備をした。私はレミナに頼まれていた薬を袋に詰める。この薬を待ってくれている人がいるのは、自分が必要にされているように感じ少し嬉しい気持ちになる。

 準備を終え部屋を出ると、リュイも二階からパタパタと足音を立てて降りてきた。

「じゃあ、行きましょうか。徒歩になるけれど、リュイは大丈夫?」

「はい、最近歩けていなかったので丁度いいです!」

 私は玄関の扉を開け、外に出た。花の季節というだけあって、どこかの花畑の花の香りを風が運んできているのを感じた。その香りの中、私たちは街を目指して歩き始めた。

 街に着くと、いつもの活気ある街に戻っていた。この前の役人が来た時とは全然違う。

「サラちゃん、その子が例の子かい?」

「そうね。リュイよ」

「リュイくんか! これからよろしくな!」

 そう言うとその店の店主は、リュイに果物を渡した。

「ありがとうございます!」

 リュイがそう言うと、店主はリュイの頭を髪がぐしゃぐしゃになるほど撫でていた。


「じゃあ、また後で来ます」

「ああ! 果物を追加して待ってるよ!」

 店主は大きく手を振りながら私たちを見送ってくれた。


「リュイは、先にどっちに行きたいとかある?図書館とレミナのとこで」

「僕、図書館に行ったことがないので図書館に先に行きたいです!」

「わかったわ。じゃあ、先に図書館に行きましょう」

 私たちは、図書館を目指して街の中央に向かった。遠くに図書館が見えてくる。


「わぁ! この建物ゴツゴツしていますね。初めて見る形です!」

 リュイは、初めて見る図書館に興奮しているように見えた。

「リュイは、この図書館は初めて見るのね。あの扉が入口よ」

「重そうな扉ですね」

「魔力を持っていたら、小石くらいの重さしか感じないようになっているらしいわよ」

「そうなんですか……」

 私は少し考えてリュイに言った。

「リュイがあの扉、開けてみる?」

「えっ僕がですか! 出来るのかな……」

「弟子の許可が下りるくらいだもの。大丈夫よ」

 私たちはそう話しながら、図書館の扉に近付いた。リュイは緊張した表情で、扉に手で触れた。

 扉はギィっとゆっくり開いた。


「開いた」

 リュイは驚きとどこか嬉しそうな雰囲気で言葉を呟いた。

 リュイの背中を軽く押し、図書館の中に入る。いつもと同じ、図書館内は紙とインクの匂いが充満している。

 管理人がこちらに気付き、私とリュイを見た後小さくお辞儀をした。

「どうぞごゆっくり」

 管理人はそう言うとニコリと笑った。

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